7-10「黒幕の正体」♢
「どうしてここにゴブリンが、くそっ! 下がれ! ダイヤ」
スペードさんがそういうと私を庇うように一歩前に出る。
でも今の彼女にも私にも武器がない。
「スペードさん、武器を取りに戻りましょう! 」
「ならダイヤ、頼む」
そう言うと彼女が私に鍵を手渡す。彼女はここで一人で3体のゴブリンを迎え撃とうというのだ。
「危険です! 剣がないともしかしたら……」
最悪の結末が口に出せず言葉に詰まる。
「心配するな、どういうわけか奴ら武器をもってねえ、これなら何とかやり過ごせるかもしれねえ。だから頼む! 」
彼女と目が合う。その眼には私が何をいっても考えを曲げないという決意が秘められていた。
「わかりました、お願いします」
そう言って
「くそ、挟まれたのか! なんでこんなことに! 」
3体のゴブリンと格闘を繰り広げているスペードさんが気配を察したのか舌打ちをする。
「待ってろダイヤ、今行くぞ! 」
彼女の声が聞こえた。スペードさんが駆けつけてくれるのは心強い、でも彼女に甘えて一度に6体のゴブリンを武器なしで相手にするのは彼女にとっても分が悪いだろう。私だって冒険者の一人なのだ! 杖があってもモンスターとの戦闘では援護しかできないのにこういう時でさえ何も力になれないのは2人に申し訳がない。
「大丈夫です、私1人で切り抜けるのでスペードさんはその前方のゴブリンをお願いします! 」
私はそう言うと3体のゴブリン目掛けて勢いよく駆けだした。それをみてゴブリンがニヤリと笑う。その姿に恐怖を感じつつも状況を分析する。
3体のゴブリンに対して私に武器はない。だからこうやって速度を緩めずに突進をするしかない、いや! 1つだけある!
作戦は決まった。私は自らの身体を包んでいる布に手をかける。
1歩、1歩、足を前へと進ませるたびにゴブリンたちに近づいていく。彼らも私に向かった走ってきているのであと数秒もあれば接触するだろう。近づくたびに恐怖で足がすくみそうになるのを布を持つ手に力を込めることで封じ込める。
これで失敗したら終わり、これだけは失敗できない……大丈夫、今までのようにやればいいだけだから…………
自分に言い聞かせながら足を動かす。踏み出す1歩がとても大きなものに感じた。
「ギィギギギギギギ! 」
ゴブリンとの距離が迫ってあと2,3歩どちらかが詰めれば間合いに入るというところまで来た。そのせいかゴブリンが歓喜のような声を出す。
…………今だ!
バサッ!
私は身を包んでいた布を彼らの頭目掛けて投げる。結果は見事命中、ゴブリンたちは一瞬にして視界を失った。
「ギギ! ? ギギギギギ! 」
「ギギギギギ! ? 」
「ギギギョギ! 」
何が起こったのか分からないというようにゴブリン達が三者三様の声を上げてパニックを起こすと視界を取り戻そうと滅茶苦茶に暴れだした。私はそれを見ながらも素早くゴブリンのいないスペースを見つけてそこを通り抜けようとする。
────しかし、そうはならなかった。
「きゃっ! 」
不幸なことに暴れているゴブリンが突如出した足により足元を救われてしまったのだ。
ドンッ!
受け身を取ろうとするも身体を強打する。
痛い。
「うっ……」
余りの痛みにうめき声を上げる。でもここで倒れるわけにはいかなかった。これが最後のチャンスなのだ、脱衣所まで行って鍵を開け武器を取らなければスペードさんもやられてしまう!
「あああああああああああああ! 」
力を振り絞って立ち上がると再び脱衣所目掛けて走り出す。
ズキン!
先ほどとは異なり一歩踏み出すたびに激しい痛みが身体を襲う。でもここで立ち止まるわけにはいかない。私は歯を食いしばりながら脱衣所までの道をひたすら走り────遂に脱衣所に辿り着いた。
「やった……やりました」
脱衣所に辿り着いて歓喜の表情で脱衣所内を見渡したその時だった。
「ほう、ゴブリン数体で大丈夫かと思いましたがまさか貴方にそんな度胸があったなんて。正体を明かさずに済ませたいと考えていたのですがやはりガーネットは侮れないということでしょうか。キキッ! 」
脱衣所内に聞き慣れた男性の声が響く。私はあまりの衝撃に身体を隠すのも忘れて声のした方向に視線を向ける。
「え、どうして……」
そこには、ダーン伯爵が私に掌を向けて立っていた。
「ですが貴方の努力もここまでです。『スリプ』」
彼が呪文を唱えた途端私は途端に激しい眠気に襲われる。
「遂に、遂にあの憎きトパーズの妹を我が手に! ご安心くださいダイヤさん。もう少しでお兄さんと同じ所へと送って差し上げますからね」
彼は……何を言っているのだろう。
必死に彼の言葉の真意を探ろうとするも頭が働かず何も浮かばない。そもそもなぜこのような状況になっているのかさえも分からないのだ。そのせいなのかふとトーハさんの顔が浮かんだ。
それを最後に私は意識を失った。
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