第75話 突然の呼び出しに錬成術師は驚く

 その知らせが届いたのは魔術科のエリアス先生の授業中だった。


 選択科目の魔術科の生徒は私を入れてたった三人。

 この人気のなさはエリアス先生の目の色と魔術に関する才能が『赤の賢者』を彷彿とさせることが要因のようだ。

 でも私達は優秀な魔術の先生を独占できてラッキーだ。


 魔術科の三人のうちの一人がシャノン。

 シャノンはエリアス先生の授業を受けるうちにその才能を開花させた。

 あっという間に複雑な魔法陣を構築し新しい魔術での攻撃方法を編み出した。


 もう1人はなんと、C組の聖巫女様だ。

 名前をドリアーヌ・ブディオ。

 噂によると、元は平民だったが学園入学前にブディオ候爵家に引き取られたらしい。

 いわゆる、妾腹の子供だという。

 魔力測定の日から注目の的だが、コミ障なのかいつも俯いて人と目を合わせない。

 と言うか、前髪が異常に長いので目が合っていたとしてもわからない。

 綺麗な金髪の長い髪にほっそりとした姿態、後ろ姿だけは美少女だ。

 誰もまともに顔を見たことがないらしい。

 でも授業態度は真面目。

 今では少しずつ私とシャノンに馴染んでいるところ。

 私とシャノンの目標はドリアーヌと視線を合わせて会話が出来るほど仲良くなること。


 さて、そんな楽しいエリアス先生の魔術の授業中に突然現れたのは学園長だった。


「授業中失礼するよ。マリアーナ嬢に火急の知らせが届いた。リシャール伯爵からだ。大至急帰ってきてほしいそうだ」


 えっ? それは何事? まさか、お父様に何かあった?


「騎士団から迎えの馬車が来るそうだ」


 騎士団から?

 そ、それはただ事じゃないね。



 ****************




 迎えに来た騎士団の馬車に乗り込むとそこにはルー先生とガイモンさんがすでに座っていた。

 そして当然のごとくベリーチェとシュガーまでも。


「ガイモンさんも呼び出されたんですか?」


「ああ、そうなんだ。詳しいことは俺も聞いていないんだ。とにかく青の騎士団まで取り急ぎ来てくれと伝達蝶が届いただけで」


 青の騎士団?


「青の騎士団は飛行隊よ。竜騎士と呼ばれる団員がいるところよ」


 へぇー

 竜騎士か。

 でも何で私とガイモンさんが呼び出されたんだろう?

 ルー先生から聞いた青の騎士団との関係性が皆目見当つかない。


 ほどなくすると目的地に着いたようだ。


 御者をしていた騎士様がこの場で待つように言ったかと思ったらどこかへ行ってしまった。


 ここどこ?

 馬車で通った道から推測するに王城の近くだとは思うんだけど、少し小高い丘のようだ。

 広々した草原に翼のある竜が10頭ほど思い思いのスタイルでくつろいでいるように見える。


 その姿はまさしくドラゴンだ。

 想像していたよりもあまり大きく無いことに驚きだ。

 そしてお世辞にも可愛いとは言い難い。

 ふと、空を見上げると5頭ほどの竜が飛行訓練をしているようだ。

 体の色も竜によって違うのが面白い。


 馬車の中で大人しくしていたベリーチェとシュガーは広々とした草原に大はしゃぎだ。

 ベリーチェを背中に乗せたシュガーは迷い無く竜達のもとへ走り出した。

 その様子にくつろいでいた竜達がのそのそと立ち上がり始めた。

 げっ、大変! 

 翼竜って、肉食?


「ベリーチェ、シュガー! 戻って来て!」


「マリア、大丈夫よ。竜達は魔物の肉しか食べないから」


 そうなの? じゃあ、心配しなくても良いのかな。

 その間もシュガーは竜達に向かって進んでいく。

 すると、なぜか竜達が一列になりシュガーの後ろを行進し始めた。


「あら、なんか面白いことになってるわね」


「おう、本当だ。シュガーの後を竜達がくっついて歩いてるな」


 なにあれ? 心なしか竜達が楽しそうにスキップしているような気がする。

 その様子がなんだか可愛く見えるから不思議だ。 

 三人でその光景を驚きながら見ていると、突然声をかけられた。


「皆さん、お待たせしてすみません」


 声に振り向くと、そこには鮮やかな青い制服姿の青年が立っていた。

 そしてその隣には巨大なドラゴンがちんまりとお座りをしていた。

 あれ? シュガーが引き連れている竜達とずいぶん大きさが違うような…


「あの子達は竜の子供です。子供は視力が弱いので目立つ色で動く物を見ると親だと思って後をくっついて歩くんです」


 なるほど、ベリーチェのピンク色とシュガーの白が目に付いたわけか。

 って言うか、君誰やねん?


「申し遅れました。私は青の騎士団副団長のドミニク・アクトンと申します。この度は総団長の取り計らいによりご相談の機会をいただきありがとうございます」


 相談?


「実は私のバディであるこのラウルが先日の魔物討伐で負傷してしまって…私を庇った時に右翼を失ってしまったんです。ガイモン殿とマリアーナ嬢が今王都で噂になっている錬成術師だと総団長から伺いました。どうか、ラウルに新しい右翼を授けていただけないでしょか?」


 えー!? 竜の翼? 義手ならず、儀翼?

 私とガイモンさんは思わず顔を見合わせた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る