8-3「運航停止」
「様子がおかしいってどうしたんっすか」
ディールが立ち上がり手綱を握っている店長のところへと歩き前方の景色を眺める。そして「あー」と納得したような声を出した。
「なんだなんだ」
「何かあったのでしょうか? 」
「とりあえず俺達も行ってみよう」
俺達もそれぞれが武器を手に持ち立ち上がるとディールの後に続く。
「どうしたのですか? 」
店長に声をかけながら前方を見る。しかし、前方には盛況なのか大勢の冒険者、旅行者らしき武器や荷物を持った大勢の人と青い綺麗な海の上に船が泊まり波が揺れている綺麗な港町の様子しかなかった。
「見たところ何もおかしくはないようですが」
もしかしたら『幻想の街』のように何か幻覚を見せられていて2人はそれに気が付いたのだろうか? そう考えながら2人の顔を見ると2人は険しい顔をしていた。
「まあ、確かに冒険者から見ればこれは何ともない光景だろうなあ」
店長が顎に手を当てたまま口にする。
「だがな、この街はおかしいんだ。まず、この街にこんなに人がいるところは見たことがねえ。それだけなたたまたまなのかもしれねえが次に気になったのは船の数だ。快晴だってのにこんなに船が泊ってるのはおかしいんだ」
そこまで店長が言うとディールが俺たちの顔を見る。
「店長の言う通りっす、いつもはこんなに人も船の数も多くないんっす、これは何かあったと考えるのが普通っすよ! 」
なるほど、2人にそう言われて改めて街を見ると確かに船も人も多い気がする。すぐ近くに宿屋のような建物が幾つも並んでいるのだけれどそこにも列ができていてこの異常性を表しているようだった。
「とりあえず外に出てみて何が起きたのか聞いてみるっす! 」
ディールがそう言って外に出て間もなくした時だった。
「あの? もしかして商人の方ですか? 」
数人の冒険者らしき集団の内の1人の男性が彼女に声をかけた。
「まあ、そうっすけど……」
ディールが今開店していいのか分からないのだろうおぼつかない様子で答えると男性は嬉しそうに手を合わせた。
「本当ですか? 実は僕旅の途中のモンスターとの戦いで剣が折れてしまって武器がないのですよ! かといってこの街は混んでいて武器屋もどこにあるかが分からないしで……よかったら商品を見せて頂けませんか? 」
嬉しそうな男性の様子を見ながらディールは店長に目配せをすると店長は頷いた。
「了解っす! じゃあ品を出すからちょっと待っていてほしいっす! 」
ディールはそう言って武器を持って品出しを始めた。
「手伝おうか」
「ゴブリンさん達にそんなことは……いやお言葉に甘えてお願いするっす! 」
笑顔でディールがそう答えたので早速近くにあった木箱を手に持った。彼女達を3人で手伝うこと数分、遂に全ての品を無事に並べることができた。薬品などはともかくとして武器は直接見て確かめてほしいという最近の店長の方針のようだ。
「じゃあ、これをください」
手に持ち振ったりして使い心地を確かめたであろう男性がそう言って満足そうに一本の剣を手に取る。
「まいどありっす! ところで、この街で今何が起きているか知っているっすか? 」
会計の途中にディールが世間話のように何となく尋ねる。
「どうやら、今船が全船運航停止みたいですね、詳しい事情は知らないのですが」
男性もそれに彼女の問いに世間話のように答えた。商人はこうやって街に馴染んでいくのだろうななんて考える。剣を購入すると男性は仲間であろう人達のところに嬉しそうに歩いて行った。
「どうやら船が止まっているらしいっすね」
一息ついたディールが言う。
「ありがとう。でもなんで止まっているんだろう」
少し嫌な予感がした俺はそんなことを口にした。
「この後嵐が来るのでしょうか? 」
「何か研究しているとかか? 」
ダイヤとスペードも疑問に感じたようで首をかしげながら呟く。
「まあ詳しいことは街の人に聞けば分かるんじゃねえか? 行ってみようぜ」
そう言いながら店長が並べた武器を戻そうと手をかけた時だった。
「お、あそこで店やってるみたいだな」
一人の冒険者のそんな言葉を合図に人々が次々にディールの店に集まりあっという間に長蛇の列が形成されてしまった。
「あ……どうします店長? 」
困り果てた様子でディールが店長に尋ねる。
「どうしますって言われてもなあ……」
店長も同じく困惑した様子だったが、何かを決心したようで俺たちを見た。
「すまねえが、せっかく来てくれたお客さんを帰すわけにもいかねえからよ、ここからは3人で情報収集してきてくれねえか」
「そうですね、了解しました」
そういうと俺達は馬車から出る。
「またあとで合流しましょう」
「何かあったらすぐ言えよ! 」
そんなことを言いながら手を振るダイヤとスペードを見て俺もディール達に向けて手を振った。
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