空中都市 ミューニア

カルメン

episode 1『ディーとの対面』そしてシドーとモリー

有意義な一時を過ごして頂けると光栄です。






episode 1『ディーとの対面』そしてシドーとモリー




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なんだか酷く頭が痛い。


すぐ側(そば)で誰かの声が聞こえた俺は、ゆっくりと目を開いた。


そこにはとても眩しい青空(そら)が、ただただ広がっている。


どういう訳か、寝ていたようだ。


その時、短髪で青髪の少年が、俺を覗いた。そして、まじまじと俺を見ている。小学三、四年生位だろうか。純粋で美しい、青い瞳(め)だ。外国の子か?それと、少し変な格好をしている。


改めてじっくり見られると、なんかこう緊張してしまう。しかも至近距離だし。


それから数秒の間見つめられた後、その少年がくすっと笑った。なんか可愛い。






『あっ!ごめん、大丈夫?立てる?』






俺を心配してくれているみたいだ、優しいな。


見た目は外国の子供なのに、日本語が話せるのか。家族に日本人が居るのかもしれない。






『うん、大丈夫。ありがとう』






俺は服とズボンに付いていた汚(よご)れを手で払いのけながら、その場に立った。






『あー、気持ちいい。凄い解放感だな』






まるで、サバンナの草原に居るかの様だ。でもなんでだ?いったい此処(ここ)は。






『君は可笑(おか)しな事を言うんだね。僕はS(ストットル).ディッシャー。今日で10才になったんだー。皆からは『ディー』って呼ばれてるからそう呼んでね。そっちは?』






やっぱり外人か。移住してきたのだろうか。それとも観光とかかな?ふと、そんな事を考えながら答える。






『俺は神代カミシロ 数間カズマ。多分、俺も今日で20歳だ。友人からはカズって呼ばれてるけど、好きに呼んでくれて大丈夫だ』






どうして多分と言ったのか、それはここ数日の記憶が曖昧だからだ。ここは何処(どこ)なのかさえも全く分からない。






『君も今日が誕生日なんだー?後で一緒にお祝いしなきゃね!ところで、あまり聞かない名前だね。うーん、、よし!じゃあ「カズくん」ってよんでいいかなー?』






少し時間を置いて答える。






『い、良いけど』






やっぱり、「くん」ってなんか恥ずかしくなってきた。年下だしどうせなら呼び捨てにしてもらった方が、、なんだ、地震か?少しだけ地面が揺れている。






『あっ!心配ないよ、この場所は結界で守られているから。ここではよくあるんだー』






ここではよくある?結界?






『そうだ!まだ言ってなかったね。ここ『空中都市(くうちゅうとし)』の事』






ん?二人に静かな沈黙が流れる。






『空中都市?』






今、そう言ったのか?






『そう。今カズ君が居る空中都市は、今から約6000年も前からある『ミューニア』って名前の都市。つまり王国ってやつだね。さっきの揺れは大気圏の中の空気の乱れが、この国とぶつかることで起こる現象なんだー。そして、』






『お、おい!ちょっと待ってくれ。つまりディッシャーは今、俺達が居るこの場所が『空中都市』だと言いたいのか!?』






駄目だ、また頭が痛くなってきた。これは夢なのか。一回落ち着こう。もしかして、俺は死んだのか?だとしたら何時(いつ)何処(どこ)で?






『勿論、現実だよ。だから言ったでしょ、ここは空中都市のミューニア王国。現ランス国王が治めてるんだー。それと、僕のことはディーって呼んでってばー』






うん?なんで俺の思ってる事が分かったんだ!?






