7-9「公衆浴場」♢
「これはこれは、ダイヤさんにスペードさん、奇遇ですねククッ」
船内でのスーツ姿とは異なりターバンで顔を覆った上から帽子をかぶると念入りな服装のダーン伯爵は愉快そうに私たちに声をかける。
「ここへはどういった御用で? 」
「なに、用があるというわけでもなく観光でね。今しがた着いたばかりでククッ」
「観光ということはこの街の存在を知っていたのか? 」
「ええ、知る人ぞ知る穴場スポットらしいですがね。ここに来るのをずっと楽しみにしていたのですよ。ここからチラリとみたところかなり綺麗な街のようですね」
そう言って門の中へと視線を移した彼に釣られて私たちも視線を移す。そこには、オシャレな衣装に身を包んだ人たちが石造の建物で店番をしている品ぞろえの良いフルーツを取り扱ったお店からたくさんの洋服が飾られた古着屋に書店、武器屋とニンビギ、クシスに負けずとも劣らないほどの発展している街の様子が目に入った。
「すげえな、こんなにすごい街なのに今まで知らなかったなんて信じられないぜ」
「穴場ですからね、ククッ」
感心したように言うスペードさんに上機嫌な様子でダーン伯爵が答えると1人で前へと歩きだした。慌ててスペードさんが引き留める。
「おいどうした? 何か用でもあるのか? 」
ダーン伯爵は足を止めると振り返り私たちを交互に見つめながら答える。
「いえいえ、ただ数日がかりで砂漠を越えた貴方方は向かいたいところがあるのではないかと思いましてね」
彼の言葉にハッとする。彼は遠回しに私たちを気遣って湯浴みを進めてくれているのだ。オアシスを見つけたもののあろうことか男性に勧められた湯浴みの機会を断る程の度胸は私にはなかった。
「そ、そうでしたね! 失礼しました! 」
そう言って頭を下げた私はそそくさと一人で浴場を目指して賑やかな街を歩き出す。
「お、おいダイヤ! 」
スペードさんの声がして慌てて彼女のことを思い出し振り返ると彼女が駆け足で追いかけてきた。
「ごめんなさい、急に歩き出したりして」
「いや、あんなこと言われたら無理もねえや、にしても何か誘導されてるみたいで癪だけど、浴場探すとしようぜ」
手を頭の後ろで組みながら彼女が言う。
私は彼女の言葉に頷くと華やかな街を浴場目指して歩き出した。
それからしばらくすると一回り大きな石造の建物が姿を現す。立ち止まり見上げるとどうやらここが浴場のようだった。不思議なことにこれだけ大きな街にも関わらず何人かの人はいたけれど店員さんを覗くとここに訪れたであろう人はそれほどいなかった。ここは本当に穴場ということなのかな?
「いくら穴場って言ってもこの豪華な建物とは比べ物にならないくらい空いてる街だな」
そうやらスペードさんも同じことを感じていたようだ。しかし、彼女は右手を軽く挙げてヒラヒラと振ると
「まあ、せっかくなんだからそういうことは後でいいか」
と言って浴場へと歩き出した。
「そうですね」
私はそう答えると彼女の後へと続いた。
受付で支払いをして公衆浴場なだけあって清掃された長い通路を渡り脱衣所にたどり着くと私は恥ずかしさを笑顔で誤魔化しながらもスペードさんに背を向けて荷物を横へ置くと衣服に手をかけ脱いだ服を壁に刺されている釘へとかける。次に身体に荷物を用意された鍵のついている箱に入れる段階で杖を持ってふと動きが止まる。
「武器はどうしましょうか」
彼女の方へ声だけを投げかけ尋ねる。
「鍵があるから盗難の心配はないと思うぞ、そもそもこの街そんなに人いねえしなあ」
と彼女の声が聞こえた。
「そうですね」
そう答えると私は杖を箱の中に入れて鍵穴に鍵を入れてカチャリと回し箱をロックすると布を身体に巻いた。
「じゃあ行くぞ」
スペードさんの声を合図に振り返るとそこには私と同じように布を身体に巻いた彼女の姿があった。
「どんな大きな浴場なのか楽しみですね」
「だな、久しぶりにサッパリしてえなあ、トオハには悪いが情報収集はその後だ」
そんな会話をしながら今度は浴場へと向かうらしい長い通路を歩いていた時だった。
「ギギギ! ギギギギォ! 」
けたたましい叫び声が響いたかと思うと私たちが進んでいた道の先からトーハさんより少し高い成人男性ほどの身長の3体のゴブリンが姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます