2‐33「大怪盗大混乱」

「この辺りだっけ?」


「そのはずですが……見当たりませんね。」


 俺たちはニンビギのほうへ歩いているが目的地は大怪盗パンルの洞窟だった。誤解で彼の宝の鍵を奪ってしまったので2人で返そうという話になったのだ。かなり怒られるだろうが仕方がない、承知の上だ。

 しかし、入る時と異なり出るときの出口の外観はそれほど気にかけていなかったので困ったことに正確な位置が把握できないでいた。すっかり暗くなって月明かりを頼りにしないといけないというのも一因だろう。


「多分この辺りに………あった!」


 この地帯はこの森の中には珍しく幾つかゴロゴロと大きな岩があった。その中の1つの雑草を分けると鍵穴が入るくらいの小さな穴があった。


「よし、開けるよ。」


 俺はカバンを下ろし両手で岩を掴む。


「せいやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 渾身の力を込めて引っ張るも岩はビクともしなかった。


 もしかして、用途不明の鍵はここで使うのか?


「ダイヤ………その穴に……鍵を………さしてみてくれ。」


 全力で引っ張ったので心臓は早鐘を撃ち息も絶え絶えだ。それを聞いた彼女がポケットから金色の鍵を取り出し穴に差し込み回す。するとカチッという音がした。


「空いたみたいです。トーハさん。」


 ダイヤが申し訳なさそうにこちらを見る。早くも重労働だけどもうひと踏ん張りだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあああああああ!!!!」


 再び力を入れ開けようとするも鍵が開いたからか岩が軽くするりと動き無駄に力を込めた俺は力が余ってするりと転倒してしまう。


「だ、大丈夫ですか???」


 ダイヤが心配そうに駆け寄るも俺は大丈夫だ、とサムズアップをして立ち上がりバッグを持った。


「行こうか。」


 俺を先頭にさっきは上った道を下ろうとする。


「待った、念のためここで目をならしておこう。」


 洞窟内は相変わらず薄暗く目をならすためにしばらくそこに立ち止まった。徐々に目が慣れてきて段差がはっきりと見えてきた。


「目は慣れた?」


 尋ねると「はい」と頷く彼女が確認できたので階段を下っていく。


「そういえば結局この鍵って何だったんだろう?あそこを開けるためだけの鍵なのかな?」


「どうなのでしょうか…大怪盗にしては先ほどの所の鍵だけではあそこまで必死に守る必要もない気もしますが。」


 彼女も疑問に思っていたようだ、ダイヤ曰く王様に見せたときにも特に驚きもなく返却されたらしい。凄い鍵に感じたが気のせいだったのだろうか?


 まあ、何であろうと返しに行くのだから何だろうと構わないか。


 そう決断して下まで下って行った。


 鍵を取った広間につく、広間は洞窟内のため昼夜も関係なく今朝出て行った時と違わない光景だった。───いや、1つだけ違いがある。大怪盗パンルらしい幽霊が暇そうにフワフワと浮いていたのだ。


「おやおや、犯人は犯行現場に戻るという言葉があるので怪盗としても現場に戻るのはタブーなわけですがどういったご用件で?ああ、その鍵の用途が分からなくて尋ねに来たといったところでしょうか?」


 パンルが皮肉交じりに肩をすくめ首を横にしやれやれといったポーズで言う。


「「本当に申し訳ありませんでした。この鍵はお返しします。」」


 パンルはすっかりと面食らった顔をしていたがやがて小さく震えた。


「ほう…何をするかと思えば盗んだものを返す?私の作ったどんな鍵でも開ける鍵がいらないと。そういうわけですか、へえ………。」


 小さく何かを呟いた後に息を吸い込んで


「私の鍵がいらないだと!?こんな素晴らしい発明を返しにきただと!?貴方方は一体何を考えているのだあ!!!」


 と大きな声で怒鳴った。


 予想通り怒られたのだが怒られている理由が奇天烈なもので思わずおったまげた顔で見つめる。


「いえ、ですから…」


 かくなる上は一度も日の目を見ることのなかった上司のごますり方で機嫌を直そうと試みる。


「貴方はその敬語を止めなさい!調子が狂う!!!」


「は、はいぃ!!!!」


 思わずピシっと背筋も伸び頭からつま先までピーンと伸びる。


 うう…なんで怒られているんだろう?


「トーハさんは悪くありません!すべて私の責任です。申し訳ありませんでした!」


 すかさず彼女がフォローしてくれる。しかし逆効果だったようだ。


「そうだ、ダイヤさん!そもそも貴方が試練だ何だ言って欲しがっていたのに今になっていらないとは一体どういうことですか!」


「は、はいい!誠に申し訳ございませんでした!!」


 まずい、このままではダイヤの責任になってしまう…!


「い、嫌!持っていこうとして強引に持っていこうとしたのは俺だ!俺の責任だ!!」


「ああああああああああああああもう!!!何なんですか貴方たちは一体。」


 パンルは訳が分からないと言わんばかりに髪を掻きむしった。


 閑話休題───


「それで、どうして貴方達は私から奪った鍵を返すなんてことを?」


 10数分程混乱していたがすっかり冷静さを取り戻したようでパンルが俺たちを見下ろしながら尋ねる。


「それが、どうやら勘違いだったみたいで………。」


 そう切り出して、この鍵が試練達成に必要なものだと思っていたのが勘違いだったことを告白した。それを全て聞いた後パンルは「はあ。」と大きなため息をこぼした。


「貴方たちも貴方たちならその王様も王様ですね…こんな便利な道具があれば怪盗や盗賊の類なら欲しがると言いますのにそれを手中に収めたにもかかわらず返却するとは…。」


 もはや怒る気力も失せたと言わんばかりにがっくりとうなだれていた。


「と、とにかくこの鍵は返すよ!俺は使おうにもゴブリンだから使う前に見つかって大騒ぎだし彼女もこういうのを使える性格じゃないんだ。」


 そう言って俺は彼女から受け取った鍵を開いている棺の元あった窪みに返そうとする。そのとき、意外なことが起こった!


「お待ちなさい!」


 なんとあれほど鍵の返却を求めたパンルが俺の鍵の返却を制止したのだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る