第109話 ここはどこ?

「マリア! マリア! 大丈夫か?!」


 ん……んんん?

 誰?

 必死な感じの呼びかけに重い瞼を開けると、そこには端正な顔立ちをした男性がいた。

 うおっ! イケメン! 


 仰向けに寝た状態の私を抱きかかえて顔を覗き込む美青年。

 あれ? このシチュエーション、どこかで体験したような?

 青みがかった銀色のミディアムヘアーに赤い瞳。

 とっても綺麗なルビー色の瞳から目が離せない。

 心臓が物凄いスピードで音を立てる中、思わず呟いた。


「綺麗な瞳……ルビーの騎士様ね」


「っつ! マ、マリア、目が覚めたか? どこか痛むところはないか?」


「……マリア? 誰それ? 違うわ、私は……まり…」


 あれ? 私は誰だっけ?

 まり……まり……えっと……。

 !! お、思い出した!


「は、はい! マリアです! 私はマリアです! 誰が何といってもマリアです!」


 飛び起きながらそう主張する私にジーク先生は心配そうな視線を向ける。


「大丈夫か、マリア? やはり頭を強くぶつけたか?」


「い、いえ、大丈夫です。ジーク先生。ちょと、寝ぼけちゃって。ははは」


「寝ぼけるって、この状況に似つかわしくない言葉だな」


「ジーク先生は、大丈夫ですか?」


「ああ、落ちた衝撃で左肩を痛めたが、骨には影響ない感じだな」


「すみません。私を庇ったからですね。巻き込んでしまってごめんなさい。もうちょっと待っててください。あの魔石に魔力をほとんど吸い取られたから治癒魔法が今使えません」


「気にするな。こんな事態になるなんて誰も予想できないし、マリアが一人にならなくて良かった。それよりこれからどうするかだな。どこに転移したんだろうか?」


 え? そういえば、ここどこ?

 ま、まさか、日本に転移した?


「「「お前たち!! 何者だ!!」」」


 ドヤドヤと騎乗した男達がこちらに怒鳴りながら向かって来るのを見て確信する。

 こりゃ、日本じゃないわね。

 そりゃそうか、あの魔法陣はひび割れていて不完全な状態だったもの。


 あ、なんかやばいかも。

 馬から下りた四人の男たちが鋭い視線を向けながら剣を構えた。

 ジーク先生は、咄嗟に私を守るように立ちはだかりながら声を上げる。


「俺たちは怪しい者ではない。剣を納めてくれ」


「はっ?! 突然、爆風と共に現れてここの領民の畑を焼野原にする奴が怪しくないと?」


 焼野原? 

 強面のおじさんの言葉に恐る恐る周りを見ると、私達は畑のど真ん中に出来た大きなクレーターの中にいた。


 えっと、これってやっぱり私達のせい?

 しかも転移の衝撃で髪の毛はぼさぼさだし、羽織っているローブも泥だらけのうえに所々破けているではないか。

 夕暮れ時の薄暗がりに、この状態の人間を見たら不審者だと思われてもしかたないか。


 救いがあるとすれば、この人達はならず者の類ではないということだ。

 お揃いの詰襟の制服に統制の取れた動き。

 まるで騎士団の団員みたい。

 ここの領地お抱えの自衛団と言ったところか。

 っていうか、ここはどこなんだろう?

 ジーク先生の背中からひょっこりと顔を出して問いかけた。


「あの、すみません。ここはどこでしょうか?」


「ん? ここがどこかもわからないのか? それに子供か?」


「失礼な、私は子供ではありません。それに、ここには自分の意思できたわけではありません。気がついたらここにいたんです」


「自分の意思で来たわけではないだと? まさか、誘拐か?! おい、この男を拘束しろ! こいつは人身売買の疑いがある。お嬢さんはこちらに」


 え? 人身売買?

 およそ自分たちとはかけ離れたワードに動きが遅れた私とジーク先生は、あっという間に引き離された。


「何をする?! やめろ! 俺は王城騎士団の団員だ。おい、その子に触れるな!」


「王城騎士団だと? そんな奴がこんなところにいるわけないだろ? 嘘つくならもっとましな嘘をつけよ。剣も持たずに騎士団を名乗るなんてとんだお笑い草だ」


「くっそ! 剣は落としたんだ。それにその子は伯爵令嬢だ。お前たちの汚い手で触れていい方ではない!」


 あ、『伯爵令嬢』のところで思いっきり疑の目で見られたような気がする。

 こんな泥だらけのボロボロ令嬢なんて確かにいないものね。

 ああ、こんな時に内からにじみ出る気品がほしい。

 所詮中身が庶民の私には、どこを絞っても出ないわね。


「しかもそのご令嬢は、王城騎士団、総団長のお嬢様だ。さっさとその手を放せ!」


「騎士団の次は伯爵令嬢ね。そんでもって総団長の娘ときたもんだ。お前たち、さては詐欺の一味か。そうやって善良な領民をだまして金を巻き上げる手口だな。子供を利用するなんてひでぇ奴だ。おい、お前らさっさとひっ捕らえろ!」


 ひえー!

 人身売買のつぎは詐欺一味?!

 全力で否定するも、こちらの訴えは聞いてもらえず乱闘に発展。

 ジーク先生は左肩の負傷があだとなり結局、腹に撃ち込まれた拳と後ろから入った後頭部への一撃で気絶してしまった。

 そして、魔力封じの手錠をかけられ目つきの鋭い青年の馬に荷物のように乗せられた。


 私も両手を拘束され、リーダーらしき強面のおじさんと一緒に騎乗の人となった。


「ちょ、ちょっと、話を聞いてください! それにその人は怪我をしてるんです。乱暴に扱わないでください!」


「お嬢ちゃん、人の心配より自分の心配した方が良いんじゃねか。奴の指示でやったこととはいえ人をだますのは犯罪なんだぞ」


 ああ、もう!

 なんで犯罪者の烙印を押されてるんだ。


「私達は詐欺一味なんかじゃありません。いったい、私達をどこに連れて行くんですか?」


「ひとまず、防衛団で取り調べだ」


 取り調べ!

 しかも自衛団じゃなく、防衛団って言った?

 防衛団って言ったら、国から認められた武装勢力だったような……。

 確か防衛団は二組織、北部地区と南部地区の国境沿いを警備しているはずだ。

 どちらも辺境伯爵の当主が指揮を執っている組織でリシャール邸のある東部地区からは馬車で二週間以上はかかるはず。


 えっ、これって、新学期までにお家に帰れるの?

 とりあえず、犯罪者の汚名を晴らさなきゃ!






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