第90話 王城生活の後は軟禁生活
この回は視点がころころ変わります。
マリア→アンドレ→マリアの順です。
読みづらかったすみません。
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あの深夜の図書室で発見されたマウリッツ王子と王妃様の遺体は王家の墓地に埋葬された。
そして、例の記憶鏡は一時的に国王陛下預かりとなり、国の重臣の皆さん方との会議後、記憶の受取人であるエリアス先生へと譲渡される事になる。
赤い記憶鏡は当時の王妃様のもので青い記憶鏡は国王陛下のものだという。
早くその記憶鏡の中身を見たいところだが、王家の秘宝の品と言うことで何かと手続きが必要らしい。
私達はリシャール邸へ戻り、以前のように平和な時間を過ごしている。
……いえ、嘘です。
私はあの後、王城の深夜の図書室に忍び込んだことでお父様とサイラス伯父様にこっぴどく叱られ、宰相であるサイラス伯父様のとりなしで国王陛下からの叱責を免れた。
子供の無邪気な好奇心のため今回だけは見逃してほしいと、国王陛下に頭を下げているサイラス伯父様の姿はさすがに心をえぐられた。
サイラス伯父様、本当にごめんさない。
中身アラサーの私には、子供の無邪気な好奇心など微塵もありません。
むしろ子供であることを利用した確信犯なんです。
心の中で平謝り。
そして、お父様からは二週間の謹慎が言い渡され、学園もお休みとなった。
ただいま自室に軟禁状態。
あの時孵化した赤ちゃん竜は雄と言うことで悩んだ結果、『クラウド』と名付けた。
ゴットさんいわく、白竜と黒竜は七聖霊様の一人である聖竜の眷属と言われているほど稀有な存在とのことだった。
なので、白い事を強調する意味で前世の白い雲『クラウド』だ。
べリーチェやシュガーと共に私の部屋で生活をしている。
クラウドが体長二メートル以上に育った時点で親離れとし、青の騎士団の竜保育園に引きとられる事になる。
とっても寂しいが、それ以上成長するとこの屋敷で飼うのが困難になるので仕方ない。
今は、屋敷から出られない私に代わってべリーチェとシュガーがリシャール邸の庭を散歩させているところ。
そして、私の部屋にはルー先生が監視役として仁王立ちしている。
「あの、ルー先生。そこに立って見張る必要があるんですか? もう部屋を抜け出したりしませんよ」
「ああ、まあね。さすがにもうそれはないと思うんだけど、なんだかマリアから目を離してはいけないと本能が叫ぶのよね」
本能……ね。
そう言えば、このルー先生の女言葉だが、なんだかあやしいと思う今日この頃。
もしかしてこの女言葉の方が偽りの姿なのでは?
最初は怒りのボルテージが高くなると男言葉になると思っていたが、今までのことを思い起こしてみれば、思いがけない事態に直面した時に男言葉になるような気がしてならない。
ほら、人間驚いた瞬間や、とっさの行動で本質が見えるものじゃない?
それをふまえると、ルー先生の本質はれっきとした男性で、オネエは偽装の姿ってことになるのだ。
なんのためにオネエのふりをしているのか不明だが、その偽りの仮面を近いうちに剝がしてやるぞ。
フフフ……その時が楽しみだ。
「ちょっと、なにか企んでいるわね。マリアがそんな顔をする時は要注意なのよね。ほら、もうすぐアンドレ様が帰って来る時間よ。お出迎えするんでしょ?」
おお! もうそんな時間か。
さて、アンドレお兄様をお出迎えに行きますか。
「お帰りなさいませ。アンドレお兄様!」
玄関ホールでアンドレお兄様を出迎えると、大きく目を見開いて私を見た。
そう、このリシャール邸に帰ってきてからなんだかアンドレお兄様の様子がおかしいのだ。
その原因を探るため、今日はこうしてアンドレお兄様が帰って来る時間にお出迎えをしているのだ。
「た、ただいまマリア」
そう言ったまま黙り込むアンドレお兄様を、私は首をかしげて見上げる。
すると、ほんのりと頬を赤くして目を泳がせるのがなんとも言えず可愛い。
私が近づくと、おびえたように一歩あとずさった。
う~ん。なんだろ? この反応?