『成(な)る程(ほど)、ってなるかよ!どうして俺の考えてる事がわかったんだ?ディーはもしかして、超能力者か?』






変な事ばかり言っているので、少しからかってやる事にした。






『うーん、そうかもしれないね!』






冗談のつもりで言ったのだが、即答だった。






『ふぇ?』






意外な答えに思わず間の抜けた声を出してしまった。






『超能力っていうのは分からないけど、一種の能力、といったところは似てるかもね。この世界には、他にも剣術や魔術、自衛術、護衛術、秘術が在り、その他には国の許可が無いと使うことが許されていない強力な魔法、則(すなわ)ち禁術も存在します。こんな形で、色々在(あ)るんだー。面白いでしょ?』






また、ディーが変なことを言い出した。






『おいおい、嘘だろ』






『全くもう、そんなのでよく今迄(いままで)やってこれたね。じゃあ、今から見せるから付いてきてよ』






『ん?何を見せるんだ?』






『決まってるでしょ、強力な魔法の力によって、この国が浮いているところだよ』






『なんか楽しそうだな、でもそれって危険なんじゃないのか?』






魔法なんて本当に実在するかも怪しい上に、道中(どうちゅう)何が起きるかも分からない。何てったって、回りはサバンナだし。


仮にもここが空中都市だったとして、一体どうやって確かめるんだ?空中都市を一望できる場所が存在したりするのか?まさか、崖からバンジージャンプって事は無いだろうか。マリア様、どうかご加護を。






『心配しなくても、僕がついてるから安心して下さい!』






何言ってんだよ、見るからに子供だし、なんか弱そ






『心外ですよぉ、僕はこう見えてもそれなりには強いんですからねー!』






『ったく、なんで分かるんだよ!?』






本当に、心って読めたりするのか?第一に、空中都市なんて小説でもあまり見掛けないと思うんだが?俺が知ってる話といえば、ラピ@タ位じゃないか?でも、少しだけ興味が出てきたな。本当に存在するものなら、是非この目で見てみたいな、空中都市。


それからひたすらに景色の変わらない平地(へいち)を歩いた。この世界ミューニアの事を聞いたり、日本の国の事を話したりしながら、30分程経った頃に、それはあった。所々に金の装飾品が目立つ絢爛豪華な、橋の様な門だ。しかも、多分だが、凱旋門より大きい気がする。


こんなの一体どうやって造ったんだ?因みにだが、パリには幼い頃から父の仕事上、何度か行ったことがある。


それにしても、城壁と言われても違和感が無い程に、門はどこまでも続いている。


ディーに『ここで待ってて』と言われ、少しばかり離れた所で、石のようにじっと椅子に座っていると『いくら何でもお一人では危険過ぎます!』『そうですよ、今日は大切な行事もあることですし』『なら貴方達も護衛として付いて来れば良いじゃないですか?』そんな話し声が聞こえてきた。






ディーが誰かと揉めている?あれは門番の人だろうか、右側に居る人の見た目は、金髪でチャラチャラしていて、都会でよく見掛けそうな人だ、袖の間から見える筋肉から、屈強さが伝わってくる。同じく左側の人は紫色の長髪で知的な感じがする。そして豪華な服を着ている。この人は所謂(いわゆる)、賢者みたいだな。


俺から見る限り、二人一組って感じかな?おっ、ディーがこっちに向かって走って来る。






『待たせてごめんねー、では行きましょうか』






『おいディー、本当に大丈夫なのか?』






『心配性ですねー、カズ君は。大丈夫ですよ、休憩の時間帯だった事もあって、あの方達も付いてきてくれるそうですからね』






ふぅ、そうか。あの人達と一緒なら、安心だな。一瞬、ディーがこちらを見た気がするが、多分気のせいだと思う。






『俺はシドーだ。主(おも)に東門(とうもん)の警備を担当している。宜しくな』






シドーさんは、見た目と違って頼りがいがありそうだ。






『私はモリーです。同じくシドーと一緒に兵士として働いています。宜しく』






この人はモリーさんか、なんというか見た目通りって感じで、凄い優しそうだ。やっぱり二人ペアで働いているらしい。






『僕は神城(カミシロ) 数間(カズマ)です。好きなように呼んで下さい』






俺も簡単に自己紹介をする。






『あっ、僕はカズ君って呼んでるから貴方達もカズ君って呼べば良いんじゃない?』






ディーがまた馬鹿な事を言い出した。






『カズ君!?』






『カズ君ですか!?』






シドーさんとモリーさんが声を揃えて驚いている。数秒の沈黙が流れた。本日2回目だ。先に喋り出したのは意外にもモリーさんだった。






『私は『カズ』がしっくりきますが』






うん。俺もその方が自然だと思う。






『そうですよ!年下に君はちょっと抵抗が』






当たり前だよ。と言いたかったが空気を察して飲み込んだ。






『えー、そうかなー?』






はぁ。ディーとは後で人との関わり方について、じっくり話し合わないといけないな。口だけは達者だから、気が付かなかったが、まだ子供だもんな。社会に出ると色々あるからな、10才には早いかもしれないが、勉強していて損は無いだろう。そんな事を考えつつ、先陣を切る。






