2-2「待ち合わせ」

 休憩が終わって再び歩き続けて約1時間、木々の間から遂に大きな壁が見えてきた。ダイヤの村よりも遥かに大きな壁に広い橋、大きな川に門…恐らくあれが………ニンビギだ!


「みえました、あれがニンビギです!!!」


 ダイヤが壁を指さして言う。やはりそうだった…ここまで長かった、何時間歩いただろうか………ついにたどり着いた!


「この壁を見るに随分大きな街なんだろうなあ。」


「はい、ニンビギはこの南の島の国の王様がいるので私が通っていた冒険者の学校に加え、兵士の方も沢山いて大きな図書館やお店がいくつもある…この国一番の大きな街なんです!」


 つまり、首都ということか………俺のきた世界も首都はかなり賑やかだったなあ。この橋の広さと門の大きさは国王陛下がいるためだろうか?国王も色々な来客やらと話をしないといけないので忙しいのだろう。


 見上げると橋の広さを補うように大きな見張り台が目に入る。ダイヤは兵士も多いと言っていた。昼間だからか門は開いており、代わりにと武装した男が1人だけ脇に立っていた。


 見張り台の存在を知らなければ兵士は1人のみで突撃も可能だ………


 とゴブリンなら考えるのかもしれないが恐らく、この街にゴブリンが突撃をしかけたら入る前に全滅もあり得るのではないか、と身震いする。


 当然、今俺がここにノコノコダイヤと並んで入ろうとしたものならすぐハチの巣にされることだろう。そうなるとダイヤもあぶないかもしれない。


「じゃあ、俺はここで待っているから。」


 俺は見張りに見つからないように木の陰に隠れながら伝えた。


「えーっと…一応私のバッグに入れば今のトーハさんなら見つからないと思いますが、ダメですか?」


 心細いのだろう。彼女がブロンドヘアを風になびかせながら寂しそうに言った。


「うん、王様に合うんじゃ荷物検査とかもあるだろうし街に入ってうっかり見つかってあまり大騒ぎにしたくない。そうなるとダイヤも危険だ。」


 彼女が残念そうに頷いた。

 見張りがいる中、街の中でゴブリンがみつかったとなるとまず大きなバッグを持ち入ったばかりのダイヤが疑われるだろう。

 王様の前で突然刃物を振り下ろす輩が出ないように荷物検査も厳重に行われるだろうし、荷物は離れた場所へ置いておくことになるだろう。そのために見つかる危険のあるバッグの中に隠れて同行するというのはあまりにリスクのほうが大きすぎると思った。


「じゃあ、ここに集合にしよう。時間は………ごめん、ゴブリンだから時計付けてないんだった。ちょっと時計見せてもらっていい?」


 ついつい腕時計をみるいつもの仕草をしてしまったことを恥じつつ彼女に尋ねる。


「………時計って何ですか?」


 彼女は不思議そうに聞いてきた。………何とこの世界には時計という概念がないのだ!


「普段待ち合わせの時とかはどうしてるの?」


「待ち合わせですか、えーっと…陽が昇ったらとか陽が沈んだらとか………そんな感じです。」


 そういうアバウトな生活だったのか………でもそれで何もお互い不満もないというのなら素晴らしいことだと思う。

 しかし日没などとアバウトなことを言って彼女を長い間待たせてしまう…なんてことは避けたい。


「そうだ」、と俺は折れた木の枝を1本拾った、森だからこの手の枝ならどこにでもあるのは助かる。


「トーハさん?枝を拾ってどうするのですか?」


「まあみてて!」


 急に枝を手に取った俺をダイヤが不思議そうに見つめるなか、日の当たる場所に移動し木の枝を木を避け地面に刺した。日時計だ。


「正面にニンビギがみえる位置でこうやって木の棒を刺すとこの位置に影ができるでしょ?」


 木は陽の光に照らされて影ができている。ちょうど木の枝とが反対側の真下の位置だ。


「この影が………」


 確か15度が1時間相当だったはずだ、王様直々に冒険者登録とあってはこれだけの街で外交のことも考えるとかなり待ち時間があるのかもしれない。今日向かうとオパールさんが伝えたということは会えないということはないだろう。

 しかし日時計は陽のある時にしか使えない。


「………ちょうどこの真横に影が来るようになったら俺はここにいる。もしはやく終わったら…まずは買い物で食料を確保しつつニンビギの人から魔王についての情報収集をしておいてくれると助かる。」


「影が移動するのですか?」


「うん、地球は回っているからそれにあわせて影も移動するんだ。」


 地球、太陽、思えば日の光はあるがこれでよかったのだろうか。


「地球が太陽の周りを…ああ!自転と公転ですね!」


 納得した、というダイヤを見てどうやら星の名前や動きに関しては同じようだ…とホッとする。


「それで、今はニンビギの入り口を正面にしているからこれをニンビギでやるときはここの入り口を背にする形で木を立ててやるんだ。」


 俺は木の枝を彼女に手渡した。彼女はそれを受け取り大切そうにポケットにしまいこんだ。


「ありがとうございます。これがあれば待ち合わせの時間がいつもよりはっきりします!トーハさんは物知りなんですね!」


「いやあ…俺の世界の昔の人の知恵だよ。」


 すっかり感心した彼女に褒められると悪い気はしない。


「それじゃあ、そろそろ行ったほうが良いかも、じゃあまた!」


「はい、またここで影が横になった時に会いましょう!」


 彼女は笑顔でそう答えると、木々の間をかき分け、ひらりと森から出て道に移り、ニンビギの門へと歩いて行った。

 去り際の彼女を見ながら、影が真横になる時というほとんど日没待ち合わせなら木の棒いらないのでは………


 と今更ながら気付いてしまったのだが残り時間の指標にはなるだろうし何より彼女が喜んでいるので良しとしよう。


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