2-15「2人一緒に」

「お前も頑張ったけど悪いな。」


 先に進ませてもらうよ、と通過しようとしたその時だった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 両腕を失ったゴーレムが雄たけびを上げこちらに向かってくる。


 ゴーレムが俺を踏みつぶそうと足を上げ下ろしてきた。俺はそれを勢いよく地面を蹴って躱す。

 まだ動くのか………こうなったら時間がかかるが奴の届かない出口の近くで腕の回復を待って片足を砕くしかない!


 そう決心した時だった。


「トーハさああああああああああああああああああああん!!!」


 心配そうな彼女の叫び声が聞こえた。


 ダイヤ、入ってきたのか?俺は焦って声のする方を向く。………そこには髪をなびかせこちらに急いで来ようとしている彼女の姿があった。

 彼女を守らなければ…


「来ちゃダメだ!!!」


 ゴーレムがこちらに来るよう負けないくらい大きな声に派手な動きでこちらに誘導する。

 案の定こちらにくるゴーレムを見て。


「静かに向こうの入り口の通路へ!あとで合流しよう!!」


 そう告げて、彼女の入ってきた扉のほうへ誘導した。


 何とか敵をまいた俺は通路に入る、そこには彼女の姿とともにここで餓死したであろう白骨化した死体の姿があった。結局はここが安全地帯だとしても閉じ込められた状況では死ぬことには変わらないのだ!


「何で危ないのに入ってきたの!!」


 俺は思わず声を荒くして尋ねる。


「ごめんなさい!!トーハさん、一緒に戦わせてください!」


 彼女は力強く続けた。


「私だって冒険者です!トーハさんだけに危険な想いはさせられません!!確かに…ゴーレムをみてからトーハさんの苦しそうな声を聞くまで震えて動けませんでした、でももう大丈夫です!だから私も一緒に戦わせてください!!」


 彼女が覚悟を決めた目で俺の目を見る。しかし瞬時に彼女の顔は悲しげなものに変わった。


「やっぱり、攻撃魔法の使えない魔法使いって………足手まといですか?」


「えっ………」


 彼女の言葉に俺はしまったと思った。彼女はずっと自分が攻撃魔法を使えないことを負い目に感じていたのだ…そんな状況で強敵が現れたら俺に置いてかれ1人残されたらそう考えてしまうのも頷ける。


「ごめん。君の気持も考えないで俺は………」


 俺はそう言って右腕を動かし自分の顔に殴る。


 ………オパールさんに俺は彼女を守ると約束した、でも守るというのはこうやって彼女を悲しませてまで1人で戦うという意味ではないだろう。


「痛っ…」


 凄い痛い………これが今感じていた彼女の痛みなのだろう。それをみた彼女が慌てて回復の呪文を使ってくれる。


「………あてにしてないわけじゃないんだ、むしろ俺みたいなのにこんな凄い魔法使いがついてきてくれて本当に感謝してる。でもこの部屋に入って襲い掛かるゴーレムを見たときは…咄嗟に守らなきゃって思った。君を失うのが怖かったんだ。でもそれが傷つけてたんだね、本当にごめん!」


 思っていることを口にした。俺が話し終わるまで彼女は無言で聞いていた。しばらくして彼女が口を開く。


「ありがとうございます、でもトーハさん………私だってトーハさんがいなくなったらと考えると怖いです。」


 ゴーレムは既に攻撃をしても無駄と判断したのか機能を停止していた。暗い洞窟の中、俺とその手を握っている彼女の姿は彼女の呪文で緑色の光を放っていた。


「ありがとう。」


 しばらくして俺の手が全快したのでお礼を言う。彼女は「どういたしまして」と答え手をそっと放した。


「よし!」


 俺は勢いよく両頬を叩いた!


「行こうか、ここからは2人一緒に戦おう!」


 彼女に声をかけると彼女は「はい!」と笑顔で頷いた。



 俺たちは2人で今度は出口のほうから広間に入る。するとゴーレムが再起動して俺たちに襲い掛かってきた。


「行きます!『シルド』!!!」


 彼女が盾の呪文を唱え周囲に薄くも強固なシールドができる。後は自滅するのを待っていればいいという作戦だ!2人で戦おうといった手前彼女に頼り斬りなのは少し恥ずかしいが足を誘導して自滅させるのもいかず、手よりも身体全体を支えているため丈夫に作られているであろう足の強度を考えるとこれが最善なのだから仕方がない!!


 ゴーレムが踏みつぶそうとして足がシールドにドスン!とぶつかる!

 

 しかし振りかぶらず勢いが出ないのか足が強固からか壊れるまでは至らない。何度も何度もゴーレムの足の裏での足蹴りが続きズシン!ズシン!と音が響く。


 これでは袋の鼠だ!………やってもらうしかないか!


「シールドをギリギリまで小さくすることってできる?」


 俺は彼女に尋ねる。こうなったらこちらの盾を小さくして距離を稼いでフィードバックのダメージを増やすしかない!!


「可能ですが………一旦この魔法を解かないといけません。」


 リスクを冒さないといけないのか、シールドを極限まで小さくすると目の前に攻撃が迫り練習のスライム以上と比べても目の前に攻撃が来るという恐怖は段違いだ!

 彼女をみると足が震えていた。


「ごめんなさい、あんなこといって震えちゃってて…」


「約束したよね、2人で戦おうって。」


 そう言って彼女の手を握る。


「俺が君の目になる、盾の呪文を発動してほしいタイミングで手を強く握るからそうしたらすぐにギリギリまで小さくした盾の呪文を発動してほしい。」


 こんなことをして俺は攻撃が迫るのを見るのが怖くないのかと言えば嘘だ。正直………ものすごく怖い!しかしここで彼女を不安がらせるわけにもいかない!どうか最後まで恐怖が手を伝って彼女に伝わりませんように。


「わかりました。2人一緒に…ですね!」


 これから命を懸けた賭けをするというのに彼女は少し嬉しそうな顔をした。


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