8-2「夕食の献立」

 俺とダイヤ、スペードは有難いことにディールの申し出で彼女の馬車に乗せてもらい次の街を目指していた。楽しそうなガールズトークを繰り広げる彼女達3人を見ながら移り行く景色を眺める。馬車は歩く冒険者や木々を追い越して颯爽と平原を駆けていく。


 思えばこうやって堂々と外の景色を眺めるというのはこの世界に来てからはなかったことだ。


「トーハさん! トーハさん! 」


「な、なに! ? 」


 ダイヤに声をかけられて視線を向けるとダイヤだけでなくスペードとディールも俺に視線を向けていた。


「あーこれは聞いてなかったなトオハ」


「まあ、何か考えてたみたいっすからね」


 2人の言葉が胸に突き刺さる。


「な、なにを言うんだ。そんなことは……」


「あーこれは図星だな」


「みたいっすね」


 やれやれと首を振る2人とは対照的にダイヤが朗らかな笑顔を向ける。


「今日中にブンセに着くかもしれないということで、今夜の夕食について話していたのですけれどトーハさんは何かリクエストがございますか? 」


「夕食かあ……」


 そう呟きながら頭を回転させる。街を歩けるようになったとはいえまだ兜の関係で食事がとれない俺にとって彼女たちが夕食を用意してくれるというのはとてもありがたいことだ。でも、難点が1つある。それが言葉の壁だ。

 慣れてきたとはいえ慣れないものは慣れなくて未だに元居た世界の料理名を口にして困らせてしまうことがある。故に俺はこういうのだ。


「キャレーで」


 キャレーというのはカレーではなく肉に野菜、乳製品を加えて鍋で煮込む俺のいた世界でいうシチューだ。これさえ覚えておけば彼女が尋ねる頻度からしても間違いはないのに加えて何より彼女のキャレーは絶品なのだ。本音を言うと毎日でも食べたいくらいに。


「またかよー」


 スペードはそう言いながらもなかなかに嬉しそうな表情をする。彼女もダイヤのキャレーが好きなのだろう。


「それでは、今日はキャレーにしましょうか」


 クスリと笑いながらダイヤが言う。なんだかんだ彼女にも予測はついていたのかもしれない。


「ダイヤさんのばかりかこんな大勢で食べるキャレーなんて……楽しみっす」


 ディールが心底嬉しそうに笑ったその時だった。ガクンと揺れたかと思うと馬車が停車する。


「ブンセに到着したぜ……だがなんだ、何か様子がおかしいな」


 店長がこちらを振り返らずに言った。

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