5-2「天守閣へ」

「よし、行こう! 」


 ムラサイの街の外の海岸で合流したオレはスペードの話を聞くとすぐさま身体を拭きダイヤのバッグへと入った。行き先は勿論ムラサイの城だ。潔く言っておいてバッグに入るのは格好つかない気もするけれどそれは城までの辛抱だ。


「なあ、魔王のペットって呼び方やめねえか」


 道中スペードがこんなことを言った。「どうしてですか? 」とダイヤが尋ねる。


「だってよ、魔王からすればペットみたいなもんかもしれねえけど、こんな残酷なことしでかす奴らをペットなんて可愛い呼び方で呼びたくねえじゃねえか」


 なるほど、一理ある。


 ダイヤもそう思ったようで「ええ」と同意を示した。それを聞いて嬉しそうにスペードが続ける。


「だろ? だからよ、今度からは魔王のモンスターって呼ぶことにしようぜ! 」


 そんなわけで、これからは『魔王のペット』ではなく『魔王のモンスター』と呼ぶことになった。


「トーハさん、もう大丈夫ですよ」


 話をしている間に城に着いたようだ。ダイヤが立ち止まりオレにそう伝えるようにバッグを地面に置いたので外に出る。途端に大きな城が視界に飛び込む。後ろを見ると大きな門が開け放たれておりその先には大きな橋に民家がずらりと並んでいたのだが2人の言う通り明かりもなく物淋しい雰囲気を醸し出している。


「恐らく敵は御館様というだけあって天守閣の最上階だろうね、どこかに隠し扉か何かがあると思う」


 2人は黙って頷く。恐らく最上階に何かしらの仕掛けがあるだろうというのがオレの推測だった。


 3人で城を歩いて天守閣を目指す。道中分かれ道ばかりか階段の壁際に侵入者を迎撃するためであろう三角のような形の隙間が出来ており、兵士たちもここの御館様と一緒に蘇らなかったのは不幸中の幸いだと思った。


 階段を上り天守閣へと到達する。しかし、このまま突入しても坂道で体力を消費したので回復のために少し休んでいるとスペードが真剣な顔をして口を開いた。


「御館様なんだけどさ、オレにやらせてくれねえか? 」


「それはあまりにも危険です! 」


 オレもダイヤと同意見だった。これまでサイクロプスにケルベロスと戦ってきたけれどどれも1人の力では到底太刀打ちできなかったので1人で挑むなんて無謀だと思う。だが……


「1人で挑むというのは今回は良い策だ。そしてこの中で御館様と1VS1の真剣勝負をするとなったら一番勝算があるのはスペードだと思う」


 思ったことを口にする。と即座にダイヤに「トーハさん! 」と窘められる。


「ダイヤの気持ちも分かるけど、今回の相手は話を聞く限り人型だ。人相手に複数というのは失敗すると逆に不利になることもある」


「よし! じゃあそれで決まりだな! 」


「とはいえだ、危なくなったらすぐ乱入するから」


 オレはスペードに釘を刺すように言う。


「分かってるよ、力足らずで危なくなったらオレも潔く諦める」


 腕を後頭部で組みながらスペードがあっさりと言った。それを聞いてダイヤが胸を撫でおろす。


「よし、それじゃあ行こうぜ! 」


 スペードを先頭に俺達は天守閣を上って行った。中は外観とは一転して木造建築なのが分かる創りだった。階段を登って天守閣を目指すも階段は人1人が渡れるほどの幅で段差も1段1段が高くこれまた体力を消費してしまう作りになっていた。


 ここを人1人の狭さなので敵が1人で登ろうとしたところを段差で体力を奪いつつ登り切ったら待ち構えていた城の部下たちが返り討ちにするのを狙っているのだろう。つくづく部下がいなくて良かったと思う。


 そして辿り着いた天守閣、これまで程広さはなく部屋の1ルームより少し大きいと言った様子で四方には窓がついていて部屋の中央にはケースの中に鎧があったであろうスペースのほかに1本の刀が飾られていた。


「やっぱりどこにもいねえな」


 夜なので隠し扉から出てきていることを期待していたのだろうかスペードが苦々しげに言う。


「どこにスイッチがあるかも分からないからくまなく探そう」


 俺の言葉を合図に天守閣での探索が開始された。

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