第127話 届いたのは脅迫状?
只今、私は迎えに来た馬車に乗り込み王城へと向かっております。
昨日、ルー先生から渡された金色の封筒はやはり王城からの呼び出し状で、そこには『リシャール伯爵家当主を王城の牢にて拘束中である。リシャール伯爵家が長女である、マリアーナ・リシャールは速やかに王城へ来訪すべし』と書かれていた。
そんなこんなで、新学期が始まって早々に私は学園をお休みし、ルー先生、エリアス先生、ジーク先生と共に移動中なのだ。
因みに、ジーク先生とエリアス先生だが、教師が新学期早々にお休みするのはいかがなものかと思いきや、事前のルー先生からの連絡で代理の教師を手配済とのこと……。
素早い連携プレイだ。
そう言えば、エリアス先生はルー先生の部屋に入り浸っているようだ。
やっぱり、ルー先生がノーマルな男性だった事が発覚して壁が無くなったんだね。
仲良しで何よりだ。
それにしても、まだ着かないのかしら?
「マリア、落ち着いて。リシャール伯爵なら大丈夫だ。たぶん……」
「これが落ち着いていられますか。ルー先生、あれはどう見ても脅迫状ですよ。それにしても、お父様はいったい何をしでかしたんでしょうか?」
「いつも無表情で、感情をあまり表に出さない総団長が何かしでかすとしたら、マリアがらみだな」
なんですと?
私が原因?
ジーク先生の言葉にギョッとする。
「ああ、僕もそう思うよ。マリアの事を言われて逆上したってとこかな。でも、あのリシャール伯爵に物申すことが出来るのは陛下ぐらいだと思うけど……王家と何かあったのかも。マリアは心当たりないの?」
心当たり?
んー??
「もしかして、深夜の図書室に侵入した時に本を傷つけちゃったのがバレたのかな?
いや、あれは後日ちゃんと修復したし、どうしても修復できない箇所は絵を書き添えてごまかしましたよ? あ! まさか、三国大運動会で売りさばいたヒューベルト殿下のプライベート写真の件が今頃発覚したのかしら? おかしいな、あれは口の堅いご婦人とご令嬢にしか売ってないはずだし……しかも四年前の話だし、時効ですよね? あとはなんだろ? 王家に売りつけたリシャドール社製の馬車の代金を三割増しにしたことでしょうか? でも、その代わりにブラウエール国の王家には格安にしたからプラマイゼロってことで問題ないですよね? そうなると、まったくもって、思い当たりません」
「「「心当たりだらけじゃないか!!!」」」
***************
「では、マリアーナ様お一人で入室をお願いします。護衛の方々はこちらにお控えください」
王城に着いて早々に、待ち構えていた陛下の側近の男性に案内されたのは謁見室ではなく、お茶会などで使用される中庭が見渡せるサロン。
「おお、来たかマリア。さあ、座ってくれ」
「あ、あの。陛下におかれましては、ご機嫌麗しく……」
「そんな挨拶は不要だよ。まずはお茶だ。ほれ、マリアが好きな菓子も用意させたぞ。フェリシーからマリアは、この菓子が好きだと聞いてな」
筋肉マッチョの側近男性が、流れるような所作でお茶を入れるのを呆然と見つめる私。
え、ええっと……。
いったいこれはどんな状況?
こちらの戸惑いなどお構いなしに陛下は上機嫌でお茶をすすめる。
私は、陛下にお茶会に誘われたんだっけ?
確か、脅迫状が届いて……。
そ、そうだ! お父様だ!
「陛下、私の父はどうなったのでしょうか? 牢に入れられたと……」
「ああ、そのことか。牢といっても貴族用の離宮に閉じ込めてる」
「ど、どんな罪を犯したのでしょうか? もしかして私のことが原因でしょうか?」
「おっ、察しが良いな」
「いや、あの、図書室の本は修正しましたし、ヒューベルト殿下のプライベート写真は四年も前の事ですし、もう時効と言うことでお許しを……」
「本? ヒューベルトの写真? いったい、なんのことだ?」
へ?
「事の発端は親書だ」
ん?
「しん、しょ?」
「そうだ。ブラウエール国から届いた親書だ。ところで、マリアはブラウエール国の第三王子であるバルトロメーウス殿下とは親しいのか?」
「はい。ずっとお手紙のやり取りをしております。良いお友達です」
ぜんぜん話が見えないよ。
お父様の拘束と、ブラウエール国からの親書になんの関係が?
