3-19「2人目の仲間」

 スペードという女剣士と別れてから俺はひたすら森を目指して走っていた。事前にダイヤから借りていた木の板と棒で熾した煙で人が来ることは予想していたが思いのほか早かったのは予想外だった。


 夜の荒野は昼よりも静かで全てが変わってしまったようだ。あれだけガヤガヤしていた馬車の音も今は聞こえない。仕事に慣れないとき一度だけ終電を逃したことがあった。あのときは幸い金曜日で通りかかったタクシーを見つけて贅沢に帰宅したがそのときの街もこんな感じだった。


 俺は懐かしさに浸りながら兵士に見つかることのない様に細心の注意を払いつつ静かな荒野を駆けていく。やがて森の中へ入ったので担いでいた彼女を木の上にもたれるように寝かせた。


 あれだけドタバタしていたのに一度も起きないのを見ると眠りが深いタイプなんだな。


 尋ねる代わりに彼女の頬を指で突いた、意外と柔らかい。


 さあ! 彼女がさっきまで見張りを担当してくれていたのだから今度は俺が頑張るとしよう!


 俺は森の周りを誰か来ないかと夜警のように徘徊し始めた。葉が風に吹かれてざわざわと揺れるのは夜だと怖さ倍増だがケルベロスというこの森の恐ろしい番人というべき存在はもういない以上以前ほど恐怖には感じなかった。


「ふわあ……」


 明け方、ダイヤが目を覚ました。まだ完全には目覚めていないのかぼーっと辺りをキョロキョロと見渡している。


「あれ……ここは? スペードさんは? ? ? 」


 彼女が眠気眼で尋ねる。彼女からすれば寝る前とは状況は変わっているのだから疑問に思うのも無理はない。


「見つかっちゃってさあ、悪いけど俺が1人で別れを告げて逃げてきたよ」


 それを聞いて彼女がハッと勢いよく起き上がった。


「え、あそこ昔良く使っていた人に見つかりにくい秘密基地だったのに見つかっちゃったんですか! 」


「うん」と歯切れの悪い解答をすると彼女が俺が何をしたのか悟ったようだ。


「もう! そういうことはちゃんと相談してくださいよ! ! 」


 彼女が腰に手をあて声を張り上げる。無論、こうやって怒られるのはここにきて2度目だ。昨日もこうやって泣いている彼女に怒られた。しかし、妙なことに彼女の怒り方は課長とは何かが違って俺は正直に言うと好きだった。彼女に正直に言うとまた怒られそうなので言わないのだが………………


「悪かったよ、でも彼女の親が心配して探しているかと思うと早いうちに知らせないとって思ってさ。それにダイヤは起きた彼女と話していただろ? 」


「確かにスペードさんのご両親は心配なさる…………ってトーハさん私とスペードさんの会話を聞いていたんですか! ? 」


 彼女の顔がみるみる赤くなる。


 しまった、墓穴を掘ってしまった! 実のことを言うと全く寝付けずずっと狸寝入りをしていたのだ。


「いや、その寝ようとしたんだけどなかなか寝付けなくて、あれは不可抗力で………………」


 慌てて手を勢いよくブンブンと振るも手遅れだったようだ。彼女の頬がみるみる膨らんでいく。


「本当にごめん! でも庇ってくれてありがとう」


 俺は勢いよく頭を下げた。ついでにお礼を伝える。そんなふうに思われていたなんて嬉しかった。


「もういいです! 」


 彼女が目を逸らす、どうやら怒ってはいないようだがまだ顔は赤かった。


「ところで、港町はここからどれくらいなの? 」


 しばらく沈黙が続いたが思い切って尋ねてみることにした。


「港町のドーサまではここから歩いてでも数時間あればつけます」


 彼女がいつものように答えた。


「数時間かあ………………この森はそのドーサまで続いてる? 」


「はい、この森を歩いて行ってもドーサには付けると思います」


「じゃあ、歩いてこうか。ここで馬車を捕まえようとしてあの女剣士にみつかったら面倒なことになりそうだし」


 そう彼女に伝え終わった時だった。


「みつけたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ! ! ! 」


 何かが凄い勢いでこちらに走ってくる。言うまでもない、それはつい今話題にしていた女剣士だった。


「ダイヤ、逃げるぞ! 」


 俺が彼女を担いで逃げようとするも時すでに遅し、既に女剣士は俺を通り越し逃げようとした目の前で立ち止まった。


「な、何の用だ? 」


 息を整えている女剣士に尋ねる。尋ねてみたものの大方彼女の考えは分かっていた。あれだけのことをしたのだ、自由になったのでリベンジに来たのだろう。俺は巻き込まないようにダイヤから少し離れる。


「オレを………………オレを仲間に入れてくれ! ! ! ! 」


 女剣士は声を振り絞り頼み込むように言った?


