第一章 キャンディーに埋もれて
蜂蜜
「神田くん、この本読んだ?」
お昼休み、わざわざ神田くんの隣に座り話しかける
静かだけどふわりと笑って私の話を聞いてくれる神田くんは凄い優しいと思う
ほかの男子とは違う不思議な雰囲気だ
「愛を知った姫と執事の話…か」
「うん。神田くん恋愛小説はあんまり読まないって言ってたけど…これ結構面白くて…」
「このお話、最後主人公が亡くなっちゃうんだよね」
「え?知ってるの…?」
「ん、前に母さんが読んで泣いてた」
「お母さんが…?」
「多分、立花さんと仲良くなれると思うんだけど…」
「一度話してみたいなぁ…」
「ん、今度家においでよ…母さんに立花さんの話をしたら是非話したいって」
「いいの?」
「いいよ、?」
「じゃあ、お願いします…!」
神田くんのお母さんか…何度か話は聞いてたんだけど本当に話せちゃうのか〜
周りに小説好きが少ないから…小説の話をしてくれる人が居るのって凄い楽しいし幸せなんだよね
「起立、礼」
やっと帰りの挨拶が終わった放課後、神田くんに声をかけられた
「今日仕事休みらしいんだけど、来る?」
「行く!」
まさか今日のうちに会えるとは…嬉しすぎて泣きそう…
「優衣帰らないのー?」
「ごめん梨沙…!今日ちょっと用事が…」
「わかったよー!」
何故かにやにやしている梨沙…何考えてるんだろ…私なんか変な事言ったかなぁ…
「じゃあ行こうか」
「うん!」
噂通りと言っていいほどの豪邸…嘘でしょ……
「立花さん…?」
「え、あっ、…お邪魔します…!」
扉の奥から優しいおかえりなさいの声が聞こえたと思ったら綺麗な女の人がでてきた
「えーっと…」
「あ、悠馬の母の
「えっと、神田くんの友達の…」
「立花優衣ちゃんね!」
「そ、そうです…」
「とりあえず上がって〜!」
明るくて優しくて綺麗なお母さんだなぁ…
「母さん、俺宿題終わらせてくるから」
「はーい。じゃあ優衣ちゃん…!早速だけど悠馬とどんな関係…?」
「えっ、?」
「だってあの子今まで1度も友達の話なんてしてくれなかったんだもの…それが急に話してくれるようになったと思ったら女の子だし…こんな可愛い子だし…びっくりよね!」
「よく、本の話をするんです…私の話も真剣に聞いてくれて優しいですよ…?…あの、神田くんは私の事なんて言ってるんですか…?」
「んーとね、本が好きで優しくて、いつも笑顔な子…?」
「え?」
「この前も頼まれたわけじゃないのに本棚整理してたんだって話してくれたわよ〜」
誰にも見られてないと思ってた…
神田くんは気づいてくれてたんだ…
なんか嬉しいかも
「って、いけない…!この話はまた今度にしましょう!今は小説のお話最優先…!」
「あっ、そうでした」
「悠馬から聞いてるわよ〜…姫のお話!」
「あのお話、本当にラスト泣けるんですよね…」
「そうなのよ…愛を知ってしまった私はもう姫ではいられないって言って…自ら命を絶つのよね」
「最後の、水面に落ちた花の描写が好きすぎて…」
「分かるわ〜…優衣ちゃん話がわかる子…!切なくて苦しいのに愛があるのよね〜」
「結局姫も執事も報われないのに…どこか幸せで、残酷なお話なんですよね」
「私、執事の…愛を知った姫が悪魔だとするのなら愛を教えた私は死神ですって言うシーンが好きなのよ…」
「わ〜…分かります…分かります……結局執事は姫の後を追って亡くなるんですよね」
「本当に泣ける小説なのよね…」
なんて盛り上がっていると神田くんがカップを持って入ってきた
「立花さん、はちみつとか大丈夫だったよね…?」
「え?あ、うん…大丈夫だよ…?」
「なら良かった。外寒かったから…」
「ありがとう…」
「悠馬ったら…」
じゃあ、俺部屋戻るから…神田くんは部屋に戻ってしまった
何か言いたげな美咲さんの顔を見つめてみるけどニコニコ楽しそうな笑顔につられて笑ってしまった
言葉濁されちゃったけど…ま、いっか
その後、夕飯も食べさせてもらい本当に楽しい時間が過ぎていった
時刻は8時ちょうどで外はすっかり暗くなっている
美咲さんと連絡先も交換したし…今日は本当に楽しかったな
「またいつでも遊びに来てね!」
「はい!お邪魔しました!」
なんて話をしてドアノブに手を掛けると神田くんに声をかけられた
「立花さん、送ってく」
「え?でも、」
「あら悠馬、ちゃんとお家まで送りなさいね〜」
「母さんもこう言ってるし…行こう、立花さん」
少しだけ強引に腕を引かれたけどそれが優しさなのを知っている
さっきの蜂蜜ミルクもそうだけど…神田くん、凄い優しいんだよね
「立花さん?」
「ありがとう、神田くん」
「え?」
「さっきも、今も、ありがとう」
「あ、…どういたしまして…?」
困った顔で返答されて笑ってしまう
普段着とか見たこと無かったからなんか新鮮だなぁ
それに私、男の人に送ってもらうの初めてかも…
前の彼氏はその辺で適当に解散してたし…送ってくれたことなかったし
さり気なく歩道側立たせてくれてたり…神田くん、絶対モテる。
「立花さん…?」
「んー、なんか新鮮だなーって」
「新鮮…?」
「うん、だって学校でしか話したこと無かったけど今こうして送ってくれてるし…」
「それは、」
「それは?」
「心配だからだよ……立花さん女の子だし…なんかあったら困る…」
「神田くん優しいよね〜」
「そんなことないよ」
「あります〜!他の人はそんなこと言ったりしないよ?」
「え?」
「付き合っててもその辺で解散して帰りましょーって感じだよ?」
「それはその人が悪い」
いつも優しい神田くんが少し不機嫌そうになる
「好きな子なら尚更…何あったら心配だから送るし迎えにも行くと思う」
「そうなのかなぁ…」
「少なからず、俺はそう…」
好きな子なら、尚更…
神田くんと付き合う女の子は幸せだろうなぁ…なんて考えていたらいつの間にか家に着いていた
「本当にありがとうね」
「いえいえ、……あ、そうだ。立花さん」
「ん?」
「これあげる」
「……蜂蜜キャンディー…?」
「うん。ミルクに溶かして飲めば暖まるから…」
「ありがとう…」
「ん。それじゃあ…また明日ね」
「うん…!ありがとう…また明日…!」
最後まで優しかったなぁ…神田くん
そんなことを考えながらミルクに飴を入れた
ほんのり甘い蜂蜜ミルクが染み渡る
明日、ちゃんとなにかお返ししよう
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