第130話 こんな婚約は認めない ジョアンヌ視点
「きゃー! なんですのあれは?!」
思わず声を上げた
「ど、どうされました? ジョアンヌ様」
「どうされたかですって? あなた、あれを見て驚きませんの?」
「あ、あれというと?」
「それを、
「で、では、とりあえず、あの者のところに行ってみましょう」
少年が弾くピアノの上に人の指が二本ふわふわと浮いていますのよ?
近くによると、ピアノを弾いている少年の美貌に目が釘付けになる。
なんて綺麗な子なのかしら。
こんな辺境地にはもったいないわね。
どこの楽団の所属かしら?
それともまだ学生?
あとでボスフェルト公爵家のお抱えピアニストとして迎え入れましょう。
それにしても、少年は夢中で弾いているから気が付かないみたいだけど、この男には、あの指が見えないのかしら?
顔もパッとしないのに、視力まで悪いなんて良いところが無いじゃない。
エゴール・ボートン。ボートン子爵家の嫡男。
子爵家なんて格下だけど一応、嫡男ということで
まあ良いわ。
この二人には、
テレシア・アルフォードを人気のないところに誘い出し、貞操を汚してやるのよ。
あの女の顔や手に傷がついても優しいウルバーノさんは見捨てることができなった。
でも、汚れた体になったとしたら?
自分の婚約パーティで婚約破棄されるなんて可愛そうな女よね。
でもこれも
こんな婚約は認めないわ。
ウルバーノさんは
でも身分差を考えて彼は身を引いただけ。
その事を思い知らせてやるわ。
そう考えて、口元が緩んだ拍子に何故か二本の指が
「な、なんですの? これ? い、いや! あっちに言って!」
「ジョアンヌ様?!」
ボーとこちらを見てる暇があったらなんとかしなさいよ。
本当に役に立たないわね。
言葉にできない恨みを込めて睨みつけると、何を思ったのかピアニストの少年に詰め寄った。
「おい! その曲を止めろ!」
「我がアルフォード家がお招きしたピアニストが何か?」
シャルル様だわ。
留学していると聞いたけど、妹の婚約パーティのために帰ってきたのね。
あら、そういえば、あの指はどこに行ったのかしら?
いつの間にかいなくなったわ。
それにしても、誰も騒がないなんてどういうことかしら?
まさか、
あの二本の指。
まるで女性の指がピアノを弾きたくてウロウロしているような……。
そこまで考えてドキリとする。
思い出したのは、先程漏れ聞こえたアルフォード家の次男であるブライアン様とご学友のご令嬢達のお話。
なんでも、体から切り離された部位は、自分の体を求めて彷徨うという怪談話。
ふん、バカバカしいわ。
あの女の指は、
あれを見るたびに言いしれぬ優越感で満たされるのよ。
削ぎ落とした鼻を持ち帰れなかったことが心残りだったけど、仕方がないわね。
ああ、早くテレシアの姿を見たいわね。
醜い顔を世間に晒して笑いものになるが良いわ。
「ああ、そういえば、ジョアンヌ嬢、あなたがこの騒ぎの発端でしたね。曲がお気に召さなかったとか」
はっ!
シャルル様の声に顔を上げると、エゴールが給仕の男二人に拘束されていた。
な、なんなの?
いけない、考えに没頭していて状況がよくわからないわ。
でも、まるで
大騒ぎしてピアニストの少年に曲を止めさせたのはこの男よ。
「わ、
あの指が
「ピアノの周り? 周りに、何が?」
「い、いえ、あの、何でもありませんわ」
「なんでも無いと? エスコートの青年をけしかけてパーティを台無しにするつもりなら、お帰り頂いても結構だが」
帰るですって?
だめよ。テレシアの無様な姿を見るまでは帰れないわ。
そして、ウルバーノさんに
「この方はただ近くにいただけで、
瞳を潤ませながら上目つかいでシャルル様を見る。
大抵の男はこれで態度を和らげるのよ。
あら? なんなのこの冷たい目は?
思ったような反応が得られないことに慌てていると、エゴールの情けない声が聞こえてきた。
「えっ? ジョアンヌ様、何を言っているんですか? 俺は、あなたの、」
もう!
「
どんなに着飾ってもあの顔は隠しようがないもの。
今頃になって人前に出ることに怖じけついているんじゃないのかしら?
いい気味だわ。
カラン、コロン!
「ウルバーノ・ザケット様、テレシア・アルフォード様並びに、アルフォード辺境伯ご夫妻のご入場です!」
やっと来たわ。
じっくりと拝ませていただきますわ。
醜いそのお顔を。
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