8-5「海竜リヴァイアサン」
俺達は親子からリヴァイアサンの話を聞いた後に彼らの家を後にした。
彼らの話はこうだ。
父親である男性は漁師で何年も漁を続けここ数年は男手一人で彼女を育ててきた。生活は何とか安定していたのだが問題が起きたのはほんの数日前だった。
この街とは一切関係ない範囲にいたはずのリヴァイアサンが突如としてこの海域に現れたのだ! それによりこの街の船は幾つも航海中に破壊されたらしい。彼の話によるとリヴァイアサンは港に来ることはなくある程度行動範囲があるみたいなので今は迂回路を検討しているみたいだけれどそもそもの詳しい範囲をこれ以上の犠牲を出して測定するわけにもいかず、現状運航停止という方法で次の手を考えている。
といったことのようだ。
「しっかしなあ、なんで冒険者ギルドの連中はこの非常事態に何もしねえんだ」
スペードが石造の壁に腰掛けながら不満げに漏らす。
「この知らせが届いてないか、海での戦いが不利だからじゃないか」
俺が推測を口にする。話した通り海での戦いは危険だ。地上での戦いとは異なり自分たちは海を足場として使うことはできないことに加え相手が大きいとなると船が壊された時点でおしまいだからだ。
「確認するけど、リヴァイアサンってのは海竜のことでいいんだよね? 」
念のため、リヴァイアサンの解釈が異なっているということがないように尋ねるとダイヤが頷いた。
「はい、リヴァイアサンは海に生息している大きな竜みたいなモンスターだと聞いています」
どうやら、実はリヴァイアサンはこの世界では別の生物でした! なんてことはなさそうだ。いや、別の生物だとしても船の運航停止なんて事態が起きてる以上並みのモンスターではないか。
なんて自分にツッコみを入れながら前方に広がるミニチュアのような素晴らしい色鮮やかな街の様子を眺める。そう、俺達は今先ほど見上げていた展望台の上にいるのだ。その理由は、誰も見て生還した者はいないというリヴァイアサンの姿をこの目で確認するためだ。海での戦いになるというのなら用心するに越したことはないだろう。そう考えてこの場所に来たのだ。
勿論、ゴブリンだから視力がとても良くここから海にいるリヴァイアサンを眺めることができる──なんてことはなく今のままでは何も見えない。『強化の魔法』を使うのだ。『強化の魔法』で視力を強化してここから眺めようという作戦だ。偵察のためだけに使用するというのはフィードバックを考えるとしんどい話だ。2人にも反対されたけれど敵の情報がないこの状況では背に腹は変えられない。
「トーハさん、眼だけということもできますけれどどうしますか? 」
ダイヤが不安げに尋ねる。眼だけというのは船でみたけれど、ダイヤの『強化の魔法』は恐らく強力なものだ。これまでの身体への負担が目だけに来て「目がああああ! 」と目を押さえ叫びながら地面を転がる姿を想像する。
「…………全部でお願い」
考えた末にそう答える。すると彼女は頷き杖を構える。
「わかりました。それでは行きます! 『エンハンス』! 」
彼女が呪文を唱えて間もなく、俺の身体が赤いオーラに包まれる。そして全身からあふれてくる力を目へと集中させる。力の動きを意識したおかげだろうか俺の眼は目の前の家屋を越え遥か彼方の海がすぐ近くにあるように感じた。ただ、結局のところこの一転に集中させるやり方は無理があるのか既に警鐘を鳴らすように俺の心臓は早鐘を打っている。
時間は限られている。リヴァイアサンはどこだ?
焦る気持ちを押さえながら丁寧に探していく、水中は見えないためこちらとしては海上を頼りにするしかない。微かな変化も見逃すまいと波を見つめる。
「見つかったか? 」
スペードが尋ねる。
「いや、何もいな……」
何もいない、と言いかけたその時だった。紺色の長く太いゴツゴツとしているロープのようなものが視界に入った。そして次の瞬間、尖ったような口に鋭い目、恐ろしい牙を持った怪物が海中から姿を現した。
────リヴァイアサンだ。俺がロープだと思っていたのはリヴァイアサンの胴体だったのだ!
「トーハさん、顔色が悪いようですけどもしかして……」
「……見つけたのか? トオハ」
2人の声で我に返る。そうだ、こうしている場合じゃない。今回のこの一転集中は身体に悪そうだ。姿を見たのは俺だけなのだからフィードバックで寝込む前に情報と作戦を練らなくては!
「リヴァイアサンを見つけた。巨体に鋭い牙、そして鱗で硬いであろう胴体だ。時間がなさそうだからどこまで言えるか分からないけれど、今考えたリヴァイアサンを倒すための作戦を話すよ」
「もう考えたのか! ? 」
スペードが目を丸くする。
「まあ、ダイヤとスペードに凄い頑張ってもらうことになる作戦だけどね」
そう言って俺は苦笑する。
「でもその前に確かめたいことがある、ダイヤ」
俺はダイヤに視線を向ける。
「『小さくする魔法』の逆の『大きくする魔法』ってできる? 」
今回の俺の作戦はこの質問に対するダイヤの返答次第だった。彼女は数秒悩んだ後に小さく頷く。
「一応形にはできますがそれほどは……」
そこで言葉を切った彼女は深呼吸をして続きを口にする。
「……トーハさんが目覚めるまでに戦力に数えられるくらいに特訓します」
「ありがとう、心強いよ。それからスペード」
「なんだよ」
「ディール達と協力して船を2隻手配してほしい。それと雷の魔法は使えるよね、それをダイヤの『大きくする魔法』と合うようにタイミングを……」
「おい、それってまさか……」
「私の魔法でスペードさんの魔法を大きくするってことですか! ? 」
2人が互いに目を見合わせる。
「結構難しいと思うけど……お願い! 」
俺はそう言って手を合わせた。みると『強化の魔法』の赤いオーラが薄れかかっていた。もう時間はなさそうだ。最後に1つ2人に伝えるべく口を開く。
「色々話したけど、2人がリヴァイアサンを倒す良い方法を思い浮かんだら今話したことは忘れてそっちに集中してほしい」
俺がそう言い終わると同時にフッと赤いオーラが消えた。それと同時に身体に激痛が走る。
「あが……」
俺はフィードバックによりその場で意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます