檸檬

桜田さんとの出来事から数週間がたった、冬休み中

神田くんからの連絡…


「……今空いてる…?」


驚きすぎて思わず声に出してしまう

空いてるよ、と一言返すと外を見てと返ってきた

そっと自分の部屋から外を見ると神田くんが居る…手を振ってきたその姿に不覚にもドキッとしたなんて何かの思い違いだよね

急いで着替えて家を出る


「ごめんね、待たせたよね」

「いや、俺が勝手に来ちゃっただけだから…気にしないで」

「…うん…でも急にどうしたの?神田くん…」

「母さんが連れて来いって…今日、クリスマスイブだし…」

「あ、…そっか…今日クリスマスイブ…」


そんなこと、普通に忘れちゃってたなぁ…


「立花さん、用事あるかもしれないと思ってたんだけど…大丈夫だった?」

「うん…大丈夫だよ。親が家にいること少ないし、私1人っ子だから」

「そっか…」


深入りはしないようにしてくれる神田くんに感謝…

多分、私の噂も知っていて呼んでくれたんだろうな…


「別に、同情とかじゃないよ立花さん」

「え?」

「確かに俺も噂は知ってるけど……父さんも立花さんに会いたいって言ってたし…母さんは立花さんのこと大好きだから…」

「神田くん…」

「だから立花さんの家がどうとか…俺は気にもしないし何かを聞くつもりもない…立花さんが可哀想だと思って呼んだ訳でもない……俺も立花さんと居るの好きだから呼んだんだよ…」

「うん…ありがとう…」


優しい…神田くんの家族はみんな暖かくて泣いてしまいそうになる。

本当は寂しかったのかもしれない

愛を知らないから、恋ができないんだって思ってたの

でもね、結構近くに愛ってあるんだね…

本当に人それぞれ形って違うんだね

恋とは別なものなんだね…神田くん


「いらっしゃい優衣ちゃん!」

「いらっしゃい」

「お邪魔します」


美咲さんと…眼鏡をかけた多分神田くんのお父さん

ニコニコと微笑んでる姿は優しそうだ


「よーし!語るわよ~!」

「もちろんです!」


こんなにも楽しいクリスマスイブはいつぶりかな…


「優衣ちゃん、今日泊まっていったら?」

「流石にそこまでしていただくわけには…」

「いいじゃない…!クリスマスイブなんだから~」


まあ、家に帰っても誰もいないんだけど…そこまでお世話になる訳にも行かない


「いいのよ、気にしちゃダメ!その代わりって言ったらアレだけど…今晩は私といっぱい語り合いましょうね!」


押し負けた。普通に押し負けた…

申し訳なさそうな顔をしてる神田くんと神田くんのお父さんの悠介ゆうすけさん

二人共本当に似てる…


「立花さん、ごめんね、」

「ううん、大丈夫だよ?私も楽しいし…むしろごめんね…?」

「立花さんは何も悪くないよ…」

「だって折角家族水入らずで…」

「母さん、立花さんのこと家族同然だと思ってるみたいだから気にしないで」

「え…?」

「楽しそうに今日の準備して…父さんにも可愛い子が居るんだーって自慢してて……」

「…なんか嬉しいなぁ」


家族同然だって言ってくれるのが嬉しくて

少しだけ、泣きそうだった


「見てないから、泣いてもいいんだけどなぁ…」


なんて神田くんが呟いていたのを私は気づかなかった


「あらもうこんな時間…!そろそろ寝ましょうか…」


時刻は夜の11時半…

おやすみなさいなんて言葉久しぶりに言われたな…そんなことを思いながら布団に入る

いつもは広い部屋が寒くて仕方がないのに今日は寒くない…

ふわふわのベッドに布団…少しだけ柑橘系のいい香りがする……

なんてしていると誰が部屋に入ってきた

撫でられてる…優しい…男の人の手…?神田くん…?自分の目で確かめたかったけど睡魔に邪魔をされそのまま眠ってしまった




翌朝、ベッドの片隅には可愛くラッピングされたが2つ


「蜂蜜キャンディーと…レモンキャンディー…?」


丁寧に折りたたまれた白い紙

蜂蜜キャンディーは美咲さんの字で「Merry X'mas 優衣ちゃん、これからもたくさんお話しましょうね♡もう優衣ちゃんは家族も同然よ!」と可愛らしく書かれていて

レモンキャンディーの方は神田くんの丁寧な字で「Merry X'mas」と書かれていた…

今年のクリスマスは幸せ過ぎる

私も何かお返ししないと……神田くんも美咲さんも悠介さんも喜んでくれるもの…

少しだけ翌日からの休みも楽しみになっていた



「…立花さん、入っても大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「おはよう…よく寝れた?」

「おはよう。うん、寝れた…」

「なら良かった…」


家に居る時よりも疲れが取れていたから…それくらい安心して眠ってたんだと思う


「ねえ、神田くん…」

「どうしたの…?」

「昨日の夜…」


私の頭撫でた…?なんて聞けるわけがない……


「立花さん?」

「えっと………寝顔、見た…?」

「あ、…」

「私変な顔とかしてなかったよね……?大丈夫だった…?」

「いつも通りかわ、い………変な顔なんてしてなかったよ…」


泣いてたから頭を撫でてしまったとか

いつも通り可愛い顔だったとか…

変な顔でも別に可愛いとか…

俺何言おうとしたんだろう…危ない…


「そ、そっか…なら良かった……」

「うん…」


何か言いたげな神田くんの表情

少しだけ気まずい雰囲気になっちゃったけど朝食を食べ終わるとそれも無くなっていて本の話が始まった


時刻はお昼の4時


「え、もうこんな時間なんだ……流石にそろそろ帰らなきゃ…」

「そうね…半ば無理やり泊めさせちゃったし今日は早めに解散しましょうか……寂しいけど優衣ちゃん…!また遊びに来るのよ…!」

「はい…!」


本当に神田くんの家族は優しくて暖かくて…心地がいい

今日も神田くんが帰り送ってくれて沢山の優しさを貰った日だった


「じゃあ…神田くんも気をつけてね」

「うん、ありがとう。またいつでもおいで」

「うん、ありがとう…」


神田くんの好きな物ってなんだろう…聞きそびれちゃったなぁ…


「ただいま」


誰もいない家の中、無機質な扉の音が響いた

少しだけ寂しくなって貰ったレモンキャンディーを口に入れる

ほんのり感じる酸味がいい…


「美味しい…」


少しだけ目の前が歪んだ

明日は近くの雑貨屋さんで何かお返しでも探そうかな

気づいたけど私…お家にも行かせてもらったり話す回数は増えてたのに神田くんについてなんにも知らないや…

明日連絡入れてみようかな…

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