小鬼伝説 ~攻撃魔法が使えなくなってしまった魔法使いのパートナーは異世界から転生してきたゴブリンでした~

@yusuke226

0-1「魔法使いの少女、ダイヤ」

 ♢


 フワァと心地よい風が頬を撫でる中、同級生たちが次々に呪文を唱える音が聞こえる。




 今日は私が通っている冒険者を育てる学校の魔法使い科の実技の講義中だった。




 科目は待ちに待った攻撃魔法! 魔法使いと言えば攻撃魔法だと思っていたので今日の講義は待ち遠しかった。私の学校はニンビギでは1番大きな学校だけあって学校も校庭もかなり広い。




 大理石の校舎に土のある校庭とミスマッチな気はするけれど。




 今日はその校庭で先生数人と生徒数名がチームを組んで先生に向かって何度も炎の攻撃呪文を放つというものだ。生徒が次々と先生に炎の魔法を放っているのがみえる。




「『ファイエア 』! 」




 私の前の生徒サマンサが炎を出す呪文を唱えると杖から炎が現れて先生目掛けて進んでいく。人によっては炎が出なかったり、出ても小さすぎてすぐ消えてしまったりしていたのだが優等生のサマンサだけあって炎は教科書に載っているお手本のような大きさだ。




「『シルド 』! 」




 しかし先生が盾の呪文を唱えると透明な盾に遮られ炎は消滅した。




「やっぱり先生のはまだ破れないか~」




 サマンサが少し悔しそうな顔をした。




「流石サマンサさん。それでは、次は……ダイヤさん!ダイヤ・ガーネットさんの番ですよ」




「は、はい! 」




 ───遂に私の番が来た。緊張で生唾を飲み込む。ここまでの講義で理論は完璧、炎が心臓から体、杖と流れるように伝わる様をイメージして、呪文とともに放つ!




「『ファイエア』! 」




 杖から巨大な炎が現れる、優等生のサマンサよりも大きい! と浮かれたのもつかの間、炎は校庭の土を抉りながら進み先生達の後ろに立っている私たちの学校までも焼き尽くさんとばかりに進んでいく。




「まずい!皆さん! こちらに集まってください! ! 」




「「「『シルド 』! ! ! 」」」




 先生たちが盾の呪文を唱え幾つものシールドが展開される。私の出した炎はそのシールドを1枚……また1枚と砕いて進んだが僅か1枚というところで消滅した。




「ダイヤさん………………」




 先生の困惑した顔が目に入った。




「嘘でしょ? 」




「酷い、先生たちあんなに苦しんでる」




「あの娘学校壊す気だったの? 信じられない……」




 辺りがざわざわと騒ぎ出し、皆が私を責める声が聞こえる。あのまま炎が進んでいたら私は学校を壊していた。




「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」




 私は何度も何度も謝罪の言葉を繰り返しながら、あまりの恐ろしさに崩れるように意識を失った。






 ~5年後~




「ダイヤー、起きなさーい」




 日が昇り数時間が経ったあと、母に起こされ私は目を覚ました。




「まったく、貴方は相変わらずお寝坊さんね」




「やめてよーもう! 」




 あれから5年、父と母の助けもあって私はあの出来事から立ち直った。いつもと変わらない朝、いつもと変わらない会話。木製のベッドに机に椅子に整理整頓された魔術書があるだけの女の子らしからぬ部屋。しかし1つだけ違うことがある。




「貴方明日で18歳でしょ」




 この国では18歳で冒険者登録ができる。登録のためには王様に認められるのが必要なのだが、ここトータスから王様のいるニンビギまではかなりの距離があるため早朝には家を出なければならない。


 だから母とこのように母に起こしてもらうのは今日が最後なのだ。




 階段を降りて食卓に行くと父がすでに座って待っていた。




「おはようダイヤ」




「おはようございます、オパールお父さん」




 父に笑顔で挨拶をする。


 私たちはガーネットいう姓が宝石だということにちなんで名前も宝石から付けられたらしい。ガーネット家の習わしらしい。ちなみに兄の名前はトパーズで母の名前はサファイアだ。


 父が母を名前で選んだとは考えたくはない。




「ダイヤ、荷支度は済ませたのか? 」




「昨夜済ませたよ」




「大丈夫? 忘れ物とかない? 」




 母が心配そうな顔をする。




「大丈夫だよ、杖はお父さんが用意してくれているからまだないけど薬草は買ったし冒険者用に必要なものも買ったよ! 後は明日になるのを待つだけ! 」




「そう、それなら心配なさそうね、いい人がみつかるといいんだけど…………」




 ニンビギには経験者未経験者問わず冒険者同士で出会える場所がある。冒険者登録をしたあと、冒険者同士でパーティを組むことができる。特殊な事情がある私としては、是非ともパーティを組みたいところだが果たして見つかるのかどうか不安がないといえば嘘になる。




「やっぱりルイーダ君と組むべきよ! せっかく誘ってくれているんだし」




「で、でも彼は……」




 彼、ルイーダは剣士としてニンビギの学校を優秀な成績を収め卒業し、成績も良いと周りからの評判も良かったのだが私は彼が密かに友人と学生を見下している会話を聞いてしまった。それ以来彼とはあまり関わりたくはなかった。


 母はそれを知らずに不安気に続ける。




「そんなこといって誰も見つからないで1人に旅をすることになって行方不明……なんて嫌よ。トパーズみたいに………………」




 それを聞いて食事の手が止まる。トパーズ兄さん、3年前から音信不通となってしまったけどどこで何をしているんだろう。それを




「まあ、本人が嫌がっているなら仕方がないだろう。冒険者は仲間同士の連携、信頼関係も重要なんだから」




 朝食のトーストとスクランブルエッグも進まず俯いた姿を見て父が助け舟を出してくれた。




「それもそうね」




 母は残念そうにトーストを齧った。母からすれば同い年で剣士としても優秀な彼を娘が拒否するという理由が分からないのだろう。18歳になったものは冒険者の資格を得られるものの私のように特殊でなければ別に冒険者にならなくても良い。そこを私のために冒険者になるというのだからなおさらのことだろう。それもそうだ、彼はばれないようにやってきたし今でも私にバレていないだろうと好青年のように接してくれるからだ。




 私が5年前に学校を破壊しかけても────その事件がきっかけで私が攻撃系の魔法を使えなくなってしまったとしても。




 とはいっても、魔力がないわけでも理論が分からないわけでもない。恐らく口で唱えることができれば呪文自体は、少なくとも昔使えた『ファイエア』なら打てるとは思う。




 問題は、心。




 私が攻撃の呪文を使おうとするとあのときのことがフラッシュバックされてしまう。同級生や先生たちの驚いて恐ろしいモノを見るかのような顔に囁く声、そして魔法が辺り構わず破壊してしまうかもしれないという恐怖。




 それらのことがあって、私は攻撃の呪文が唱えられなくなってしまったのだ。何度か試しては観たけど盾や回復、照明の呪文なら唱えられることができるのだけど攻撃の呪文はどれも唱えようとしても言葉にならない。




 でも、やらなきゃいけないんだ!




 私は不安も一緒に齧るようにトーストを力強く齧った。




ステータス


ダイヤ・ガーネット


【職業】魔法使い、冒険者


【種族】ヒューマン


【武器】伝説の杖


【防具】鎖帷子


【筋力】D


【魔力】A+


【魔法】シルド(盾)、ヒール(回復)、フラッッシュ(発光)


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