 え…………オレオナカマニイレテクレ? オレを仲間に入れてくれといったのか?


 反射的に俺は「どうして? 」と聞き返す。聴き間違えたのかとダイヤを横目で見ると手を合わせて目を輝かせていた。


「どうしてって……誰かと旅をするなら知り合いがいる方がやりやすいしお前言ってただろ? オレは将来良い剣士になるって! そんな剣士を逃がして良いのか? 」


「いやそうじゃなくて…………」


「どうしてですかトーハさん! スペードさんのこと嫌いなのですか? 」


 俺が言葉を濁していると2人に問い詰められる。まずいぞどうやら、今回ばかりはダイヤも彼女の味方らしい。


「いやだってさ、俺は君にあんなことしたんだぜ? そんな奴と旅したいか? 」


 俺が正直に答えると彼女は豪快に笑い出した。


「ハハハ! ダイヤの言う通り結構気にしてんだなお前、あれはただの命懸けの勝負だろ? それでオレは負けて好きにされた、それだけじゃねえか! 」


 そうなのか? 意外と豪快な小さなこと? は気にしないタイプなようだった。


「それで、どうするんだ? オレを仲間に入れてくれるのか? 」


 なんか立場が逆転している気がするが、そういうことならこちらも拒む理由はなかった。ダイヤも知り合いとあってはこれまでとは違って寂しくはないだろう。


「勿論、宜しく……えーっとスペード? 」


「スペード・ナイトだ! お前は……えーっと何だっけ? 」


 彼女はゴブリンである俺に構わず握手を求めるように手を差し出した。


「阿藤踏破だ」


 俺は彼女の手を握る。


「アトオ・トオハ? 」


 スペードが首をかしげる。何かまたイントネーションが違う気がする………………この時代に踏破って珍しいよなあ。


 ぼうっとそんなことを考えているとスペードが思いっきり逆側に俺の手を軽くひねった。「痛! 」と思わず声を上げる。


「ハッハッハ! この間のお返しだ! 」


 スペードが腹を抱えて笑い出すが彼女がこうして分かりやすくやり返してくれたのが俺には有難かった。


「それで、これから港町のドーサに行くってことだけどどうだ? 景気よく3人でケルベロスでも倒すか? 」


 スペードが冗談のように口にする。


「ケルベロスなら倒したぞ」


 と伝えると目を丸くしたが途端にまた笑い出した。


「あのケルベロスを倒しただって! ? すげえな、何だよダイヤ、トオハ、お前ら最高だな! ! ! なら次はドーサか! よっしゃあ行くぞ! いや、馬車のほうがいいか。馬車を取ってくるぞ! ! ! 」


 彼女は勢いよく走り出した。


「スペードさん、馬車を呼びに行ったのではお父さんに見つかってしまうのではないですか! ? 」


 ダイヤが大声を出して心配する。すると彼女は立ち止まり大声で返した。


「心配ねえよ、親父ともちゃんと話し合って認めてもらったからな! ! 」


 それだけ言うと再びドンカセへ向けて走り出す。


「トーハさん、私たちも行きましょう! 」


 そう言ってダイヤはバッグを急いで下ろし俺に中に入るように促す。俺が入っている状態でダイヤを走らせるのは心が痛んだがここでスペードに離されてもまずいので急いで中に入る。


「スペードさん、昨日は1人でお父さんには内緒で旅に出ようとしていたんですよ。多分トーハさんのお陰です」


 嬉しそうにそう呟くと彼女はバッグを背負い笑いながらスペードの後を追いかけるように駆けだした。


スペードが仲間になった!


【名前】スペード・ナイト

【職業】剣士冒険者

【種族】ヒューマン

【武器】爆炎の剣

【筋力】C

【魔力】D


【名前】阿藤踏破

【職業】会社員

【種族】ゴブリン(ヒューマン)

【武器】棍棒、蒼速の剣

【筋力】C+

【魔力】─


ダイヤ・ガーネット

【職業】魔法使い、冒険者

【種族】ヒューマン

【武器】伝説の杖

【防具】鎖帷子

【筋力】D

【魔力】A+

【魔法】シルド(盾)、ヒール(回復)、フラッッシュ(発光)、インビジヴォー(透明化)←New



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