『僕もカズって呼んでくれると嬉』






『そうだよな!』






『そうでしょう!』






何を慌ててるんだこの人達は、またも声を揃えたところを考えると、双子なのかと思ってしまう。しかも話の途中だったしな。






『では僕もモリーさん、シドーさん、でいいですか?』






二人の呼び方を決めてない事に気付いた俺は、慌てて確認する。






『ああ、良いぜ』






シドーさんが笑顔で返事をする。この人、怒ると怖そうだが、笑うとすごくカッコいい、男の俺でも惚れてしまいそうなんだから、絶対モテるだろうな。羨ましい。






『勿論もちろんです』






モリーさんも、優しく頷いてくれた。


無難に言ってみたが二人とも了承してくれたみたいだ。






『じゃあ、自己紹介もこのくらいにしてカズ君行こうか』






なんだその態度は、お前が言い出したんだろ!と誰もが言いたくなったに違いない。だが同時に、言っても無駄だとも分かりきっていた。






俺は申し訳がなさそうに『すみません』と言うと、お馴染みのハモりで『いえいえ』『気にするな』と言ってくれた。凄く好(い)い人達だ。だが一つの疑問が残ったままだった。


そんなこんなでようやく門を通り、モリーさんやシドーさん、それからディーとで、この世界の無駄話や世間話を聞かせてもらいながら20分余り、また変わらぬ草原を歩いたところだろうか。


これ又、大きな薄緑色のガラスを張ってある所まで来た。いや、実際には俺達を包み込んでいるという表現の方が正しいかな。






『あれは護衛術の結界といって、この国を守っている術の一つです。この結界の向こう側には、東に『ミューニアの樹海』西に『果て無しの荒れ地』更には伝説として、南に『竜の住む都』北に『魔女の街』が在(あ)るとされていますが、近付く者は自殺行為と言っても過言では無い程に危険な区域となっています。他にも各地にギルドハウスが多数存在します』






東西南北に『何が在る』かは別として、丁寧に説明してくれたのはモリーさんだ。






『そして樹海からやって来る魔物、モンスターを一匹残らず叩き潰す。それが東門担当者の俺らの役目って訳だ』






その時のシドーさんの瞳(め)は、獲物を狩ろうとしている野獣そのものだった。この人ならどんな敵がやって来ても、戦いを楽しんでいそうだ。


そして、今までミューニアで見てきた建築物の中で、際立って一番大きな建物(モリーさんに聞いたところ、『おおよそ670メートルくらい』だそうだ)に案内された。ここでもこんなに高い建物を造る事が出来るのか。一体、何階建てなんだ?そんな事を思っていると、はい。空間転送装置(リート)の前まで来ました。






『これはリートといって、指定された場所まで一瞬で移動する事が出来るんだー』






ディーが自慢気に語りだした。だが確かに凄いと思う。日本にもエレベーターという機械があるが、一瞬で移動する事は出来ないからな。


モリーさん曰(いわ)く、これは『秘術の部類に入る、転移の方法を応用している』そうだ。


そのリートという装置に、4人で乗り込むと同時に静寂が訪れた。本日3回目。


先に口を開いたのは、またもやモリーさんだった。






『カズは、この都市が実際に浮遊しているところを観たいのでしたね。その理由を聞いても?』






モリーさんが珍しいものを見る目で聞いてきた。






『別にこれといった理由はないんですが、ディーが空中都市を見せたいと言うのでついて来たんです。まぁ僕自身も最初は少し疑いの目はありましたが、さっきの大きな結界や、このリートという装置といい、皆さんのお話を聞く限り、信じる他ありませんが』






