第85話 界渡りの乙女に関する本
この回は視点がころころ変わります。
マリアーナ→アンドレ→マリアーナ
読みづらかったらすみません。
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あー、おなかが空いたなぁ……。
心地良い睡眠の海に漂っていた意識があまりの空腹感に現実に引き戻され目が覚めた。
あれ? ここどこ?
見慣れない天井に驚いて上体を起こそうとしたところ、誰かに手を握られている事に気がついた。
えっ、誰?
金髪の少年?
金髪の知り合いなんていたっけ?
閉じられた瞼を縁取る長い睫毛、シュッとした鼻筋に形のいい唇。
ものすごい芸術的な寝顔だ。
あれ?
でもなんだか見覚えがあるような?
えっと、確か名前は……「アンドレ君だっけ?」思わず呟いた自分の声にますます混乱して眉をひそめた。
私、なんでこの少年を知っているんだろう?
そっと握っている手を外そうと思い身じろぎすると、金髪の少年が飛び起きた。
「マリア!! 気が付いたのか?!」
マリア?
あ! そうだマリアーナ!
そしてこの子はマリアーナの兄のアンドレ君だ。
一瞬、満里奈とマリアーナの記憶が混同していたようで慌ててしまった。
なんだか、デジャブ……
「あ、アンドレく、んんっ、お、お兄様! 私いったい?……」
危ない、危ない、あやうく『アンドレ君』と言いそうになってしまった。
「良かった、目が覚めて。マリアはラウルの義翼を作ったあとに、倒れたんだよ。今は義翼作成した日の翌日だ。ちょうどお昼を回ったところだよ。丸半日以上目覚めなくて心配した。先ほどまで父上もいたんだが、学園への休みの連絡をしに行ったよ」
倒れた?
そう言えば、ラウルが嬉しそうに両翼を広げた姿を目にした後から記憶がない。
「待っててくれ今、医師を呼んでくるから」
どうやらここは王城の医務室のようだ。
その後医師の診察を受け、全快したことを確認したがなぜか学園は明日もお休みとなった。
こうなったらお休みを利用してSエリア潜入計画を立てようではないか。
義翼作成が無事に終わった今、近いうちにリシャール邸へ帰ることになるからね。
***************
マリアが義翼作成後に倒れて王城の医務室に運ばれた。
原因は集中して魔術を駆使したことによる疲労とのこと。
ぐったりとして身じろぎもせず横たわるマリアの姿に、あの日のことが思い出された。
忘れもしないバルコニー転落事件だ。
きっと父上も同じように思ったのだろう二人して片時もマリアから離れることができなかった。
なぜ目が覚めないのだ?
もうそろそろ目覚めても良い頃ではないか?
まさか医師の診断に間違いがあってもっと深刻な状態なのか?
マリアの寝顔を見ながら悶々とそんなことを考えていると、父上が僕に声をかけた。
「学園は明日も休ませなくてはいけないな。少し席を外す。マリアについててくれ」
そう言うと音もたてずに医務室を出て行った。
僕はマリアの手を握ると早く目覚めてほしいと一心に願いながらいつの間にか眠りの海に落ちていった。
「アンドレ君だっけ?」
ん? 今マリアの声がしたか?
聞き間違いか?『アンドレ君だっけ?』と聞こえたが……。
まるで他人のような呼び方だ。
少しづつ意識が浮上しているさなか繋いでいた手が引っ張られる感覚にはっきりと目が覚めた。
「マリア!! 気が付いたのか?!」
「あ、アンドレく、んんっ、お、お兄様! 私いったい?……」
「良かった、目が覚めて。マリアはラウルの義翼を作ったあとに、倒れたんだよ。今は義翼作成した日の翌日だ。ちょうどお昼を回ったところだよ。丸半日以上目覚めなくて心配した。先ほどまで父上もいたんだが、学園への休みの連絡をしに行ったよ」
やっと目覚めたマリアに今の状況を説明する。
だが、僕の頭の中では先ほどのアリアの言葉がこだまする。
『アンドレ君だっけ?』
やはり聞き間違いではない。
二度目はあやうく『アンドレ君』と言いかけて上手くごまかしていた。
なぜだ?
僕は目覚めたばかりのあどけないマリアの顔を見ながら言った。
「待っててくれ今、医師を呼んでくるから」
隣の部屋に控えていたランとナタリーにマリアの世話をまかせ医師を呼びに行く。
ランが自分が行くと申し出たが、先ほどのマリアの言動に渦巻く不安と動揺を鎮めるために僕が行くと言って部屋を後にした。
事件のショックから以前の記憶をなくしたマリア。
殺されそうになり、記憶もなくしたんだ。
性格が多少変わったくらい想定内だと思ったが……
バルコニー転落事件前のマリアと事件後のマリア……
今まで考えないようにしていたが急に大人びた言動が多くなったのは事実だ。
そこでふと思い出した。
あんなに嫌いだったニンジンをあの時マリアは食べたよな?
