英雄に愛された女

譚月遊生季

英雄に愛された女

 愛した人がいました。

 心の底から、全てを捧げられる人でした。この人となら、結婚してもいいと思いました。

 私のことも深く愛して、たくさん、素敵な言葉と思い出をくれた人でした。


 けれど、あなたは捨てました。……その未来を捨てて、他のものを選びました。

 あなたはそれで幸せだったでしょう。満足だったでしょう。私の想いも知らず、私の嘆きも知らないところで、きっと今も幸せなんでしょう。


 許さない。許さない。許さない。

 永遠に許さない。

 たとえ私が死んだって、許してなんかやるものか。

 謝れもしないでしょうけど、土下座して詫びたって、まだ真新しい靴を投げつけてやるんだ。


 あなたの行為で、あなたの裏切りで、不幸になったのは私だけ。

 笑えなくなったのは私だけ。

 今すぐ殴り飛ばしたい。唾を吐き捨てたい。胸ぐらを掴んで、叫びたい。参ったと言ったって、その顔面を引っ掻いてやりたい。


 誰があなたを褒めたたえたって、偉大だと謳ったって、私は許してなんかやらない。


「偉いわねぇ。立派に殉職なさって……」

「自慢の息子です」

「まさしく、現代の英雄と呼べるでしょう」


 あなたの死を、嘆き恨み、悔やむのは、私だけ。

 ……あなたの生を願っているのは、私だけ。

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英雄に愛された女 譚月遊生季 @under_moon

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