第126話 作戦会議を始めます


「話は分かった。そのご令嬢の本性を引き出すのに俺達の協力が必要だってことだな」


 そう言うダニエルの言葉に私とブライアンは頷く。

 ここは魔術科の教室。

 放課後に徴集をかけたのだ。

 メンバーは私のA組から、ダニエル、ティーノ、イデオン、シャノン。

 ブライアンのB組からは、サムとリリー。

 エミリのC組からは、取り巻きのベルナデッタとカメーリア、そして、シリウスとドリー。

 総勢、十三名。


「それにしても、女の子の顔をわざと傷つけるなんて許せないな」


 サムの言葉に、シリウスが眉毛を寄せながら口を開く。


「だが、それは証拠もないのだろ? 相手は公爵令嬢だ。下手に事を荒立てると権力でねじ伏せられるぞ」


「証拠ね……あるにはあるみたいだけど……。ここはご自分で罪を認めていただきたいわね。そして、テレシア様に謝罪してもらうわ。それに、相手が公爵令嬢なら、こちらは公爵令息が二人もそろってるじゃない。二対一でこちらの勝ちよ」


「二対一って、そんな単純な話じゃないだろう? それに、こちらの令嬢たちが被害にあったらどうするつもりだ? また事故を装って傷をつけられるかもしれない」


「大丈夫よ、シリウス。こちらからパーティーに出席するご令嬢は、ダニエル、ティーノ、イデオンだから」


「「「はあ?!」」」


 ダニエル達の揃った雄叫びに私はにっこりと笑いかけた。


「ふふふ。三人の女装は全校生徒のお墨付きよ。それぞれ、ブライアンとサムとシリウスにエスコートしてもらうわ」


「「「えー!!!」」」


 エスコート役の男性陣から声が上がる。


「心配しないで。ダニエル達三人はダンスもバッチリだから。あの劇での特訓は無駄じゃなかったわね。こんな所で役に立つなんてね。良かったわね」


「「「良くない!!!」」



 そこで私は、選択授業の選考時間を使って練った計画をみんなに説明した。

 まず、魔術部の女性陣には守護の魔石作成と、ジョアンヌ様の素行を記録する魔道具の準備をしてもらう。

 婚約パーティーでは、女装したダニエル、ティーノ、イデオンをそれぞれブライアン、サム、シリウスがエスコート。

 ジョアンヌ様は、女性と男性の前では態度が随分と違うらしいので女性に扮したダニエル達の前での様子を録画するのだ。

 もちろん、私も出席しますよ。

 少年ピアニスト、『マリオ』としてね。

 パーティーでピアノの鍵盤の上を二本の指がフワフワ浮いていたらどう?

 しかもその浮遊する指はジョアンヌ様しか見えないとしたら?

 きっと取り乱すはず。


「指の模型をブライアンの傀儡のスキルで動かすのよ」


「なるほど……。自分が持ち帰った姉上の指だと思うかもしれないな」


「そういう事。そこへジョアンヌ様の宝石箱と似たような物を目にしたら?」


「きっと、自分の部屋から持ち出された物だと思うだろうな」


「そう思ってくれたらこっちのものよ。きっと、いてもたってもいられず、声を掛けてくるはずよ。そこを追求するの」


「ちょっと待って、マリア。その計画に私達が入ってないわよ」


 シャノンがそう声をあげると、リリーとドリーが頷きながら不満そうに唇を尖らせた。


「へ? だから、魔術部の皆は守護の魔石と魔道具作りを……」


「あら、もちろん私達も出席しますわよ」


「出席って、エミリ。だから、」


「マリアが男装するなら、私達女性陣も全員男装いたしましょう! そして婚約パーティーに出陣ですわ!」


 私の言葉を遮るようにエミリがとんでもないことを言い出した。


「ちょっ、ちょっと、待って。エミリ、あのね」


「さすが、エミリだわ。私、この前王都の劇場で淑女歌劇団の舞台を見て男装にあこがれていましたのよ」


 取り巻きのベルナデッタがそう言うと、カメーリアが興奮したように話し出した。


「あの舞台でしょう? 私もお姉様と見ましたわ。あの主役の男装はとてもおきれいでしたわね。私もあんな風に男装の麗人になってみたいですわ」


「それ、良いわね! じゃあ、決まりね。男装の衣装は全員分ジョエル兄様から調達しますわ」


 リリーの言葉に、麗しの元生徒会長の衣装がお借りできると女性陣は大興奮だ。


「えっと、あの、でも、ほら、こんな大勢でアルフォード辺境伯邸に押しかるのはまずいかと……」


「ああ、それなら大丈夫だ。全員招待するよ。姉上が本邸の自室に移ったから、別館の三棟がまるまる空いているんだ」


 さようですか……。


「問題は行の移動手段だな。帰りは何とかなるが……」


 なるほど。

 確かに、北部地区の辺境伯領は遠いわね。

 飛竜のクラウドでひとっ飛びといきたいところだけど、一応、クラウドは青の騎士団所属なんだよね。

 ふむ。

 考え込んでいると、突然、教室のドアが開いた。


「あー! いたいた! マリア、探したぞ」


 あれ? ルー先生だ。


「ルー先生。お迎えの時間はいつもより遅くて良いと伝達蝶を飛ばしましたよね?」


「ああ、ちゃんと届いたよ。実は、至急の知らせが来たから迎えに来たんだ」


 至急の知らせ?

 ちらりとルー先生が内ポケットから封筒を見せる。

 むむむ。あの金色の封筒は……まさか王城からの呼び出し状?

 まったくもって、嫌な予感しかない。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る