5-6「強化の魔法」
「『強化の魔法』……ですか? 危険です! まだどれほどの効力を及ぼす魔法なのかもわかっていないのに……」
ダイヤが目を見開いて必死に否定する。彼女の気持ちは理解できる。『強化』というだけあって身体能力があがる、それは分かる。
しかし問題はどれほど強化されるのかを把握できていないことだ。ダイヤの力なら忍者に劣るなんてことはないだろうと思うけど程度が分からない。
例えば、俺が走ったつもりでも城の壁を突き破り屋根を越え気がついたら真っ逆さま……なんてこともあり得るわけだ。
そういう加減の調整の問題もあるのでぶっつけ本番というのは危険な賭けに思える。でも、今の俺にはこれしかない!
「強化だと……させんっ! 」
そう言うと忍者は俺目掛けて走ってくる。大人しく魔法を発動させてくれるわけではなさそうだ。
俺は一歩前に踏み出し間合いをずらすとクナイを力任せに弾くとバックステップで壁まで近づく。やがてドン! という音とともに背中の衝撃が壁に着いたことを知らせる。
「何をするかと思えば自ら壁際に追い詰められるとは何のつもりか分からんが覚悟! 」
忍者が右に、左に、正面にと次々とカウンターを防ぐために位置を変えながらこちらへと近づいてくる。それをみて俺は歯を食いしばる。
俺が壁際に追い詰められたのは背後から狙われるのを防いで忍者の狙いを絞るためだ。奴はダイヤに俺を痛めつけることによって『盾の魔法』を解除させることを目的としている。それならば心臓や頭を狙われることはないだろう。
となると候補は腕か脚か腹かのいずれかとなる。その中で咄嗟の回避が困難な部分は……腹だ!
俺が結論を出すとともに忍者が手裏剣を投げる。その手裏剣の軌道に右手で軽く握った剣の先端をあてる、想定通り手裏剣の後ろに手裏剣を隠す戦法だったようで1枚目を剣の先端で軌道を変えその弾かれざまに隠されていた2枚目を剣のギリギリ根元で防ぐ。しかし、十分に力を入れておらず勢いを返せなかったため剣は俺の左側へと飛ばされてしまった。
カランカラン! と剣が落ちる音がするとともにクナイを構えた忍者が目の前に現れる。奴の作戦はこの手裏剣による誘導だったのだ! 俺はすかさず左手を腹を覆うように突き出した。
俺の読みは当たっていたようでグサッ! という音と血しぶきとともに俺の左手にクナイが突き刺さる。手を貫かれたことによる激痛に襲われるが今はそれに呻いている場合ではない!
「貴様、まさか! 」
忍者に向い微笑みかけると右手で彼の右腕を掴み引き寄せるとともに右脚をあげて思い切り蹴とばした。
「ガハアッ! 」
忍者は勢いよく向かい側に飛ばされ仰向けになる。その隙を見て俺はダイヤに声をかける。
「ダイヤ、頼む! 」
俺の左手をみて彼女にも覚悟が通じたようだ。彼女は力なく頷くと杖を掲げた。
「『エンハンス』! 」
ダイヤが呪文を唱えた直後、俺の身体に異変が起きる。俺の身体が彼女の魔力なのか赤いオーラを纏ったのだ。それだけではなく身体が急激に軽くなった気がする。今まで限界だと感じていた身体が嘘のようだった。
「魔法は防げなかったか。だが、たかが魔法1つでそこまで変わるものか! 『分身の術』で一気に攪乱して」
忍者が悔しそうに言った後に俺に向って3人に分身したようにみせかけ近づいてくる。その時、『強化の魔法』で目も強化されたのだろう。彼が何度も地面を蹴り交互に移動しているのが見えた。
急速に動いているとはいえ法則はある。奴は左→正面→右→正面→左と必ず正面を挟んで分身しているように見せかけている。そして今左に移動した、なら次は……
俺は思い切り床を蹴り正面の忍者に近付いた。
「バカな! 其方がそこまで速く動けるはずが! 」
自分の正確な位置が判明していることと今までの俺のスピードからは考えられないほどの速さで一気に距離を詰められたことに面食らった隙をついて先ほどと同じように蹴りを喰らわせた。
「うおおおおおおおおおおおおおっ! 」
悲鳴をあげながら蹴り飛ばされた忍者は勢いよく壁をぶち破り屋根へと転がり落ちる。
「行ってくる」
俺は先ほど落とした剣を拾うと彼女に声をかけ、奴が作った穴から屋根へと向っていった。
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