第100話 魔物討伐試験 ⑤
洞窟で一晩過ごした私達。
野菜とお肉たっぷりのスープの朝食時にシリウスがみんなに改めて頭を下げた。
シリウスが持ち込んだ魔物寄せの魔道具のせいで大変な思いをしたが、結果として怪我も治り、シリウス自身も罠に嵌められたということでみんなはそれほど怒ることはなかった。
それよりも昨晩、遅くまで起きてた組が下の名前で呼び合って砕けた言葉使いですっかり仲良くなっていることにエミリエンヌ達から不満の声が上がった。
自分たちもみんなと同じ扱いにしてほしいと。
期せずして一晩を過ごした運命共同体ということで不思議な連帯感で結ばれた私達。
これも何かの縁ということで、改めて自己紹介をした。
一通り自己紹介が終わると、エミリエンヌが一人の男の子の前に立ちはだかった。
「あ、あの、ダイムさん。私を庇って怪我をしてしまったことへのお詫をまだしていなかったわね。わ、悪かったわね。そ、その、ご、ごめんなさい?」
なぜに疑問形?
まあ、謝りなれていないから仕方ないか。
一方、サムチームの平民の少年、ダイム・ソルミュはややたれ気味の茶色の瞳を優しく細めながら口を開いた。
「僕のことはダイムでいいよ。それにここは『ごめんなさい』より、『ありがとう』の方がうれしいかな」
「あ、あ、ありがとう。ダイム。私のこともエミリと呼んでちょうだい」
「うん。エミリのような綺麗な女の子の役に立てて俺は本望だよ」
そう言ってはちみつ色の長めの前髪をかき上げて嬉しそうに笑うダイム。
優し気なたれ目とスッと筋の通った高い鼻、健康的に日に焼けたダイム・ソルミュはさわやか美少年だ。
日頃周りを美形で囲まれている私ですら、不覚にもドキリとしたその笑顔をまともにくらったエミリエンヌ。
両脇に控えていた取り巻きのご令嬢、ベルナデッタ嬢とカメーリア嬢も真っ赤な顔をして惚けているではないか。
その様子を私の隣で見ていたサムが溜息交じりに呟いた。
「あ、また被害者が増えたな」
「被害者?」
「ダイムに笑顔を向けられた女の子はなぜかあいつのことが好きになるんだ。だから、やたら笑顔を見せるなっていつも言ってるのにな」
なるほど、魔性の美少年か。
なんでもダイム・ソルミュは王都でも有名なソルミュ商会の三男らしい。
彼が商談の場に同席すれば、たちまち商談成立となるという。
そんなダイム少年が今度はシャノンに近づいてきた。
これは、まずい。
私の大事な友達を魔性の美少年の餌食にはさせられない。
「シャノンさん、良ければ君のその魔法弾杖を見せてくれないか?」
「シャノンで良いわ。はい、どうぞ」
そう言って、ダイムに魔法弾杖を手渡そうとするシャノンを遮るように私は立ちはだかった。
「?」
不思議そうな顔で私を見るダイムに声をかけた。
「ダイムさん、これを頭からかぶってください。」
「! いやだよ。これって、ワイルドモンキーの顔面の皮だろ? しかもまだ血が生乾きじゃないか」
「顔面の皮が嫌? これが被るにはちょうどいいのに。じゃあ、お尻部分の皮にしましょう。はい、これを頭からかぶってください」
「どっちもお断りだ! なんで皮を被らないといけないんだよ?!」
「危険物には蓋をするのが常識でしょう?」
「き、危険物って……。俺の顔? お、俺、立ち直れないかも……」
「もう、なに変なこと言っているのよ、マリア。ダイム、ごめんなさいね。はい、これが魔法弾杖よ。魔術杖にそれぞれの属性の魔力を込めた魔石を埋め込んでいるの。杖の先には出力に関する魔法陣を施してあるから込める魔力や、詠唱のしかたで威力が変わるのよ」
自分の作成した魔道具に興味をもたれてうれしいシャノンは、目をキラキラさせてダイムに説明する。
そんなシャノンをダイムは眩しそうに眼を細めながら見つめていた。
女の私から見てもめちゃめちゃ可愛い笑顔でおしゃべりをするシャノン。
ふと、周りを見渡せばエミリチームのコンスタント君やジェフリー君、シリウスチームのロバート君までも顔を真っ赤にして見ているではないか。
あれ? これってもしかして皮を被るのはシャノンの方だった?
