第128話 準備は整いました
「皆様、ご準備はよろしいでしょうか? 本邸でブライアン様がお待ちです」
アルフォード邸の侍女さんが呼びに来たので私達は立ち上がり、案内に従って歩き出す。
夏の長期休みに入って一週間後の今日、ブライアンのお姉様とウルバーノさんの婚約パーティーだ。
準備は万端。
放課後にちまちまと作成した守護の魔石と小型盗撮機はそれぞれ装飾品に加工して身につけている。
十三人分作るのは大変だった。と、言っても大半はシャノンを始めとする魔術部の皆が作成してくれたんだけどね。
だって私は、王命により南北の辺境地と王城をつなぐ転移魔法陣設置を請け負ったことで超多忙。
長期休暇に入る前から、王城暮らしが始まった。
まずは、王城騎士団の敷地内に転移魔法陣を構築するためにね。
なんと、ガイモンさんとエリアス先生にも王命が発動され、三人体制でのお仕事だ。
しかも完成するまでは必要最小限の人間にしか話してはいけないと厳命されているので、当事者の三人とお父様、護衛であるジーク先生とルー先生、私の専属侍女のランとナタリーしか知らない。
学園が終わると、王城の小会議室で転移魔法陣についての話し合い。
ガイモンさんとエリアス先生の『騎士団や防衛団の転移目的なら、地面に巨大な魔法陣を構築しなければ』との言葉に疑問を持った私。
だって、地面に巨大な魔法陣を構築するなんてスマートじゃないもの。
そこで提案した。
『地面に転移魔法陣を構築するよりゲートを作成するほうが場所も取りませんよ』
少し大きめの扉の出入口に空間膨張術を併用してそこに結界を張る要領で魔法陣を構築すれば、大きな馬車や飛竜だって通り抜けられるはず。
そんな提案をしたばっかりに、あの魔術研究所の遺跡に行き、空間膨張術を研究する羽目に……。
この研究には数日を要し、学園をお休みしたつけは宿題という形で私を襲った。
おかげで毎日寝不足だ。
まあ、そのかいあって、騎士団の転移魔法陣は完成したけどね。
完成したのはつい三日前。
これでリシャール邸に帰ってゆっくりと寝れると思ったが、秘密保持のためという理由で未だ王城から出れずにいる。
おまけに経過報告会と称してちょいちょい陛下からお茶に誘われるのはいかがなものか。
最初こそ緊張したが、今では茶飲み友達のような気安さになってしまっている。良いのだろうか?
筋肉マッチョの側近、カスペルさんとも仲良くなった。
そのカスペルさんは、最近やたら貴族令息のうわさ話をする。
こう言ってはなんだが、筋肉マッチョの男子はBとLの住人が多いという定説は本当だったようだ。
因みに、これを力説していたのは、日本の女友達ね。
気になったのは、対象が十代後半の令息達なんだよね。
イケメン三十五歳、女の影なし、未だ独身。
その理由がここにありって感じ。
カスペルさんは良い人だけど、私の友達と会わせるのはやめておこう。
良い人なんだけどね。
「それにしてもマリア、あ、いやその格好のときは『マリオ』だったな。青の騎士団を動かすなんて驚いたよ。飛竜だと一日半で北部のアルフォード領に着くんだな」
歩きながら、カスペルさんのことを考えていた私はダニエルの声に我に返る。
二年前より男らしくなったけど、まだまだ線の細いダニエルは目を見張るほどの美少女っぷりだ。
ティーノとイデオンの女装もレベルが高い。
エスコート役のサムとシリウスもこれなら文句ないだろう。
なんだか、表情が固まっているけどね。
「ダニエル、じゃなくてダニーナ。たまたまゴットさんに相談したらクラウドの飛行訓練に丁度いいいってことになっただけよ」
と、言うのは建前で、陛下のはからいで実現したことなのだ。
まあ、陛下にしてみれば無駄に時間をくうより、さっさと仕事をするべしといったところかな。
「ねえ、マリア。あ、ではないわね。えっと、マリオ。護衛としてルーベルトさんが同行してるのはわかりますわ。ですが、エリアス先生とジークフィード先生も同行しているのはなぜなのかしら? 当然のように飛竜に乗っていらしたので聞きそびれてしまいましたわ」
ああ……エミリったら、聞いてほしくない質問をしてくれちゃって。
まあ、エリアス先生とジーク先生が私の護衛だと知っている従兄のサム以外は疑問に思うところよね。
そのエリアス先生とジーク先生は給仕のボーイさんとして会場に潜入、ルー先生は執事に扮してパーティを指揮する予定だ。
なんにしても、テレシア様とウルバーノさんのおめでたい婚約パーティを台無しにするつもりは無いので騒ぎは最小にするつもり。
それにしても……。
エミリ、いや、今日はエミリオだった。眩しいくらいの美少年っぷりだ。
もともと目鼻立ちの整った顔立ちの上に、スラリとした長身の美少女だったから当然といえば当然なんだけど。
因みに、ベルとリアはお借りしたジョエル様の衣装のサイズが合わず、男装は断念。お胸がね、とても良くお育ちだったから。
まったくもって、けしからん。
シャノン、リリー、ドリーの三人もかわいい系の美少年に変身。
それぞれ今日はシャン、リーム、ドードの偽名を使うことになっている。
こちらはお姉様方に人気が出そうだ。
「それは、僕が招待したからだ。騎士団所属のジーク先生と魔導師団所属のエリアス先生は昔からの父上の知り合いなんだ。そのおかげで君たちの親御さんも快くこの辺境地への宿泊を承諾してくれたよ」
ブライアン!
いつの間にか近くに来ていたブライアンの言葉に、みんなが納得したように頷いた。
助かった。
「さあ、みんなの疑問も解決したようだし、計画のおさらいをしましょうか」
そう言いながらみんなの顔をぐるりと見渡す。
まず、布石として噂話を吹聴。
『人の体には記憶が刻まれていて、体の一部が切り離されると元の場所に戻りたいと引き寄せられる』という話。
そして私達とジョアンヌ様しか認識できないよう術をかけた二本の指の模型を、ピアノの鍵盤の上にブライアンのスキルで浮遊させる。
それと同時に執事に扮したルー先生がジョアンヌ様の宝石箱とそっくりな物をブライアン宛に届ける。
きっと、この一連の場面に遭遇したジョアンヌ様は何かしら行動に出るはず。
では、作戦開始です!
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