4-7「小さくする魔法」

「できました! 」


 特訓の最中、ダイヤが大きな声を上げた。あまりに突然のことで面食らってしまったが「どうしたの? 」と尋ねる。


「遂に完成したんです! 新しい呪文が! ! 」


「「新しい呪文? ? 」」


 オレとスペードは声を揃えて尋ねる。


「はい、その名も『小さくする魔法』です! 」


「まんまじゃないか! 」と突っ込みたくなるのをグッと堪える。あの自信満々の様子からすると相当考え込んだのだろう。それが伝わったのかスペードもひきつった笑いを浮かべるだけだった。


「ど、どれくらいの力があるか見せてくれるかな? 」


 彼女はニッコリと頷き自分のバッグに向けて杖を構えた。


「『ミニムァム』! 」


 彼女が呪文を唱えるとみるみるバッグが小さくなっていき飴玉くらいの大きさになった。


「すごいよ! 」


 思わず俺も大声を出す。スペードもおったまげたという顔をしている。何という強力な呪文だろう……これさえあれば小さくして踏みつぶしてペシャンコにするの黄金コンボが完成してしまう! 魔王だろうが敵ではない! ! !


「いえいえ、ただ魔王達にこれが通用するかは分かりませんが…………これが通るなら今頃皆さん悩まされていないでしょうし」


 彼女が不安気に呟く。


 確かにダイヤの言うように今でも魔王達に人々が悩まされているということはこの魔法が通じていないということなのかもしれない。


「でもさ、今じゃその魔法使えるやつ少ないんだろ? 」


 スペードがフォローをするように言った。


 そうだ、単純にスペードの言うように今ではこの魔法を使えるものが少ないのかもしれない。


「まあ全ては次に魔王もしくはそのペットとやらに出会ったら分かるかな」


 俺が結論を言う。結局は戦ってみないことには分からないのだ。


「そうですね、この魔法があるからと慢心してはいけないと私も思います」


「まあ、この魔法だけで魔王踏みつぶしてはい終了! ってのも呆気ないよな」


 スペードが木刀で肩を叩きながらぶっきらぼうに言う。


「はい、ですから私はまだお時間もあるので次の魔法に取り掛かりたいと思います」


「もう! ? 少しくらい休んでもいいのでは………………」


「いえいえ、次にこんな平和な時がいつ来るか分かりませんから」


「そういや聞いた話だとここまででもかなりハチャメチャな旅だったらしいな」


 俺は思わず顔をそむけたがダイヤは微笑んでいた。しかし、1つ気にかかることがあった。始めの時はどの魔法を覚えるべきかと俺に尋ねていたのに今では尋ねて来ないでもう決まっているようだったのだ。だから聞いてみることにしよう。


「次は何を覚えるの? 」


 すると彼女は俺のほうを振り向いて笑顔で答える。


「はい、『強化の魔法』を習得しようかと思います」


「え、ダイヤが戦うの! ? 」


 魔法ではなく杖や剣を武器に前線で戦うダイヤ…………何というかあまりうまくイメージできない。


「いえ……ですがトーハさんが嫌なら私が戦います! 」


「つまりトオハにダイヤが『強化の魔法』をかけるってことか」


「はい、トーハさんさえよければですが……」


 スペードに対し頷いてからダイヤがこちらをみる。凄腕の魔法使いのダイヤがかける『強化の魔法』か……かなり強くはなれそうだがリスクも大きそうだ。しかし、俺の心は決まっていた。


「ダイヤがそれでいいなら是非お願いしたいな」


 ダイヤが俺のために何かをしてくれるっていうのなら断らない理由がない。身代わりになるとかなら別だが……


「ありがとうございます。それでは……失礼します! 」


 ダイヤは意を決したように俺に迫る。


 何だ?何をするつもりなんだ?


 俺がそう考えるもダイヤは俺に近付くのをやめない、やがて彼女は俺の顔まで到達し…………俺と彼女の唇がぶつかった。


「ダ、ダイヤ! ? 」


 俺は慌てて彼女から離れる。ま、待てもしかして俺たちは今……キキキキキキスをしたのか! ? ! ? ! ? ! ! ? ! ? あまりに突然のことで実感が沸かない。


「ダイヤ、これは一体? 」


 まだ半信半疑の俺は彼女に尋ねる。すると彼女は途端に頬をみるみる赤く染めて説明をした。


「突然申し訳ありません。こ、これが強化の魔法を人にかけるときに一番の近道だとこの本に……」


 ダイヤが顔を赤くしたまま視線を逸らす。


「なんだよその本! 何の本だ! ! 本当にそんなこと書いてあるのかよ! ? 」


 スペードがダイヤの手から本を受け取り本を読み始めてしばらくすると本当に書いてあったようで「マジかよ……」と絶句する。


「い、一応聞くけど初めてじゃないよね? 」


 突然のキスに驚いていたが俺はゴブリンだ! ファーストキスがゴブリンというのはあまりに申し訳ない。


「………………」


 彼女は黙ったまま答えない。まさか、本当に初めてだったのか! ? ちなみに俺は初めてだ! これは本当に申し訳ない、確かファーストキスに値段をつけると5万とかテレビで見たぞ……それで許されるはずもないけどとりあえず何とかしなくては! ! ! 俺があたふたしているのをみてダイヤが頭を下げる。


「申し訳ありません。私じゃ嫌ですよね」


「いいや違うよ! むしろ俺がそれをいいたいくらいだよ! 俺はゴブリンだからさ! ファーストキスがゴブリンだなんて申し訳なくて俺はどうしたらいいんだ! ? 」


「い、いえ! そんな! でしたらこれからも私と旅を続けてくれたらそれ以上のことはありません! それに他のゴブリンなら嫌でしたけどトーハさんとなら……」


「あ、ありがとう」


 考えがまとまらないのだが彼女が嫌がっていないようなのでお礼を口にする。しかし彼女は本当に俺で……


「おーおー熱いねー2人とも窓でも開けるかー・」


 そんな様子を眺めていたスペードが冷やかす。


「「そういうこと(じゃない! )ではありません! 」」


 慌てて否定するもダイヤとここで被ると余計に恥ずかしくなる。


「と、とにかくかなり時間がかかるとは思いますが、必ず習得して見せます! ! ! 」


 彼女は大きな声で答えた。


「う、うん。期待しているよ」


 俺もすぐさま答える。その横で


「『強化の魔法』か」


 と急に真剣な表情になったスペードが意味深に呟いた。

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