4-6「編み出せ! 必殺技! 」
「行くぞ! 」
「来い! 」
カン! カン! ガン! ガン! ガァンッ!
船が出発して3日ほど経過しただろうか。東の国トーイスにつくまでには14日程かかるということでダイヤは王様から貰った魔法の本から新しい魔法を習得するために勉強をしていてその間俺はスペードとディールの店で購入した木刀で撃ちあっていた。
俺からすればスペードの剣技を学べるし彼女からすれば突撃以外の戦法を編み出せる、とお互いメリットのある特訓だ。
ガァンッ! ガン! ガン! ガン! カン! コッ! ガン! ガン! ガン!
「そこだっ! 」
流石剣士志望2位のスペード、やはり技術は大したもので隙を作りそこに確実に木刀を差し込もうとしてくる。俺はそれを身長差とパワーで何とか補っていた。
「ふぅ……ふぅ……今日はここまでにするか」
「ぜえ……ぜえ……そうだな」
これでもかなり成長したほうだ。接近戦での1VS1の剣の撃ちあいのみとなるとてんで経験のない俺は、初日彼女の隙の無い剣技の前になすすべもなかったのだ。我ながらここまでよくついていけるようになったと思う。
「オレも結構勘が戻ってきてるのについてくるなんてトオハすげえな」
「そうか? それはたぶんスペードの教え方が良いからかな」
「そ、そうか///」
彼女が顔を背けて頭を掻く。お世辞ではなくフェンシングやらずぶの素人の俺がここまで撃ちあえるようになったので実際スペードの教え方はかなり上手だと思う。
「そんなに強かったのに何ですぐ猪突猛進ともいうべき戦法に頼ったんだ? 」
俺が質問をするとスペードがバツの悪そうな顔をする。しまった、触れないほうがよかったか! ?
「いやいいんだ、学校ではオレはあの戦法やると皆ビビって何もできなくなってたからな。オレなりの必殺技だったんだ。でもあのままやってたらオレはトオハにやられたようにどこかでくたばってただろうからこうみえて感謝してるんだぞ」
そう言って何かを思い出したようだった。
「そうだ、必殺技だ! ! オレは新しい必殺技を考えなきゃならないんだ! ! トオハもどうだ? 」
必殺技を考えるなんて意外な申し出だった。確かにそういうのはゲームとかではあるし昔は憧れていたけど………………そういう年でもないしな。
「いや、俺はいいや」
思えば昔から俺の口癖はこれだったような気もしながら今回も口にした。
「何だよノリが悪いなあ。でも必殺技ってのは大事だぞ? まずそれを撃とうと決めたときにテンションが上がることによりやる気が出る! そして口に出すことによりその技の動きを明確にイメージできる! ! そしてそして事前に名前を考えることで新たな戦法のインスピレーションにも繋がる! ! ! この3点から上位の上級者はやっているって噂だぜ! ! ! 」
「噂ってのは引っ掛かるけど確かにそう聞くと必殺技を考えるのも悪い話じゃないな」
「だろ! ? 」
スペードは俺が同意するとよほどうれしかったのかいきなり抱き着いてきた。
これは……柔らか…………ん? いいや、こういうのは口に出さないでおこう! 心なしかダイヤの視線を感じる気がする…………
「ダイヤはどうだ?」
スペードは気にせず次はダイヤに尋ねる。するとダイヤは本から視線をスペードに向けて答えた。
「私は結構です。魔法が必殺技みたいなものですから」
「確かにそうだな、オレやトオハと違い魔法使いは前から魔法を唱えていた。つまり始めから上位の冒険者だったということか! ! ! 」
………………そういうことになるのか? まあ、魔法使いが魔法を使うときに呪文を唱えるように必殺技を撃つとき名を叫ぶという感覚なのだろう。
「じゃあ、ダイヤにしばらく静かに魔法の勉強してもらうためにも個人で必殺技を考えるか」
スペードが囁くとそれに同意を示すために俺は頷いた。
彼女なりにもダイヤのことを気にかけていたんだな………………しかし、必殺技の名前か………………こう自分で考えるとなると色々と迷うな。
それから数時間、俺はアンティークの椅子腰掛けて必殺技の名前を考えるので頭を悩ませていた。スペードのほうを横目でみると彼女もなかなかうまく浮かばないようでうんうんと唸っている。
カタカナで統一か感じで統一か混ぜるかルビを振るか、必殺技というのもいろいろあって迷うな。
横文字で『クリティカルアタック』か………………いやダメだ! ならば『会心一撃』みたいな………………『連続斬り』をみたときはまんまではないかと感想を抱いたけどいざ考えると俺のも特に捻りがないな。
そう考えて頭を下げると蒼速の剣が目に入った。蒼速の剣は名前の通り抜群の切れ味の割には軽く速く震える代物だ………………そうだ! これを名前に組み込もう! 更に俺の接近戦での戦闘スタイルを考える。ゴブリンは力だ! ダイヤのような柔らかさではなくスペードのような硬さ………………! ? とにかくゴブリンとなると力だ! ! それにサイクロプスの時は弱点の目を狙いゴーレムの時は弱点を作ってそこを叩いた。急所を狙うのも俺の戦法と言えるだろう。
これらのことを総合すると俺の必殺技は──『蒼嵐剛砕』! 剣から敵の急所に放たれる嵐のように素早く力のある渾身の一撃だ! ! ! よし、遂に必殺技名が決まったぞ! ! ! 漢字4文字でシンプルかつ一見敵が聞いても何のことだか分からない…………素人にしては良く考えた方だろう! ! !
思わず顔をほころばせながらスペードのほうをみるとどうやら彼女も浮かんだようだ。目をカッ! と見開いたがすぐ目を閉じてウンウン唸りだした。名前を没にしたのかそれとも他に問題があるのだろうか? しばらく目を見ていると彼女と目が合った。
「決まったみたいだな」
「そういうスペードはまだなのか?
「いいや、名前と技のイメージは決まったんだが残念ながらこの技は今のオレには力不足みてえだ。これをやるにはオレに速さが足りない」
スペードが悔しそうに言う。
「まあ、でもやることはお互い決まってんだ。お互い技の完成のためにまた斬りあうか! ! 」
「ああ! 」
そういって俺たちは再び木刀を手に取り特訓を始めた。
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