「シャノン、これを、」
「被らないわよ!」
さて、朝食も済ませ、親睦も深まったところでそろそろ出発しましょうと洞穴を後にする私達。
森の中を、ティーノの『地獄耳』とダニエルとシリウスの『遠目』で警戒しながら歩く私達の周りでは、べリーチェが自分用のキックボードで並走している。
ダイムがべリーチェが乗っているキックボードを見ながら口を開いた。
「すごいな、あれ。もしかしてあの乗り物を作ったのはマリアなの?」
「キックボードよ。風の力を込めた魔石を、ボードの底にはめ込んでいるの。前と後ろの車輪には地形探知の魔法陣を施してあるから地表の起伏を読み取って安定した走行ができるようになっているのよ」
「シャノンもマリアもすごいな。今度、じっくりと話を聞かせてくれ」
「わ、私も、私も、何か発明したら、ダイムに見てほしいわ」
「エミリも発明好きなのかい? それは楽しみだな。その時はぜひ見せてくれ」
あ、エミリったら、またダイムの笑顔に悩殺されている。
馬に蹴られたくないので、そっとその場を離れてダニエルやシリウスのいる方に移動した。
道中、シリウスの専属執事であるアドルフをどう懲らしめるかの相談をしながら進む。
きっと、学園から私達の家には連絡が行っているはずだ。
まあ、心配であっても駆けつけることができるのは森から数時間の距離に家がある人だけだが。
シリウスは寮生だが、王都のニューマン公爵家のタウンハウスで生活をしているアドルフならきっと森の入り口で待っているはず。
犯人は現場に必ず現れるのがセオリーだからね。自分の仕掛けた罠にはまったかを確認するために。
シリウス情報によると、アドルフは遠い親戚で男爵家の四男とのこと。
没落寸前とはいえ、アドルフが貴族ということで、お仕置きは貴族組が主体で行うことに決定。
段取りを相談しながら歩いていると、先頭のティーノがいきなり立ち止まった。
「向こうの方から複数の足音が聞こえる。ん? なんだ? 空からも何か来るぞ」
ティーノの言葉に反応して、ダニエルとシリウスが声を上げた。
「「騎士団だ! こっちに向かって走って来る」」
どうやら、イントラス学園の生徒が森で行方不明の連絡を受け、黒の騎士団と、青の騎士団が出動したようだ。
ほどなくすると、どやどやとこちらに向かって走って来る複数の騎士様と私達の頭上を旋回する三頭の竜が視界に入った。
大きな茶色の竜に薄緑の竜、それにその二頭よりもだいぶ体の小さい白い竜だ。
空から竜騎士が捜索して居場所を騎士たちに通達したのだろう。
ああ、やっぱり大事になってる。
「お、おい。あの先頭にいるのマリアの父上じゃないか?」
「言わないで、ダニエル……」
「マ、マリア……。私の見間違いじゃなければリシャール伯爵様が通ったところの木や草が凍ってない?」
見間違いじゃないよ、ドリー。
なぜか、騎士団総団長が森中を凍らせながらこちらに向かって走って来るね。
あとを追いかける団員の皆様も大変そうだ。
ここまでの道中、魔物に遭遇しなかったのはもしやこれが原因か?
鬼気迫るお父様の様子に、とっさに皆は私を前に押し出した。
とたんに抱きしめられる私。
「マリア!!! 無事だったか!! 心配したぞ!!」
く、苦しいです。お父様!
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