第105話 遺跡探索 ①
頭の中が『?』で埋め尽くされているであろうジーク先生とエリアス先生にガイモンさんが先程の話を繰り返す。
「なるほど。事情は分かった。しかしそんなことが起こるなんて……。なんとか元に戻さなければ。それにメアリーは嫁入り前の身だ。このことは他言無用にした方が良いだろう」
「そうだね。ここにいる者以外には秘密にした方が良いね。しかし、その遺跡怪しいな。ちょっと、調べてみるしかないな」
ジーク先生とエリアス先生の言葉にみんな頷く。
「ジーク先生とエリアス先生は明日からお休みですよね? 早速、準備して現場に皆で行ってみましょう」
「うっ、マリア……。その許可を総団長が出すとは思えないぞ」
「だよね。あの遭難事件がいまだに尾を引いてる感じがする。リシャール伯爵のマリアへの過保護っぷりを甘く見たらだめだよ」
「いえ、大丈夫ですジーク先生、エリアス先生。私に説得の必殺技があります。さあ、そうと決まれば、体調整えて遠征に備えましょう。メアリーさんもエイベルさんもゆっくり休んでくださいね。そうだ、部屋割はどうします?」
「しょういえば、メアリーしゃんとエイベルしゃんは、りょうにいたときは着がえやおふろはどうしてたんでしゅか?」
「「「!……」」」
べリーチェの鋭い突込みにみんな無言で問題の二人を見つめた。
「俺たちは、そ、その、ふ、風呂はこの八か月間入ってない」
「「「八か月間、入ってない?!」」」
「そうなんです。毎日、クリーン魔法でしのいでいたんです。幸い、寒い季節でしたので。着替えはお互い協定を結んでなるべく目を閉じながらやるようにしてました」
エイベル君の姿をしたメアリーちゃんの言葉にガイモンさんが怖い顔で反応する。
「おい! エイベル君、本当に目を閉じていたんだろうな?」
「も、もちろんです! だから、朝一番に談話室で待ち合わせをしてお互いの制服のヨレを直してました。他の奴にばれないようにいつも二人で行動していたから周りからは恋人同士だと思われていたくらいです」
「なに?! 恋人同士だと? 絶対に許さん!」
「ガイ兄さん、そう思っていたのは周りの人たちだけだから。そう怒らないでちょうだい」
あ、メアリーちゃんの言葉にエイベル君が可哀そうなくらいショックを受けてる感じ。
もしかして? まあ、それはそうか。こんなに可愛くて性格も良い子が四六時中そばに居たら惚れない方がおかしいか。
何はともあれ、今日は二人ともお風呂に入ってスッキリしていただきたい。
「じゃあ、今日はお風呂に入った方がいいですね。メアリーさんもエイベルさんも目をつぶって入って、体は他の人に洗ってもらうのが良いと思うのだけど……」
「メアリーの体は俺が洗う」
「ガイ兄さん! 絶対にやめてちょうだい」
「なぜだ! 前は俺と一緒に風呂に入るのを喜んでただろ?」
「いつの話よ。そんなのずっと小さい頃の話でしょ」
「だったら、俺が目をつぶって手探りで洗うよ。メアリーも俺の体を洗ってくれ。メアリーになら何をされても構わない」
「もう! ガイ兄さんも、エイベルも変態!」
二人そろって仲良く変態の称号をゲット。
でも困りましたね。どうしましょう?
うなだれているガイモンさんとエイベル君に、べリーチェが手を上げながら声をかける。
「あい! べリーチェとクラウドとシュガーが二人をお風呂にいれるでしゅ!」
うん、それが一番もめないで済むね。
「べリーチェ、クラウド、シュガー、よろしくお願いね」
「あい!」
「きゅー!」
「ウオン!」
**************
お父様の許可を得るのに三日かかったが、見事説得に成功。
最初はごねていたお父様だが、もともと私はライナンス学園に入学を希望していたのだ。
せめて試験会場の遺跡探索をしたいと主張したところ、後ろめたいところのあるお父様は渋々承諾。
そして、例によってアンドレお兄様は一緒に行くと騒いだが、メアリーちゃんとエイベル君のこの現状を説明することはできないので、またクラウドを青の騎士団に連れて行ってくれるようお願いした。
今年から『ナティア』前世の言うところの大学にあたる学校に通うアンドレお兄様。
さすがにリシャール邸から通うのは遠すぎるので、寮に入ることになる。
あの優しい笑顔が毎日見られなくなるのは非常に淋しいが仕方ない。
この遠征から帰ったら、たくさん遊んでもらおうと思っている。
春と言ってもまだまだ肌寒い早朝にリシャール邸を出発し、途中休憩を挟みながら馬車に揺られること六時間。
ようやく東部地区と西部地区の境にある村に到着した。
村で唯一の宿屋に宿泊の予約を入れるとともに早めのお昼ご飯を食べ、ここからは徒歩で遺跡に向かう予定。
メンバーは私、メアリーちゃん、エイブル君、ガイモンさん、ルー先生、ジーク先生、エリアス先生、ナタリー、そしてべリーチェとシュガー。
動くぬいぐるみのべリーチェに村人たちは一様に驚きの顔をしたが、エリアス先生の王城魔導師団のローブを見ると、納得したように頷いた。
王城の魔導師はなんでも出来ると思ったようだ。
私達の服装は動きやすいズボンに編み上げブーツ、詰襟の上着。
その上に私とメアリーちゃんとエイベル君は学園のローブを着用。
そしてナタリーはどこから見ても冒険者に見えるミリタリーファッションだ。
どうやら、侍女業の傍らランと共にランク上げに勤しみ、いつの間にかCランクになっているというから驚きだ。
いったい何を目指しているのか皆目見当もつかない。
今年で十九歳になるナタリーの将来に一抹の不安を覚える私だった。
「さあ、ここからは山道を登るわよ。少し気温が上がってきたから歩きやすいわね」
宿屋から一本道で続く山の入り口で、ルー先生の声掛けにみんな頷いて歩き始めた。
そして鬱蒼としげる樹木の間を歩くこと一時間、いきなり広々とした草原が目の前に現れた。
その中に忽然と建っている蔦に覆われた石造りの建造物、きっとあれが遺跡にちがいない。
その向こう側は恐らく崖のようだ。あの崖の向こう側が西部地区になるのかな。
「あれが、遺跡ですね。崖の手前に建っている感じですね。突然この場所に現れたんでしょうか?」
「いえ、今は草原となってますが、ここは位置的には山の途中なんです。四年前に山頂が崩れてあの遺跡が現れたそうです。村人の話だと、百年以上前にも一度山崩れがあったらしく、地盤が相当緩んでいたみたいですね。遺跡の向こう側の崖も山が崩れた名残だそうです。山が崩れる前は、そのまま山を越えて西部地区に行けたそうです。今では、あの崖のせいで迂回しなくては行けないんです」
私の疑問にエイベル君の姿をしたメアリーちゃんが答えてくれた。
すると、思い出したようにルー先生が声を上げた。
「そういえば、この遺跡が発見された時って、騎士団と魔導師団が調査に入ったのよね? ジークさんとエリアスは調査隊に入ってなかったの?」
「四年前と言えば、僕はまだ魔導師団に入団して一年目の下っ端だったからお声はかからなかったよ」
「俺はその時、ちょうど界渡りの乙女のことに掛かり切りだったから調査には参加していない」
あ、界渡りの乙女……。
そっか、私がこの世界に落ちてもう四年か。
「ああ、シュガーのもと飼い主さんね。四年前に、落ち人様と遺跡が現れたってことね。すっごい偶然ね」
偶然……だよね?
まさか、山が崩れたのは異世界とこの世界の時空がつながった余波?
異なる界がつながるほどのエネルギーってきっと想像もつかないほど膨大なんじゃない?
そのエネルギーに元魔術研究所の魔法陣が反応して山崩れが起きたとか?
ははは、まさかね?
「さあ、中に入ってみるか」
ジーク先生の言葉を合図に私達は遺跡の中に足を踏み入れた。
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