珈琲

翌朝学校に行くと梨沙に声をかけられた


「どうだった?」

「え?どうだった…って、何が?」

「だから、神田くんと居たんでしょ?昨日」

「居たけど…話したのは神田くんのお母さんだし…どうって何も……神田くんが優しかったとしか言いようないけど…」

「へぇ〜?」


楽しそうな梨沙の顔

本当に何も無かったんだけどなぁ…


「立花さん、おはよう」

「あ、神田くん…!おはよう…昨日はありがとうね」

「いえいえ、母さんも楽しんでたみたいだしこちらこそありがとう」

「ん、あと昨日のお礼って言ったらしょぼいけど…ただの気持ちとして受け取って?」

「…飴…?」

「うん、昨日のお礼ね!」

「ありがとう…」


周りの視線は少し痛かったけど神田くんが嬉しそうに笑ってくれたから渡せて良かった…


「なあ、悠馬……お前…」

「ん?なに…玲」

「いーや、なんでもない。応援してるぞ俺は…!」

「…?意味わかんないんだけど…」



そしてお昼休み


「はぁ…疲れたー…」

「優衣、本返しに行かなくていいの?」

「あっ、…行ってくる!すぐ戻ってくるからお昼先食べてて…!」

「はーい、気をつけるんだよー」


気をつけるんだよーって…毎回毎回…梨沙お母さんみたい

でもそんなとこが後輩にも慕われる理由だし優しいんだよね…!自慢の親友です!

なんて上機嫌に廊下を歩いていると声が聞こえた


「先生、何で私じゃダメなんですか…」

「あのなぁ、…一応妻も子供もいるおじさんだぞ…それにお前はまだまだ出会いがあるんだから何も俺じゃなくても…」


クラスの人気者の桜田さんと担任の倉重先生…


「先生から見たら子供かもしれない…でも、私は心から……」


これって、禁断の恋と言うやつでは…?

泣きそうな桜田さんの顔…困っている倉重先生…

本当にこんな小説みたいな光景ってあるんだ…

私はそっとその場をあとにした


「あれ?神田くん…」

「あ、立花さん…、立花さんも本を返しに…?」

「うん、そうだよ」

「この学校の図書室、本多いから好きなんだ」

「有難いよね〜」

「うん」


なんて話をしながら本を返して廊下を歩居ているとまた、声が聞こえてきた


「でもなあ……妻も子もいる既婚者で、学校の教員だからな…気持ちは嬉しいが応えることは出来ない」


まだ話してたんだ…


「…行こ、神田くん…」

「そうだね…」


何処と無く、悲しくなってしまう

小説を読む人ならわかるかもしれない

相手の心境を深く考えてしまうことがある

だから神田くんも少し悲しげなんだと思う


「あ、おかえりー、優衣遅かったね?」

「ただいまー、ごめんごめん、図書室混んでて」

「確かにここの学校、漫画も揃ってるし休み時間に貸し借りする人多いもんね〜」

「そうなんだよね〜」


結局、心のもやもやが取れないまま放課後になってしまった


「優衣帰ろ〜」

「うん!」

「あの、!立花さん…」

「桜田さん?」


何故か桜田さんに呼び止められる

いつも明るい彼女がどこか不安げだった


「さっきの事なんだけど…」


さっきの事って、もしかして…


「ごめん、梨沙ちょっとまってて?」

「あ、水無さんも一緒で大丈夫だよ…多分、…水無さんも見たことあると思う…」

「え?私も?」

「…私が、倉重先生のこと……」

「あー……優衣も見たんだね…でも、そのことなら私も優衣も誰にも言わないから大丈夫だよ?」

「ごめんなさい…ありがとう…」

「何も謝ることないよ!私ならお話聞けるし…!恋に理屈はないって言うから…!おばあちゃんの受け売りだけど」

「!ありがとう…!」


ニコニコと笑った彼女に頬が緩む

こりゃモテますよ…可愛いんですもん。

なんて思いながら梨沙を見てみたけど…顔真っ赤…??これって、…もしかして…

梨沙の好きな人は…桜田さん…?

分からないでもないなぁ…みんなに優しくて明るくて性格も本当にいいし…何より可愛い……世話焼きな梨沙が桜田さんのこと気にかけていても無理ないと思うし…好きになるのも仕方ないと思う

でも…先生が好きな桜田さんと…桜田さんが好きな梨沙と……凄くな関係…


「どうしたの優衣、帰ろ」

「あ、うん!」

「桜田さんも一緒にね」

「うん…!」


嬉しそうに微笑む桜田さん


「桜田さんって先生のどこに惹かれたの?」

「ちょっと梨沙…?」

「大丈夫だよ、…えっとね、全部?」

「全部かぁ…」

「気づいたら好きになってて…目で追ってて…諦められなくて……馬鹿なことだってわかってるんだけど…伝えなきゃって…」

「馬鹿なことなんかじゃないよ、かっこいいと思う」

「水無さん…」

「私じゃあ出来ないことだもん…桜田さんは凄いよ」

「……なんか、照れちゃうね…」


二人の会話を横目に、複雑な感情が湧き出てしまう


「あ、私こっちなので…」

「気をつけてね桜田さん」

「また明日〜」

「うん!また明日…!」


桜田さんと別れたあと、思い切って梨沙に話しかけようとすると…


「馬鹿なのは私だよね…」

「梨沙?」

「ダメだって私もわかってるんだよ…でも、諦められなくてね……上手くいかなければいいって思っちゃった」

「梨沙…」

「先生が結婚しててよかったって考えちゃった…最低だよね…」

「そんなことないよ…!」

「優衣?」

「だって好きな人が違う人を見ていたら苦しいのは当たり前でしょ、…?それで好きな子が苦しんでたら…自分だったら幸せに出来るのにって思うのも当たり前でしょ?」

「え?」

「それが純粋な恋心なんだと思う…」

「…そう、なのかな?」

「梨沙まだ諦めなくてもいいと思う……それにね、かっこよかったよ」

「え?」

「桜田さんに馬鹿なことなんかじゃないって伝えられたの」

「…優衣」

「大丈夫だよ、応援してる」

「うん…ありがとう」


心做しか悲しげな梨沙に胸が傷んだ

恋愛って難しいなぁ…

桜田さんにも梨沙にも幸せになって欲しいって思うのはわがままなのかな…

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