5-5「忍者は何人じゃ」
ダイヤの『盾の魔法』に阻まれ階段へと向かえなくなった忍者は俺に向きなおった。奇しくも彼女の呪文によりスペードだけではなく俺もタイマンの状況となったのだ。
「其方らには一本取られたが……それも無駄なことだ。そこの魔法使い、通さぬと言ったが仲間がやられたとなってはどうだ? 」
そう言いながら印を結ぼうとする。
「させるか! 」
俺はすぐさま床を蹴り飛び交かった。
「遅い! 『分身の術』! 」
忍者はそう言うと一気に2人に分身し1人が俺の剣をクナイで受け止めた。そこにもう1人が左横から手裏剣を投げる身体を後ろに仰け反らせ手裏剣を避けることには成功したが体制を崩した分剣で押さえる力が弱まり剣を掃われてしまった。
「ほう、これすらも防ぐとは……だがこちらも遊んでいる場合ではない『分身の術』! 」
更に印を結び4人に増える。
「あのスペードとやらがいればこんな隙を与えずにこれ以上分身を増やすことはなかった……そうは思わぬか? 」
4人の忍者が憐れむように言いながらそれぞれが手裏剣を構える。そして文字通り四方から手裏剣が放たれた。
避けるなら右か? 左か? それともしゃがんで下か? いや……上だ!
瞬時に判断を下すと俺は勢いよく床を蹴り天井まで飛び上がった。下を見るとさっきまで俺が立っていたところを綺麗に4等分するかのように手裏剣が通過して壁や床に刺さる。
「見事、ならば! 」
俺が着地すると4人同時に忍者がクナイを構える。4人同時に接近戦を仕掛けてくるつもりだろうか。ならば……
「くらえ! 」
俺は事前に目をつけていた落ちていた手裏剣を2枚拾い忍者目掛けて投げる。不慣れながらも空気を切りながら2人の忍者に命中する。すると2人の分身がスッと一瞬消えるもすぐさま現れ再び2人になる。更に転がるように2枚拾い残りの2人目掛けて投げる。またもや命中したかと思われた忍者の分身は消えるもそれは一瞬のことで再び4人になった。
「そんな、4人のうちどれかは本体のはずなのにどうして! 」
俺達の闘いを食い入るように見つめていたダイヤが驚きの声をあげる。彼女の言葉通り、分身したとはいえ4人のうちどれかが本体なのだから4人全員に攻撃をあてて全員が無傷という状況はあり得ないのだ! どこかで素早く入れ替わったのかあるいは……
俺はある仮説を立てて忍者の方へと走り先頭の1体に向って右から斬りかかった。すると忍者はこれまでのようにクナイで受け止めようとするのではなく黙って攻撃を受けた。
だが俺に手ごたえはないどころかダイヤが叫ぶ。
「トーハさん、後ろです! 」
彼女の言葉通り後ろに気配を感じる。
「もらった! 」
そう言ってクナイを俺の背中目掛けて突き刺そうとする忍者。だけど…………その動きは想定済みだ!
俺は斬る時に軸足にした右脚にグッと力を入れ回転する。そして忍者のクナイ目掛けて思いっきり剣を振るった。
ガキィィィィン!
刃物と刃物がぶつかる激しい音がした後に忍者は吹き飛びダイヤの盾に叩きつけられた。
俺の狙いはまさしくこれだった。1振り目はただのブラフで本命は奴が躱し攻撃を仕掛けてきたあとの2振り目……『連続斬り』だ。
「トーハさん、まだ3人の分身が…………え? 」
4人いる分身の1人に時間を取られている俺に警告しようとしたダイヤが目を丸くする。振り返ると俺の仮説が正しかったことを証明するかのように分身の姿は消えていた。
「『分身の術』っていうのはただ超スピードで分身しているように見せかけていた。そういうことだよな? 」
俺はよろめいている忍者に声をかける。すると忍者は答える。
「既にこうも防がれてしまっては隠す必要もあるまい。いかにも、拙者の『分身の術』の正体はスピードによる錯覚。分身を作れるわけではないが先の様に何れかが本体と錯覚した者にはその誤認故こちらに有利になることもある。だがそれが分かったところで何もできまい! 」
「待った! 」
再び戦闘を始めようとする忍者を俺が遮り尋ねる。
「ついでに聞かせてもらえないか? どうして貴方が御館様とともに現れ今もなお従っているのかを……今の御館様のしていることを知らないわけではないだろう? 」
「時間稼ぎか? 」
「いや、スペードの命がかかっているから時間をかけたくないのはこちらも同じだ」
言葉通りスペードにタイマンさせるのが最良だったとはいえ万が一のピンチの時に助けられないというのはこちらの想定外なのだ。それを聞き時間稼ぎでないと見たか忍者はクナイを下ろした。
「……よかろう。簡潔に話す、拙者は御館様の戦に病を患い駆け付けることが出来なかった。御館様はその戦で命を落とした。【拙者が駆け付けていたら結果が変わっていたかもしれない】その時の拙者の後悔が分かるか? 」
それを聞いて俺は胸を締め付けられる思いがした。もしダイヤやスペードのピンチの時に俺が不在で駆け付けられなかったら……? そう考えるとこの忍者の気持ちは痛いほど分かる。だが……
「でも、それと今の民を殺して回っている御館様は関係ない! 誤った行動をしていたら止めるのが部下のやることじゃない…… 」
そこまで言って言葉に詰まる。ふと俺の上司の顔が頭を過ったのだ。彼は俺の意見を聞き入れようともしなかったし俺も出来る限り彼には何も言わんとしていたのだ。
「……どうした? 」
言葉に詰まった俺に忍者が訝しげな視線を向ける。
「いや、言ったところで意見を聞いてくれない人っているよな」
多分御館様もそういう人だったのかな……という推測と上司のことを思い呟く。それを聞いた忍者はわなわなと震えた。どうしたのかと疑問に感じた次の瞬間
「貴様! よりにもよってそんなことを! 御館様はそんな人でなしではない! 拙者たちばかりか民の言葉にも耳を傾ける素敵なお方だった。この城下町に建てられた城こそがその証拠だ! 」
忍者はこれまでの冷静な言動が嘘のように激高した様子で言った。
「だったら何で! 今では民を殺して回っている御館様の行動に何も言わない? 止めようとしない! 」
「俺と違ってちゃんと部下の言葉にも耳を傾けるいい人に巡り合えたというのに……」という思いを込めて叫ぶ。
「黙れ! 殺して回っているのではない。決闘をしているのだ! 御館様は死の淵に考えられたのだろう。【もっと民が強ければ……】と。その後悔を組んで今決闘をして回っているのだ! その意思を戦場にいなかった拙者がどうして止められるというのだ! それに拙者は御館様の死を知った時に決めたのだ! 祈ったのだ! もし【次があるのならば最後までお側でお仕えし守り抜くことでお役に立とう】と」
忍者も負けじと言い返す。慕っていた人が死んだときに願った想い、そこまで言われたら俺に返す言葉はない。
「……話してくれてありがとう。貴方の気持ちは痛いほど分かった。でも俺は民を殺した御館様を許せない……結局は戦うしかないんだな」
「そうか、時間の無駄だったな」
俺が剣を構えたのを見て忍者はクナイを構える。
……無駄なんかじゃない、倒すとは言え貴方の覚悟は十分伝わった。なら俺も覚悟を決めなくては。
「ダイヤ」
俺はダイヤに視線を送り声をかける。
「『強化の魔法』を頼む」
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