第6話 大迷宮の騎士

げっそりと痩せた老兵が病院のベットのようなところに座り込んでいる

兜を目深にかぶった銀色の鎧の下にはやせ細った体がある

その腹はもはや背骨のみで拳で握れるほどの太さになっていた


「あんたがあの伝説の騎士か」


黒の魔法槍の青年が独り言のようにつぶやいた


真っ白で曇り一つない壁が続いている

その迷路に勇者一行は足を踏み入れた


「うはー迷路かめんどくさい」

「ここでは何が手に入るんだ?」


「・・・ここでは何も手に入らないかもしれない」


「なに?」


「ここにはある人物の伝説があるんだ」


「ある人物の伝説?」


「ああ、その名は・・・」


「辺境の騎士ドン・キホーテ」


「!!」


「でもそれはおとぎ話だろう」


「そうだな、ほとんどの人がそう思っている」


「ただ一人を除いては」


「無敗の騎士 カダラ二」


よく聞かされたもんだ


いいか息子よわれは最強の騎士かもしれぬ

しかしわれは同時に勇気なき騎士の可能性があるのだ

勇気というのは自分では達成困難なものに向かっていくときに

初めて示されるもの

われは最強故それができぬ


故にわれより強き騎士が来たとき

われは立ち向かえるのかそれは永久にわからぬであろう


自慢なのかなんなのかわからんな


ただの事実だよ


しかし、

我が唯一尊敬する大騎士ドン・キホーテ殿は

どのような強大な敵であっても必ず立ち向かいそして敗れ去っているだろう

その勇気あこがれる部分がある


その大騎士がここにいると、、、


まあいたとしても勇気だけだろ

何か受け継げるものがあるとは思えないけど


大きな音とともに迷路の形が変わっていく

仲間は離れ離れとなり

それぞれの道を行く


各々の武器を使ってもその壁は決して崩れず

迷路攻略のヒントもない


とりあえず進むただすすむ

迷路の壁が緑から紫になった時

その老人が現れた


あなたが大騎士ドン・キホーテ様ですか


そなたは?


私は無敗の騎士 カダラ二の息子です


カラダニ?知らんな

静かにしてくれ集中しとるんじゃ


集中?なんのためにこの迷路から出るためにですか?


はあ?貴様何を言っておる?

貴様は何のためにここにおる?


私は魔王を倒すために、、、


本当に?


は?


本当にそれが目的か?

では魔王を倒せればあとはどうでもよいのか?


いやどうでもいいわけでは、、、


貫けぬ、、、

それでは貫けぬのよ

そのような腑抜けた槍では

何も貫くことはできん

貫くのは槍ではない

おのが心信念それが槍と化さなければ

何物も貫くことはできぬ

己を槍と化してすべてを貫け

それができずして何が騎士か


おもむろに立ち上がった老人は背を向けていた壁の凹みに向かって

正拳突きを加えた

壁は粉々に砕け散った


ぼろぼろに砕けた拳を見て黒騎士はその突きが

まして最初の一撃でないことを悟った


壁などぶち壊してくれるわ


そういった老騎士は打ち破った壁の穴をくぐり次の壁を背にまた座った


黒騎士は狂ったように笑い始めた


爺さん最高


そう叫んだ黒騎士は老人のやせ細った腹を握りしめ

老人を壁に打ち付け始めた

老人は砕け散りバラバラになりながらも

桎梏に輝き始めた


砕け散り血にまみれた部分が再生され

老人そのものが固い槍と化していた


お前自身が槍なんだろ?


笑いながら何度も何度も壁に打ち付けるごとに

老人は老人で亡くなり

輝きはさらに深くまぶしく

究極の槍となった


狂気


それに身を任せた黒騎士には貫くことが分かった


魔王を殺せればそれでいい


そう貫いたとき世界は真っ白となり

線だけの白い世界の中

力の抜けたその純真な一撃は迷路どころか

この地下を貫き地上への一本道を貫いていた


貫く貫くうるせー


黒いロシナンテに乗って

ぶつぶつ言いながらその道を歩き出す黒騎士の後ろを勇者一行が続いていた

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そこはかとなく裏切り @dantuzidou

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