2‐35「別れの挨拶」

 俺たちはパンルの洞窟を後にした。鍵を返却せずに使い道を知り挙句ダイヤに透明になる魔法を授けるだなんて思わぬ収穫だった。正直に生きてみるものだ。


「すっかり暗くなっちゃったけどこれからどうしようか? 」


 辺りは既に真っ暗になっていた。新天地となると夜に行動するのも憚られる。そのとき、ダイヤが「あっ! 」と声を上げた。


「どうしたの?敵!? 」


 俺は身構える。そういえば前もこんなことがあった気がする。あれは何時だったか……


「いえ、実はニンビギから北東に私の親戚がいるドンカセという村があるのですが………………その村までこの森は続かず途中で途切れてしまうんです」


「何だって!!! 」


 衝撃の事実に思わず大きな声を出す。これは参った。森がないのなら姿が隠せない!とすると彼女と歩いていると見つかるから今すぐ出発して暗闇にうちに出発したほうが良いだろうか?や、夜でも通行人が0だとは限らない。1人にでも見つかるとアウトだ!

 

 かといって以前のように彼女のバッグに忍んで旅に出るというのも実質彼女1人だけの旅となったら危険だろう。


「でしたら───」


 腕を組んで考えあぐねているとダイヤが切り出した。


「───馬車に乗りませんか?馬車でも予約でしたら人が道中で乗ってくることもございませんし旅もできます! 」


 彼女のあまりの提案に口をポカンと開ける。


 彼女はあれほど自分だけ馬車に乗るのを嫌がっていたはずだ。どういう風の吹き回しだろう。少し寂しい気もするがこちらとしても彼女を巻き込まずに済むのは歓迎だ。


「それが良いと思う。俺はゴブリンの振りをして全力疾走で切り抜ける。いや、ダイヤは今夜泊まって俺が今から出発すれば丁度かな? 」


 それを聞いて彼女は首を傾げた後何かを悟ったようでムッとした。


「2人一緒にです!トーハさん!これからは一緒っていったじゃありませんか! 」


 驚いた。何と彼女は俺と一緒に馬車に乗ろうと提案していたのだ!


「いやいや、確かに戦闘は一緒にするって約束はしたけどこういう行動は無理だよ!俺は村とか馬車とか人に見つかるリスクの高いところへは一緒にいけない! 」


「ですから!予約なら人に見つかる可能性はありません!!トーハさんが馬車に乗らないっていうのなら私も乗りません!! 」


 普段は大人しいけどこういう点に関してだけは彼女は頑なに譲らないのだ。それは俺が慎重すぎるせいかもしれないが………………確かにこの状況ではダイヤのバッグに入って馬車に乗るのが最良な気もする。


「ごめん、確かにダイヤの言う通りだ。馬車で行こう。その代わり、俺からも条件がある!1つ目は俺は村には入らない。もう1つは今日はダイヤはニンビギの宿でゆっくり休むこと……良い? 」


 彼女に提案をした。


「ごめん、気持ちは嬉しいんだけど俺は見た目がゴブリンだからさ」


 心からの謝罪をする。ダイヤがゴブリンの身体の俺のことを気にしないようにと思ってくれているということは伝わってくるのだがそれに甘えてばかりもいられない。


「………………分かりました。では、今日はスライムさんにお別れをした後に宿に泊まります」


 ダイヤは納得をしてくれたようだが、彼女も条件を出してきた。俺がこれから三度スライムにお世話になろうとしているのを見抜いたのだろうか?


「分かった、じゃあ一緒に行こうか! 」


 そう言って俺たちはスライムの洞窟まで木々をかき分け歩き出す。暗くなって正確な時間は分からないけれど体感的に時間にして19時くらいだろうか?往復することを考慮すると遅くなるのもまずいだろう。最短距離で向かうとしよう。俺は先頭を歩きスライムのいる洞窟と今の森の位置から大体の位置を割り出しいつもの待ち合わせ地点を経由することのないルートを考え歩き出す。道を間違えれば迷う諸刃の剣だが無事洞窟前に辿り着くことができた。

 俺たちは狭い穴をくぐり中へ入る。今度は勘違いをさせてしまわないようにペンダントを手に握り穴から手だけを突き出し開く。すると中のスライムは悟ったようで「ピューイ」と嬉しそうに鳴いた。


「こんばんは、今日はダイヤがお別れを言いに来たんだ」


 先に穴から身体を出した俺が説明する。するとダイヤも続いて穴から出てくる。


「スライムさん、本当にお世話になりました。色々とありがとうございました」


 お辞儀をしてバッグからリンゴを取り出す。


「感謝の気持ちです、こちらをどうぞ」


 来るまでに取ってきたリンゴを差し出した。別のルートを通ってきたのでまだ木の上にあるリンゴを沢山取れたのは収穫だった。


「それと、言いにくいんだけど………………今晩もう一晩泊めてくれないかな? 」


 それを聞いて「ピュイピューイ」と歓喜の鳴き声を上げた。


 何度も別れを告げては戻ってくる気恥ずかしさもあるが喜んでくれて良かった。


「では、短いですが私はこれで……。トーハさん、おやすみなさい」


 彼女が帰ろうとするのを俺は遮った。


「待った、まだ起きているモンスターがいるかもしれないし夜道は危険だから送っていくよ」


「でも、そうしたらトーハさんの帰りが遅くなってしまいますよ? 」


「別にいいよ。それにまだ明日の待ち合わせについても話しておきたいし」


「そ、そうですか……。ではお願いします」


 彼女がぺこりと頭を下げた。


「じゃあ、彼女を送って悪いけどまた来るよ」


 そう伝えスライムの洞窟を後にし待ち合わせ場所はいつもの木の下で時間はニンビギのいつもの入り口を向いて木の棒を立て、その棒の影が南東をさしたらということにして彼女をニンビギまで送って行った。

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