性格が変わったと言うよりも、もしかして『人格』が違う?
マリア、君はいったい誰なんだ?
***************
今日は大事をとって学園はお休み。
昨日、目覚めてから今まで王城で使用していた部屋に戻った。
お父様、お兄様はもちろん、ガイモンさんやラン、ナタリー、ルー先生、ジーク先生、エリアス先生にも心配をおかけしましたと、頭を下げた。
ゴットさんは一貫して竜至上主義のため私が目覚めたと知ると早速お肉の差し入れを持って来てランに冷たく追い返されていた。
リュウちゃんは私が寝込んでいるときも枕元に置かれていてすこぶる元気。
今ではサッカーボールほどの大きさになり時々ぷるぷると震えたり、そこらへんに置いておくと勝手にころころと転がったりしている。
なんだか面白いので私はせっせと話しかけているのだ。
ほら、胎教ってやつね。
たまにべリーチェとシュガーが転がしてキャッチしてと、まるでボールのような扱いをしているので恐ろしい。
でもゴットさん曰く、リュウちゃんは楽しそうにしているというのでそのままにしてる。
私も試しにベッドの上で転がしてみた。
すると、またこちらにころころと戻ってくるのでやはり喜んでいるようだ。
さて、お昼ご飯も済んで暇になったのでSエリアを探りに図書室へいきますか。
だいぶ重くなったリュウちゃんを両手で抱えていつもの席についた。
今日はゴットさんとべリーチェとシュガーも一緒。
そういえば、カナコさんの日記の翻訳は終わったのでノートはエリアス先生に渡し済み。
今日の部活でシャノン達と読むと言っていた。
早速、私は『シャーナス王国の歴史』という分厚い本を開いている。
カナコさんに執着していたマウリッツ王子の情報が得たいためである。
あんなに執着していたカナコさんが亡くなってから、彼は誰と結婚したのか、どういう一生を送ったのかが気になったから。
そして目の前でゴットさんはなんだか難しい顔をして青の騎士団の報告書を読んでいる。
今日は筆記用具も持参していてなにやら署名もしているようだ。
「今日は、ずいぶんと書類が多いんですね?」
「ああ、副団長のアストンに任せていた仕事が回ってきた。今までバディであるラウルが飛べない状態だったからな」
なるほど、ラウルが飛べなくてアストンさんが訓練できないことを良いことに仕事を押し付けていたわけですね?
「ゴットさん、もう私に張り付かなくても良いんじゃないですか? リュウちゃんも立派に育ってますし」
「そういうわけにもいかない。それに8番の竜玉がそろそろ孵化しそうだ。リュウも近いうちに孵化すると思われる。だからマリアの世話をするのはあと少しだ」
はあ、そうですか……。
こうして私達が会話をしている間に、べリーチェとシュガーはSエリアと思われる壁を調べているのだ。
そうこうしているうちに司書官のダンさんが新しい本を数冊もってやってきた。
それを王国関連の棚に並べようとしていたので声をかけた。
「あ、ダンさん。その本は新しいやつですか?」
「そうです。界渡りの乙女関連のものですね。この世界に来て間もなく亡くなった界渡りの乙女のことを新しく記載したようです。亡くなったことで国民には秘されていますが、お名前が判明したことと、シュガー殿がいらしたことで国王陛下がこの国の界渡りの乙女の歴史に加えるようにと。あ、マリアーナ様のことも界を渡ってきた犬に選ばれし少女としてお名前が載っております」
なんですと?
早速その本を見せてもらった。
本当だ。
マリアーナ・リシャールの名前が載ってる。
しかも『界を渡りこの国にいらした御犬様が選んだ自分の飼い主である』と。
な、なんだかシュガーの方が格が上のようで複雑な気分だ。
そして一番目を引いたのは歴代の界渡りの乙女の埋葬地の記載だ。
しかも、『第5代界渡りの乙女 カナコ・シタラ 王家の墓地に眠る』と……。
あれ?
カナコさんが埋葬された墓地は墓荒らしにあって遺体まで無くなっていたんじゃなかったっけ?
こうしちゃいられない、確かめに行こう!
「ゴットさん! お墓参りに行きますよ!」
「え? 今からか?」
「今からです! べリーチェ! シュガー! 行きますよ!」
「「あい!」ワン!」」
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