「そうか。友達か。では、恋愛感情は無いということか?」
「もちろんです。歳も随分年下ですし、私にとっては、可愛い弟のような存在です」
「その弟のようなバルトロメーウス殿下が、今度の誕生日で十歳になるそうだ」
「あ、はい。毎年お互いのお誕生日にはお祝いの品を送りあってます。でもあんなに小さかったバルト殿下がもう十歳になるなんて子供の成長は早いですよね」
「そんなのんきなことを言ってる場合じゃないぞ、マリア。ブラウエール国の王家では、十歳になると婚約者選定を始めるんだ。そこで、私のところに親書が届いた。『シャーナス国のマリアーナ・リシャール伯爵令嬢を王子妃として迎えたい』とな」
ぶっ!
「お、おい、大丈夫かマリア?」
私の後ろに控えていた筋肉マッチョさんが、すかさずハンカチを差し出してくれた。
す、すみません。
話によると、謁見の間に呼ばれたお父様が怒りのあまり親書を持ってきたブラウエール国の使者に威圧をかけたと。
それをその場にいた近衛騎士に止められ、それを振り切ったお父様が今度は親書を破り捨てようとしたらしい。
さすがにブラウエール国からの親書を使者の目の前で破り捨てる行為は厳罰ものと言うことで貴族牢に拘束となったということだ。
「私としても、マリアを我が国から出すことは避けたい。なんといってもマリアは異世界の神の愛し子であり、ルメーナ文字を解読できる数少ない人材だ。貴族連中の中にはマリアをヒューベルトの婚約者に差し替えろという者もいるくらいだ」
ひぇー!
誰ですかそんなことを言う人は?
「で、ですが、ヒューベルト殿下は婚約者一筋ですよね?」
「そうだ。薄々気が付いているかもしれんが、あれは『狂愛の王子』の気質を受け継いでいる」
「狂愛の王子ですか?」
「ああ。三百年前の死者蘇生の王や、赤の賢者のマウリッツ王子と同じだ。一人の女性に執着する気質だ。この気質の王族は非常に優秀で王になったものは賢王となる素質があるんだが、その女性との仲を裂くような真似をすれば恐ろしいことになる」
なるほど。
赤の賢者の記憶鏡で見た情景が脳裏をかすめて身震いする。
「マリアをラインハルトの婚約者にという声も出ておるが、これは私がねじ伏せている。第一側妃の王城での権力を増長させるわけにはいかないからな。その理由で聖巫女のブディオ侯爵家の令嬢も今のところ候補から外してある。まあ、ラインハルトが自分で見つけるのが一番だが、本人はヒューベルトの立太子を見届けてからと考てるようだ」
「はあ。色々と大変なんですね」
「まあな。国同士の結びつきを重視する重臣の中にはブラウエール国の申し出を受けるべきだという者もいるだろうな。ここは、誰が見てもマリアがこの国にとって重要人物であるという実証が欲しいところだ。そこでだ、前にマリアが提案していただろう? 我が国の二つの防衛団基地局と王城騎士団を結ぶ転移魔法陣の設置を。それを成し遂げたなら、私がブラウエール国の申し出を角が立たぬように収めようではないか。セドリックの所業も不問とする。さあ、どうする? マリア」
「やります! 是非ともやらせていただきます!」
私の食い気味の返事ににんまりと笑みを深くする陛下。
悪魔の微笑みにしか見えないのは私だけだろうか?
***************
「陛下の思惑通りに事が運びましたね」
マリアが部屋を退室した後、茶器を片しながらそう言葉をかけたのは側近でもあり護衛でもあるカスペル・ベーレンスだ。
「まあな。なんと言っても、マリアはまだ未成年だ。遠方での仕事にあのセドリックが首を縦に振らんだろう。だが、マリア自身がやる気なら話は別だ。しかも隣国の王族との婚約話が立ち消えとなるなら、セドリックといえど許可せざるを得ない」
「マリアーナ嬢を国外に出すなど微塵もお考えではなくせに。セドリック殿の行動を見越したうえで使者と引き合わせ、厳罰と称して拘束する。そしてマリアーナ嬢を呼び出して陛下の構想を形にする手伝いをさせるなんて、策士ですよね」
「なんだ、カスペル。そんなに褒めても何も出んぞ」
「褒めてません。いや、褒めてるんですかね? セドリック殿もマリアーナ嬢もきっと自分の意志で選んだ道だと疑いもしないでしょうね」
「自分で選んだ道ならどんな苦難も乗り越えるだろうさ。それより、カスペル。マリアの他にガイモン・キーリアとエリアス・サモアにもこの計画に参加してもらう。王命の発動だ。準備を頼む。それと、マリアの婚約者候補の選定も進めてくれ。年齢の釣り合いの取れる国内の優秀な貴族令息だ。決まり次第、自然な流れで出合わせるぞ。アリアを国外に出す気はないからな。今回のブラウエール国からの申し出は予想外だった。くれぐれも、セドリックに気取られるなよ」
「はっ! 承知いたしました」
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