2-3「迷子のスライム」

 ダイヤが無事門を通りニンビギの街へ入っていくのを確認した。


 目の前の街が大きすぎて他の門が見えないのだが、この大きさを見ると彼女の村みたいに実はまだ門があるのかな?


 とはいえ、彼女は何年もここに通っていたというし大丈夫だろう。


 しかし問題は………




「このあとどうするか………だよなあ。」




 俺はぽつりと呟く。




 影が真下から真横に移動するのは角度で90度、日時計の1時間が15度らしいので時間にして6時間!どう過ごすべきか………本当はこの時間は彼女に頼らず街に入って情報収集をしたいところなのだが身体はゴブリンなのでそうはいかない。


 いっそ昼寝でもして時間をつぶそうとした時だった。近くでぽよん、ぽよんと音がした。




「ん、何かいるのかな?」




 辺りをキョロキョロと見回しても人の姿はない。まあ人だったら声を上げるか攻撃してくるかで、ゴブリンに対し隠れて攻撃をしようなんて慎重な策を取る冒険者がいるはずもなし。こう辺りをキョロキョロ見回す暇はないだろう。




 気のせいだったかな、と森の奥に行き昼寝をしようと決め込み移動をするとまたしてもぽよん、ぽよんと音が聞こえる。




 気のせいじゃない、となると………てっきり近くにいるのは人だと思い上げていた目線を下げる。




「君は………」




 そこには、1匹のスライムがこちらを見つめながらぽよん、ぽよんと変わらず陽気に跳ねていた。




 スライムだ!ゲームで見たことのあるモンスター!もしかしてずっとついてきたのか!?俺は始めてみるというわけではないのに心が躍る。


 ゴブリンに囲まれ憂鬱な心境で見る寝ているスライムと今とではこんなにも違うとは………と我ながら感心する。




 でも何で1匹だけなのだろう?見るからにこのスライムは知っているスライムよりも一回り小さい子供のようだ。まさかはぐれたのか?




「ギギギ、ギギギギギギ?」


【君は、一人なのか?】




 人間の言葉では伝わらないだろうとモンスターの言葉で声をかける。すると嬉しそうに




「ピューイ、ピューイ。」




 と鳴いた。どうやらゴブリンの言葉はモンスター共通ではなくゴブリンだけで通じるものだったようだ。そしてスライムもスライム同士だけで伝わる言語があるのだろう。


 しかし参った。これでは会話ができない。




 俺はスライムをみつめたあと大きく辺りを見回してみた。このジェスチャーで伝わらないだろうか?


 するとスライムは嬉しそうにぽよん、ぽよんと跳ねる。


 通じてないんだな………俺はがっくり肩を落とす。




 このままでは埒が明かない。もしかすると親と出かけたときに誤って俺たちのほうへ付いてきたのか俺を親だと勘違いしているのか定かではないが、ついてくるのだというのなら時間つぶしにも丁度いい。このスライムの親を探すことにしよう。




 俺は小さく頷いた。




 しかし、探すにしても何も手掛かりはない………いや、一回り小さいスライムなのにここまでばてる様子もなく元気に跳ねている。


 となれば、前回の休憩地点付近からついてきたということだろう。前回の休憩地点からここまでは約1時間あった。ならば6時間あればお釣りがくる。




 もし違ったとしたら………すまないが流石にダイヤのいた村まで戻ることはできない、と心の中で謝罪をする。




 さっき通った道を引き返すこと約1時間、見慣れた場所に到着した。若干土が座るために避けられた痕跡も見えるしここが俺たちが最後に求刑した場所で間違いはないだろう。




「さて、ここからどう探すかな。この場所に見覚えはある?」




「ピューイ…」




 スライムが先ほどと同様に鳴くもさっきより元気がない。跳ね方も先ほどまで勢いよく跳ねてはいなかった。




「疲れたのか?じゃあ休憩にするか。」




 そう言って先ほど座ったであろう木に再び座り込む。スライムも跳ねるのをやめ大人しくなった。スライムと目が合った気がした。気まずいが言葉も通じないしこうやって見つめあうことしかできない。


 しかし数分ほどして、俺はスライムの視線が俺ではなく俺の手に持っているものに向けられていることに気が付いた。




 俺は、右手にサイクロプスに投げたが戦いの後回収した棍棒、左手に勿体ないので先ほど手に入れた果実を非常食として一個持っていた。


 スライムが見つめているのは───俺の左手だ!




「なんだ、これが欲しかったのか。」




 そういって俺が持っていた未成熟のリンゴをスライムのほうに転がすと、スライムは「ピューイ!」と喜んだ様子で近づき一気に体内に取り込んだ。




 おいおい、スライムってそうやって食べるのか………




 予想外の食事の様子に俺は呆然とする。自分の身体より大きなスライムと遭遇することがあったらダイヤを担いで一目散に逃げよう、と心に決めた。




「ピューイ!!」




 食事が終わり、スライムが満足そうな声を上げる。


 あんな高いところにあったからスライムじゃ取るの無理だったから付いてきたわけか。見渡すとここら辺に置いてきたものも見当たらなかった。このスライムの親か別のモンスターが持って行ったのだろう。いや待てよ、すっかり忘れていたけどあれは未成熟だったはずだ!あれを食べて満足するとは………スライムにとっては好みの味だったのだろうか?




「そうだ、良い手を思い付いた!」




 俺は先ほど登った木に同じように登りリンゴを落とせるだけ全て落とした。更に別の木に登りまたリンゴを落とす。これを何度か繰り返し気が付くと数十個のリンゴが地面に落ちていた。


 次に、これを等間隔で北、北東、北東の3方向にそれぞれ並べていく。


 これでスライムがいる方向が把握できるはず…あとは待つだけだ!


 こうして約30分ごとに見回りを挟みつつ待つこと2時間程、それぞれのリンゴをチェックすると北東向きに設置したリンゴが減っていることに気付いた。




「間違いない、家族は北東方向にいる!」




 とスライムのほうをみて言った。当然返事は「ピューイ!」だ。


 方向は分かった、遅くとも30分前にはここに来たということはそう遠くは行っていないはず………!




「走るよ!」




 とスライムの前で足と手を高速で動かしジェスチャーをした。手も足もないスライムにこれは効果がないな………と後から気づき高速うさぎ跳びに変換したら伝わったようだ。俺が走り出してまもなくするとスライムも置いてかれないようにと跳ねる速度を上げて付いてきた。




 俺とスライムは森をひたすら北東方向へ走る!10分も走ったころだろうか、大きなスライムと小さなスライムが見えた。




「みえた!」




 と俺はスライムのほうをみて思わず親指を立てグーサインをする。スライムも嬉しそうに「ピューイ!」と鳴いた。その声に気付いたのか2匹のスライムがこちらを振り向く。


 すると間もなく「ピューイ!!」と嬉しそうな声を出した。




「ピューイ!!」




「ピューイ!ピューイ!」




 言葉は分からないが、親子感動の再会を喜んでいるんだろう。数時間前のお互いに無事を喜び抱き合うダイヤとオパールさんの姿と重なり思わず涙が出そうになる。




何にせよ無事に再会できてよかった。




「じゃあ、俺はこれで…」




 親子感動の再会に水を差すのもいけないとクールに去ろうとしたところを「ピューイ!」と大きなスライムに呼び止められる。




 何だろう?お礼がしたいからついて来てと言っているのだろうか?ならまだ時間もあることだしお言葉に甘えるとしよう。


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