8-4「海に住んでるリバーさん」

「それでこれからどこに向かいましょうか? 」


 目の前の人混みを見つめながらダイヤが呟く。


「とにかく前進あるのみだな」


「そうだね、街の奥なら事情に詳しい街の人がいるだろうから」


「んじゃあ、行くか! 」


 ダイヤの質問に剣の柄に手をかけながら答える。まさかそのまま剣を抜いたりしないだろうけれど気合を入れるためだろう。

 確かに、これだけの人混みを抜けるというのには気合を入れないといけなさそうだ。


 苦笑いをしながら俺は奥行き100メートルはあるだろうレンガ造りの宿屋が並ぶ中、その宿屋の列を綺麗に分けている1つの小道を指差した。


「それじゃあ、健闘を祈る」


「よっしゃ行くぜ! 」


「え、そんなに気合を入れることなのですか? 」


 そう言いながら勢いよく飛び出した俺たちの後を追うようにダイヤも歩き出した。


 ♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤


「ハア……ハア…………なかなかの強敵だったな……」


「ゼエ……ゼエ……そうですね、まさかこんなに苦しいなんて」


 人混みを抜け無事小道に入り込んだ後、ダイヤとスペードが息を切らし肩を上下に揺らしながら口にする。だがしかし、こんなこと毎朝の通勤電車に慣れていた俺では──


「ヒィ……ヒィ……何とか抜けたね」


 ────大丈夫なんてことはなくキツいものはキツいのだ。


 2人と同じように俺も肩を揺らしながら息を整える。しかし、もう地獄の時は終わったのだ。俺は身体を起こすと石造造りの建物が作り出す鮮やかな隙間が作る道に視線を移す。建物はその先の山の頂上にある展望台らしきものに続くように綺麗に並んでいた。


「んじゃあ、早速行きますか! 」


 そう言って早速スペードが近くにあった家の扉を開けようとしたその時だった。


「お父さん行ってきまーす! 」


 スペードが今まさに手を掴んで開けようとした扉が開いた。もちろん自動的に開いたのではなくたまたまそのタイミングで家の中にいた人物が開けたのだ。


「うわぁっ! 」


「きゃあっ! 」


 スペードが今まさに自分が開けようとした扉が開いたことから驚いて飛び上がる。それをみて出てきた髪を2つに結んだ赤茶色の髪の少女が姿を現し同じように飛んで驚いてみせた。


「どうしたんだ? 」


 騒ぎを聞いた彼女の父親らしき男性が険しい顔をしながらも姿を現す。


「ん? なんか用か? 」


 眉をひそめながら男が俺達に尋ねる。それに対してまず先に動いたのがダイヤだった。


「失礼しました。私たちは先ほどこの街についたのですがどうやら船が出ていないようでその原因を知りたくてこうして失礼を承知でお邪魔しました」


「なるほど、そういうことか。確かに今は船が出てなくて他の国に行くためにここを訪れたのは進めずこの街に留まる一方で不審に思うわな」


 そう言って男性は頭をポリポリと掻く。どうやら、ダイヤの言葉を信じてくれたようだ。


「あのね、海に大きな怪物が出たんだって。こーーーんなに大きいの」


 事情を知っているらしい少女はそう言うと両手を大きく広げた。


「怪物? 」


 そう尋ねながらダイヤが腰を下ろして彼女と視線を合わせる。俺達もそれに倣おうとするより早く少女が口を開いた。


「うん、リバーさんって言うんだって」


「リバーさん? 」


 ダイヤが首をかしげて尋ねる。


「うん、そのリバーさんが最近近くの海で暮らし始めたから船は出せないんだって」


 少女の話を聞いて俺の身体は固まった。


 なんてことだ、海に現れて何日も運航を止める事態を引き起こしたリバーさん……思い当たるのは一つしかない。そしてそのモンスターは正確にはリバーさんなんてかわいい名前じゃない! そのモンスターの本当の名前は…………


「リヴァイアサンだ。リヴァイアサンが出たんだよ」


 答え合わせをするように、娘の説明不足を補足するように、男性はそう口にした。




 








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る