5-1「御館様の幽霊」♢
船はトーイスに到着し、ウィザーさんたちとお別れを済ませスペードさんが犯人を見つけたことへの感謝と現場を荒らした件でしっかりとお叱りを受けた後、船から降りた。
「ああああ、久しぶりの大地だあああああああああ! 船も良いけどこう大地を踏みしめるのもいいなあ。それにしても、何だこの街は剣士しかいねえのか? 剣も木刀みてえにヤケに細いし髪型も変わってるし変わった街だなあ」
スペードさんが懐かしそうに足で地面をなでる音が聞こえる。
「えーっとこの街は……あっ! ありました! 父のメモによるとこちらはムラサイというお侍さんの沢山いる街だそうです」
私はおばさんから受け取った父からの小包に入っていたメモをみて該当ページを探し当てた後スペードさんに返答する。
「ええっ! ? この国は侍しかいねえのか! ? 」
彼女が驚き上擦った声で聞き返す。
「いえいえ、ここからしばらく歩いた街では雰囲気が変わるらしいですよ。どうやら街によってかなり雰囲気の違う国のようです」
「それはまた忙しい国だなあ。でも、侍か……戦ってみてえな! 」
そんな話をしながらしばらく歩くと先ほどの賑やかさが嘘のように辺りがかなり静かになった。
街の様子は侍の国というのもあり瓦の屋根に白い壁の家が多かった。しかしま日が落ちてからそんなに長い時間経っていないというのに街から少し歩くと人の数も民家の明かりの数も少ないというのはどういうことだろう?
「しかしこの辺は人がいませんね」
「とはいえ家は周りに幾つもあるんだ、なら聞けばいいだろ? 」
そう言い終わらないうちにスペードは「ごめんくださーい」と民家の扉を開き中へ入って行った。
「ちょっとスペードさん! ? トーハさんと合流が……待ってくださーい! 」
そう言って私はスペードさんの後を追いかけて民家の中に入って行った。
「ごめんくださーい。突然失礼しまーす」
スペードさんを追いかけて民家に入ると何と家の中はひっそりとしていて人っ子1人いないようだった。
「どうやら留守みたいだな」
「ですね」
「じゃあ隣の家にでも行ってみるか! 」
そう言って振り返り扉を出て帰ろうとしたとき、ガタっと何か音がした。そのあと「こら、おとなしくしていなさい! 」と囁く声がする。
「なんだ、誰かいるみたいじゃねえか! 」
スペードさんがニヤリと笑う。何か凄く悪い人みたい。スペードさんの声を聞くや否や着物を着て髪を後ろに結んだ親らしき女性が姿を現した。
「ど、どうか! 息子だけはお許しください! 私なら連れて行っても構いませんのでどうか私だけは! ! ! 」
女性は額から汗を流し膝を床につけ必死に頼み込むように何度も何度も土下座をした。
「お、落ち着けって! 連れて行くって何のことだよ! 」
悪い人に見えたとはいえスペードさん自体は悪い人ではないので予想外の反応に面食らってしまったようだ。
「すみません、私たちはたった今この国に辿り着いた冒険者です」
私が彼女に冒険者バッジを見せる。それをみたスペードさんも続いた。
「よ、よかった。た、旅の者でしたか」
女性が心底安心したというに大きく息を吐く。
「誤解させて怖い思いさせて悪かったよ。それでなんなんだこの街は、港は何人か人はいたけど少し歩くと人っ子1人いないと思いきやこんなふうに隠れているなんて何かあったのか? 」
「それが………」
そう言って彼女は数か月前からこの街に起こる不思議な出来事について語り始めた。
この街には大きな城があり御館様が昔の城に住んでいたらしいのだが何十年も前に命を落とし跡取りもなく城に住む人がいなくなったらしい。
しかし、そのままにすると埃が溜まったりして汚れてしまう。それは忍びないとこの街の人々が当番制で城内の掃除をすることになったらしい。何年もそうしてきたのだが数か月前に事件は起こった。その日掃除当番だった数組の夫婦が斬殺死体となって発見されたのだ。
その翌日、街の男たちが離れたギルドまで行き冒険者を雇って数十人という人数で城の天守閣に向かうもそこには誰の姿もなかった。ただ、飾ってあった御館様の遺品である鎧だけがなくなっていたという。
結局謎のままで済まされたのだがその数日後、今度は街中で1人の青年が斬殺死体となって発見された。それを偶然目撃した男によると青年は真夜中刀を構え真剣勝負をしたらしい。その相手というのが、御館様だった! 正確には御館様の鎧が1人でに歩き刀を抜き勝負を挑み斬殺したとのことだ。
男がそのことを妻に伝え鎧の後をつけるといったその晩、その男は戻らず城の手前で心臓を刃物で一突きされた死体として発見されたらしい。それ以降、誰も夜中には出歩かないでいると今度は家の中で普通に暮らしていた一家が斬殺死体となって発見された。
それ以来、御館様は昼に獲物を見定め夜に斬り捨てるという推測が広まり昼間ですら腕に自信のある独り身もしくは冒険者以外は出歩くことは極力なくなったのだという。
その話を聞いてしばらくは誰も口を開かなかった。
御館様が民を襲う?
私は怒りと恐怖が入交り顔をしかめる。口を開いたのはスペードさんだった。
「クソっ! 無茶苦茶じゃねえか! ! 」
スペードさんは地面を蹴る。どうやら彼女も同じ気持ちのようだ。
「そんな口に出すのも怖いお話を話してくださりありがとうございます」
私は頭を下げる。
「よし、次の敵は決まったな! 」と力強くいうスペードさんに私は力強く頷いて答える。
「まさか、あんたたち! お止め! 返り討ちになるだけだよ! うちの主人だってそれで………」
「大丈夫だ! オレたちは負けねえからさ! ! 話してくれてありがとな、邪魔したよ」
そう伝えると踵を返し家から出るスペードさんを追いかける。
「悪かったな、勝手に約束しちまってよ。ああ啖呵切ったけどトオハが行かねえって言うなら考えるけど……あいつなんて言うかな? 」
再び人気のない街を歩きながらスペードさんが私に話しかける。
「いえ、問題ないと思います。あの人ならきっと……私たちと同じ気持ちになると思います」
そう応えるとスペードさんが二っと笑った。
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