俺は思っていたことをモリーさんに伝えた。






『成る程、カズはもしかすると、異世界から来たのではないでしょうか?』






モリーさんが改めて質問してくる。






『い、異世界から来たですか?』






全く心当たりが無い俺は、思わずおうむ返しする。






『はい、ごく稀に、何かの拍子(ひょうし)でここ、ミューニアに突如(とつじょ)として、異世界人が現れると、歴史の書に記(しる)してあったのを思い出しまして』






はぁ。ここに来る機会が何時いつあったのだろうか。


生憎あいにく、記憶が消えかかっている俺には見当もつかない。






『成(な)る程(ほど)な!カズは異世界の奴だったのか!道理(どうり)で見掛けない顔や名前だと思ったぜ!』






シドーさんは一人で納得して、何度も頷いている。






『でも、記憶が曖昧な事もあって、全く身に覚えがないんですが』






記憶が曖昧な事が、こんなにも厄介なのだと、この時初めて感じさせられた。






『ま、そのうち思い出すさ。それまではこっちでのんびり暮らせばいい。なんなら、少し狭いが俺ん家(ち)貸してやるよ』






どんだけポジティブなんだシドーさんは。でも今はお金だけでなく、全くもって何もないので、居候(いそうろう)させてくれるとすごく有難(ありがた)い。


一方のモリーさんはというと、『だと良いのですがね。何と言ってもあれがどうなるのか』と、なにやら心配そうに呟いていた。この時、お互いに正反対だからこその絆の深さを感じた様な気がした。






『あっ、もうそろそろ最上階ですよー』






さっきまで大人しかったディーが、元気に声を発した。程無(ほどな)くしてドアが開くと、そこには日本では絶対に、いや地球上でも恐らく観ることの出来ないであろう、想像を絶する景色が広がっていた。






『初めて来たが、これはスゲェーな!』






すぐ横で、シドーさんも驚いている様子だ。






『素晴らしい場所だとは聞いていましたが、まさかこれ程までとは!生きている間に拝見出来て感無量です』






この二人を唸らせるのだから、相当に凄い事が分かる。俺も開(あ)いた口が塞がらない程にだ。






『どう?カズ君。ここは絶景でしょー?』






ここでもディーは、腕を組んで自慢していた。






『これはすごい!正直、言葉が上手く出ないよ』






この建物自体、透明なガラスで覆う様に造られているからか、視界のほぼ全方位(ぜんほうい)に、様々な色彩が見てとれる、美しい景色が続いている。まるで、春夏秋冬が織交ざったような景色だ。


そして俺は見てしまった。草原と海が綺麗に分かれているところを。いや違う、あれは海の上に、この国が浮いているのだ。


俺はただ愕然(がくぜん)と、『それ』の存在を実感していた。


そしてあれは、西の方にある、『果て無しの荒れ地』だろうか?想像してたものより遥かに広く、大きかった。他にも樹海らしきものも見てとれる。樹海は日本にも有名なものが在あるが、次元が違うと思う。






『それは良かったです!ところで、あれはもう見ましたか?』






ディーが指すところに目を向けると、何かが浮いている?あれは何かと考えていたそのとき、耳を疑った。ディーと、シドーさんモリーさんの3人が、一斉(いっせい)に声を揃えてこう言い放ったのだ。『空中都市 フーラント』と。俺は急いでそこにあった双眼鏡で覗く。






『ほ、本当に浮いている!?』






それしか言葉が出なかった。






『信じてくれましたか?ここが空中都市だという事を』






別に信じてなかった訳ではない、急にこんな場所に来て、少し頭が混乱していたのだ。






『ああ、元より途中くらいから、ディーが嘘を言っているなんて、思ってなかったけどね』






でも何であんなに大きいものが浮くのか、今度物識(ものし)りなモリーさんに聞いてみよう。






今日という一日で確信した事がある。これは夢ではなく、現実だという事。今居るこの場所は日本ではなく、『空中都市 ミューニア』だという事。そして空中都市は、ミューニアだけではない事。正直に言うと、これだけでも、纏(まとめ)るのに時間が掛かってしまった。この世界(ミューニア)で、俺は生きて行けるのだろうか。あぁ、マリア様、俺はいま、不安しかありません。




to be continued……

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