0-2「不思議なオーブと杖」

 父のお陰で何とか母と出発前日に言い争いをすることを免れた私は食後は買い物に出かけた。母が植えた花で作られた道を花達に見送られるように歩いていく。ここから市場までは丘を下って10分程で到着する。出かけるたびに思うのだけれど私の家だけ他の村の人たちとは異なり丘の上にあるというのが違和感があって落ち着かない。


「今日くらい私が作るのに……」


 いつもは朝弱い私のために母が1人で朝食を用意してくれているので昼食は私1人で、夜はいつも2人で用意している。

 しかし今日で最後ということは父母に料理を作るのも最後になるかもしれないのだ、ここは譲れない。


「おはよう! ダイヤ! 」


 市場に向かおうと丘を下っているところで笑顔で挨拶をする青年と出会う。ルイーダだ。


「おはよう、ルイーダ」


 当然私も笑顔で返す。


「それで、考えてくれたかい、僕と旅に出ること。剣士の僕と魔法使いの君でぴったりじゃないか。僕の剣の実力は知っているだろう? 君のお父さんにも負けないと思うけど! 君の素晴らしい魔法の才能と僕の剣があれば魔王なんて目じゃないよ! 」


「ごめんなさい、私あなたとは行けない、もしあなたを巻き込んでしまったらと思うと……もう少し経験を積んだ人のほうがいいと思うの」


 私は一晩考えた文句で彼の誘いを断った。


「そうか、でも……そんな人いるかな? 」


 彼の表情が一瞬蔑むような顔に変わった気がしたが、何も言わずに笑顔でその場を去った。


「冒険に出るならダイヤを誘うつもりだ。なあに、魔法が使えないって言っても自分の命が危ないとなったら使わざるを得ないだろう。時には荒療治が必要なのさ」


去り際に放ったあの恐ろしい顔により、あの日彼が友人と話していた会話の内容が脳裏をよぎった。


 昼食、夕食の買い出しをする。今夜は何にしようかな? 全く決めていなかったことに今更気付いた。

 すると魚屋のおじさんと目が合った。


「ダイヤちゃん買い物かい? 」


「はい、でも何にしようかと悩んでしまって……」


「それならさ! 」


 そう言っておじさんが魚を手に取った。


「この時期だとラタとツカオなんてどうだい? 刺身でも煮ても焼いても美味しいよ~」


「でしたらそちらを3匹ずつ……」


「まいどあり! 」


 おじさんは勢いよく答えて魚たちを袋に包んでくれた。何度も見たがやはり手馴れていて上手だなあと思う。


「はい、お待ちどうさま! ラタ3匹とツカオ3匹の計6匹で1200ゴルドね! ! 」


 私は銅貨1枚と紙幣2枚で丁度支払いをする。

 この世界では金貨が10000ゴルド、銀貨が5000ゴルド、銅貨が1000ゴルドの価値がありそれ以下は1ゴルド、5ゴルド、10ゴルド、100ゴルド、500ゴルドとそれぞれ紙幣がある。


「いつもありがとうね」


 と手を振るおじさんに手を振り返しながら、今夜は刺身と鍋で良いかな……と考えた。


 家に帰り昼食を作り食べた。食事中に父に


「この後、私の部屋に来なさい」


 と呼ばれたので食後は父の部屋に向かった。母もそれを聞いたとき何か覚悟を決めた顔をしていた。いよいよ杖を貰えるのだろうか。


 コンコン、とノックをすると中から


「入りなさい」


 と声がしたので部屋に入る、部屋には古びた杖と綺麗な黄色のオーブが置かれていた。


「お父さん、これは?」


「これは言い伝えによると昔賢者様達が作った杖とオーブでね。魔王の天敵になるであろうもので私がその昔見つけたものだ。手に入れたものの魔法の才能はほとんどなかったものだから、ダイヤが生まれ無意識に私を浮かせたときに託そうと決めていたんだ。18年前の謎の咆哮が聞こえた日に生まれた子供、思えばあれは運命だったのかもしれない」

 

 60年ほど前、突如スライムやモンスターがこの世界に現れたときに有名な占い師によって存在が示唆された魔王。放っておくといずれ災いをもたらす存在といわれているけど誰も在処すらつかめない。


 父は今は隠居をしているが昔は冒険者として魔王討伐のために旅をしていた。しかし、魔王を倒せるであろう伝説の杖の存在とその杖を自分が使えないことに母との出会いもあり子供に託すことにしたとお兄さんと一緒によく聞かされていた。


「まあ、才能がありすぎるのも考えものだがな」


 父はウインクして励ますように明るく言った。


 そう、私は昔ニンビギの学校の魔法の講義で魔法を放ち、その巨大すぎる威力で学校を丸々消し飛ばすところだったのだ! 幸い、先生たちのお陰で大事には至らなかったけど──────。

 

 それ以来、攻撃系の魔法を習うものの使うことはできなかった。とはいえあれから数年の成長に加えこの伝説の杖で魔力が強化されたらそれこそ魔王も倒せるかもしれない。


 確かに、魔王の城で攻撃の魔法を放っても周囲が破壊されても困るのは魔王しかいない。でもそれまでは……? 魔王の城以外では無関係な人たちを巻き込んでしまうかもしれない。あの時のトラウマが蘇って呪文が言えない私がモンスターに襲われたらどうやって戦うの?


「ダイヤ? 」


 父の心配そうな声でハッと我に返る。


「そこの杖に丸い窪みがあるだろう? そこにオーブをセットしなさい、言い伝えによるとオーブは全部で4つ、それぞれが別の効力を持つといわれている。おそらくそれを付け替えて魔王に的確な攻撃を繰り出して倒せということだろう」


 私は父に言われたようにオーブを持ち古びた杖の窪みにセットした

 その時、不思議なことが起きた──────



 ──────気が付くと私は自分の部屋にいた。


「ダイヤー、起きなさーい」


 窓の外を眺めると日が昇っている、おかしい──────私は昼に父の部屋を訪れたはずなのに!


「お母さん今日は何月何日?」


「今日? 今日は4月13日よ」


 4月13日⁉私の誕生日だ! ! ! 知らぬ間に寝てしまった! ? 陽はすっかり昇っているし今からだとニンビギにつくのは夕方になってしまう! ! !


「ごめんなさい、お父さん! お母さん! 私寝坊しちゃった! ! 」


 私は支度をして慌てて階段を下りようとするも荷造りしていた荷物がない! 2人が1階に運んでくれたのだろうか? 私は急いで階段を駆け下りた。


「朝から騒々しいな、どうしたんだ? 」


 眠そうな声で声をかけてきたのは私によく似たブロンドヘアに蒼い瞳の青年──────トパーズ兄さんだった!


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