「お兄様、お夕食前にお茶でもしませんか? 私の部屋で」
「えっ? マ、マリアの部屋で?」
「はい。早く着替えて来てくださいね。準備しておきます」
「わ、わかった。すぐに行くよ」
***************
学園から帰ってくるとマリアが玄関ホールで僕のことを出迎えてくれた。
あの義翼作成で倒れた時から僕はマリアが本物なのかを疑っている。
見た目はもちろん妹のマリアだが、中身の人格が違うような気がしてならないのだ。
だから、ついマリアのことを目で追ってしまう。
朝食を食べるときも、夕食を食べるときも……。
そんなことをしているうちに気が付いてしまった、マリアの包み込むような優しさに。
マリアは僕に合わせて食事のスピードを調節している。
それはもうこちらが注意して見てないと、わからないほど自然にやってのける。
僕が苦手としている野菜が出てくると、『これは美味しいですよ。しかも体に良いなんて食べなきゃ損ですよ』と、言って目の前で美味しそうに食べる。
次にその食材が出てくるときには、必ずと言っていいほど食べやすく僕好みに調理されているのだ。
あとで料理長に確認すると、マリアからの申し出で調理方法を変えているというではないか。
机に向かって勉強をしていると、丁度いいタイミングでお茶を差し入れしてくれるマリア。
目が疲れているときに、薬師のスキルを使って作った疲れ目に効くアイマスクの実験台になってくれと持ってくるマリア。
実験台とは名ばかりで僕のために作ってくれたのが一目瞭然だ。
何かが違う。
いや、マリアは幼い頃から優しい子だった。
だが、以前のマリアなら僕が嫌いな野菜を残すのを気にしただろうか?
ましてや、食べやすいように調理法を指示するなんてしない。
そして僕の目が疲れていることに気が付きもしないだろう。
マリア、君は僕の妹じゃないの?
そうなると、本物のマリアはどこに?
そこまで考えると、ある仮定が出来てしまう……。
もしかして、あの時……本物のマリアは……そんな考えが頭をよぎる。
でも、そんな事が現実に起こるだろうか?
考えても、考えても、思考は堂々めぐりだ。
正直、マリアの存在にどうしようもなく心が惹きつけられるのを止められない。
これは、本物の妹ではない可能性があるという思考から繋がる感情なのだろうか?
目が合うとキュッと胸が締め付けられるのもその副産物なのか?
マリアを見つめていると、なぜだか知らない女性の面影がダブって見えてしまうから不思議だ。
もっと、大人の女性の姿。ぼんやりとしたその姿はハッとするほど美しいと感じるのにどうしても顔がはっきりしない。
僕はどうしてしまったんだろう?
そんな事を考えながら制服から私服に着替える、マリアが待つ部屋に急ぐために。
***************
只今、私の部屋のリビングスペースでアンドレお兄様とお茶会中。
キョロキョロと私の部屋を見渡すアンドレお兄様は、初めて女の子の部屋に招待された男子高校生のようだ。
いままでちょくちょくこの部屋に来ていたと思うけど……。
「今日はどうでしたか? 学園の方は?」
「えっ? 学園? ああ、いつもと変わらないよ。マリアは、今日は何をしていたんだい?」
「暇で死にそうでした。だからアンドレお兄様が帰って来るのを今か今かと待っていたんですよ。こうしてアンドレお兄様とお茶会が出来て幸せです」
そう言いながら笑顔を向けると、私の隣に座ったアンドレお兄様が真っ赤な顔をして俯いた。
あれ? もしかして照れてる? こんな反応されると、ますますいじりたくなっちゃうぞ。
私はクッキーをつまみアンドレお兄様の口元へ差し出した。
「このクッキー美味しいですよ。はい、あ~ん」
とっさのことに抵抗する間もなくアンドレお兄様は口を開けパクリと食べた。
やだ、可愛い。
耳まで赤くなったアンドレお兄様の横顔をほほえましい気持ちで見つめていると、ナタリーが王城からの書状を持ってきた。
書状を読みながら私は大きくため息をついた。
ああ、国王陛下からの呼出状だ。
やっぱり、無罪放免とはいかなかったか。
そりゃそうか、貴重な国内の書物が保管されている王城の図書室に深夜に忍び込んだんだものね。
隣で私の手元を覗き込んでいたアンドレお兄様が口を開いた。
「国王陛下からの呼び出しか。エリアスと登城するように書かれているね。大丈夫か、マリア? 心細かったら、僕も一緒に付き添うが……」
「いえ、大丈夫です。自分でやったことの後始末は自分でつけます。この責任の取り方で今後のお父様や、サイラス伯父様の王城での立場が変わるかもしれませんので。私にできる一番良い謝罪の仕方を考えます。まずは登城して陛下の叱責を甘んじて受けます。それに、私はやったことを後悔してません」
「マリア……君は……」
アンドレお兄様は小さな声でそうつぶやくと、そっと指先で私の頬に触れた。
せつなそうなその様子に視線を外せなくなる。
ああ、妹思いの兄にこんなに心配をかけて申し訳ない。
私の頬を撫でるアンドレお兄様の手をそっと握ると、『大丈夫だよ』の気持ちを込めて優しく微笑んだ。
すると、アンドレお兄様は感極まったのか『うっ』と、声をあげると私の頭を胸に引き寄せ抱きしめた。
本当にご心配をおかけして申し訳ありません。
私は抱きしめるアンドレお兄様の背中に手を回し、安心させるようにトントントンと背中を軽く叩いた。
本当にごめんなさい……アンドレお兄様。
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