2‐34「大怪盗の流儀」
「お待ちなさい!」
という叫び声が未だに洞窟内の広間にこだまする。
俺たちは前回来た時死に物狂いで鍵を求めた。それを同様に死に物狂いで阻止しようとしたのは他でもないこのパンルだ!その彼が鍵の返却を制止するなんて一体どういう心境の変化なのだろう。
「一体どういうつもりだ、あれだけ俺たちが鍵を持っていくのを阻止しようとしていたじゃないか。」
彼に尋ねる。こういうのはやっぱり直球勝負だ!
するとパンルは図星だったようで気まずそうにコホン、と咳をした。
「確かに私は貴方方が鍵を持っていくのを阻止しました。ですが、最後には差し上げると申したはずです!」
「まあ、そう言っていたけど…」
とそこでパンルはやれやれ、と呆れたように肩をすくめた。
「貴方たちは…いえ、ダイヤさん!貴方は純粋すぎます!それでは冒険者としてやっていけませんよ!!」
パンルがダイヤに言い放つ。
確かにダイヤは純粋な子だ。冒険者によっては他人の家のものを物色したりするのもいるだろうが、彼女はそんなことは決してしないだろう。ところで、彼女だけを純粋すぎると責めたのは俺は褒められたととっていいのだろうか?
「いえ、ですが人のものを盗むなんてそんなことは…。」
そんなことを考えているうちにダイヤが反論した。
「何を言いますか、貴方達は先ほど私から鍵を盗んだではありませんか。」
パンルが意地悪く言う。ダイヤも痛いところを突かれ黙ってしまう。確かに今朝の行為は盗んだということになるだろう。
「一度盗んだからもう何度盗んでも変わらないってことか?」
「いえいえ、そういうわけではございません。少し意地悪でしたね、ただもう少し貴方はその鍵を使って賢く生きるべきと言っているのですよ。」
話が見えない。どうやらパンルはダイヤに鍵を使わせたいようだが…
「まあ平たく言えば………盗めるのは物だけではないということですよ。」
パンルはこれから盗みを働こうとする怪盗のように二ィッと笑った。
「盗めるのは物だけじゃない?ああ…」
奴が何を言いたいのか分かった。しかしそれは不可能なことだった。危険が多すぎる!
「おや、流石というべきかゴブリンのほうは貴方は気付いたようですね。」
「どういうことですかトーハさん。」
彼女が俺のほうを向く。
「つまりですねダイヤさん、貴方の性格を考慮して盗まれても困らないものを気付かれることなく盗めば良いということです。」
パンルはまだ答えを焦らす。
「盗まれても困らないものを盗む?」
彼女が不思議そうな顔をした。それをみてパンルが満面の笑みで答えを言った。
「その答えは………情報です。」
「情報………?」
「ええ、情報でしたら貴方の場合例えば家の金目の物の隠し場所という情報を盗んだとしてもそれでその物自体を盗むことはしないでしょう。それならば実質、盗まれていないのと同じ。貴方は冒険者として必要な情報だけを手に入れて活かせば良いのです。」
それを聞いて彼女が「あっ!」と声を上げる。確かに彼女の性格を考えると物を盗んだりはしないだろうしこれこそ耳寄りな情報だろう。現状人間相手の情報収集はダイヤ1人に任せっきりだ。色々な人の相手を彼女一人にさせている状況だ。冒険者になりたての彼女には酷なことだろう。そこで鍵を使いこっそり室内に忍び寄り会話を聞くことができれば彼女の負担も減ることだろう。
しかし、1つ大きなリスクがある。
「でもその鍵を使って侵入したとしても侵入したところを見つかったら意味がないのでは?」
これが疑問だった。例え鍵で侵入は出来てもそこから姿をみられずに話を聞くというのは至難の業だろう。
「ご安心を、ダイヤさんそこの棺をあけて御覧なさい。」
ダイヤは言われるがままに棺を空けると開閉式でてっきりパンルの遺体が出てくると思いきや3段底になっているからか1枚の紙があった。
「その紙には、透明になる魔法の習得の仕方が書いてあります。習得できるかはダイヤさん次第、コツは心を落ち着け周りの背景に溶け込むイメージで呪文を唱えること。必ず習得できるというわけではありませんが習得できることを祈っておりますよ。」
「ありがとうございます。ですが…なんでここまでしてくれるのですか?」
彼女は紙を大事そうにポケットに収めたがその疑問は当然だった、正直俺にもなぜ彼がここまでしてくれるのかが分からない。
「知れたこと、貴方たちが大怪盗相手に盗んだものを返すなんて愚行を犯そうとしたものですから私も愚行を犯そうと思いましてね。」
良く分からないが、大怪盗なりの流儀ということだろう。
「それでは、良い冒険者ライフを…ここからですが貴方方の幸福を祈っておりますよ。」
そう言ってフワッと上に上がっていった。
「ありがとう。」
彼に向かってお礼を言って俺たちは洞窟を後にした。パンルは誰もいなくなったのを確認した後
「やれやれ、私としたことが変に自分と重ねてしまい…甘すぎましたかね?」
と小さく笑った。
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