第76話 学園祭のすすめとお茶会の招待状
青の騎士団副団長、ドミニク・アクトン様の依頼は竜の儀翼作成。
はたして出来るだろうか? 私とガイモンさんに。
人間の骨格については熟知しているけど、竜の骨格まではさすがにわからない。
そもそも日本と言うか元の世界では想像上の生物だもの。
ガイモンさんと顔を見合わせ思案しているところにお父様となぜかサイラス伯父様が現れた。
そしてこの二人が来たことで話が急展開した。
なんと、私とガイモンさんは儀翼の作成が終わるまで王城生活が決定し、それに伴いルー先生とベリーチェ、シュガーも護衛として逗留することになった。
ただの飾りじゃなくて実用に耐えうる物を作るとなると竜の生態から調べなくてはいけないからだ。
青の騎士団が管理する竜舎はちょうど王城の裏手に広がる草原地帯にある関係上リシャール邸から竜舎に通うよりも王城からの方が確実に近い。
当然、学園は王城から通うことになる。
なんだか面倒だが、王城の図書室を自由に使って良いことになったことは収穫だ。
王城の図書室は各国から取り寄せた書物の宝庫だという。
そしてこの図書室に自由に出入り出来るのは国王陛下の署名入り許可証が必要なのだ。
こうなったら、竜の生態調べを口実に一般人立ち入り禁止のSエリアに侵入してしまおう。
題して、『迷子になりました。ここはどこですか? Sエリア?知りませんでした』作戦だ。
竜のラウルの儀翼が完成したら作戦決行。
完成前に図書室を出禁に成ったら元も子もないからね。
この作戦は誰にも言わずこっそりと私ひとりで決行する予定。
あくまでも悪意のない迷子のフリをするのにその方が都合が良い。
それまでにエリアス先生の『赤の賢者の真実』の研究がどこまで進んでいるのかと、王家が関わっていると思われる根拠を確認しなくては。
そう言えば、この『先生』呼びもすっかり定着したな。
ジーク先生の私に対する敬語も封印だ。
学園ではエリアス先生とジーク先生が私の護衛だということは秘密だから。
もちろんリシャール邸の工房の二階にエリアス先生とジーク先生が住んでいることも秘密。
早速、荷物を纏めにリシャール邸へと帰ってきた。
もちろん、ランとナタリーにも事情を話して一緒に来てもらうことに。
そんな時、ジーク先生とエリアス先生が学園から帰ってきた。
私とガイモンさんが王城生活する旨を報告するとジーク先生とエリアス先生はお互い顔を見合わせ荷物を纏めるために部屋に引き返した。
え? もしかして一緒について来るつもり?
「「もちろん! マリアの護衛だから!」」
でも、護衛はルー先生がいるし、ベリーチェとシュガーも一緒だし、何よりも青の騎士団に出入りするのに危険はないような気がするんだけどね。
「マリアは何をするかわからないからな。見張ってないと」と、ジーク先生。
「マリアと一緒にいると予想外の事がおきるから飽きないもんね」と、エリアス先生。
そ、そうですか。
***************
王城生活もすでに二週間。
ガイモンさんは私が学園に行っている間にベリーチェとシュガーを引き連れて竜の生態を調べるために竜舎に通っているようだ。
私は学園から帰って来ると王城の図書室に直行の毎日。
竜に関する書物を読みあさっている。
本当はガイモンさんと一緒に竜舎に行って観察するのが良いのは分かってるんだけど、その決心がつかない。
だって竜だよ、竜!
ゲーム世界のドラゴンとは迫力が違う。
動物好きな私だが、爬虫類的なものはちょっと苦手なのだ。
そんなこんなで、今日も騎士団の食堂で夕飯を皆で食べながら報告会。
騎士団の食堂なら、ランやナタリー、ルー先生達とも一緒に同じテーブルにつけるので気が楽だ。
しかもランとナタリーは私が学園に行っている間、騎士団の食堂のお手伝いをしているらしく厨房の皆さんはもちろん、騎士団の皆さんともすっかり顔馴染みになっているようだ。
美人で聡明なランと笑顔が可愛いナタリーは騎士団食堂のアイドルだ。
二人を目的に魔導師団の団員もこちらの食堂に食べにくるらしい。
ふふふ…
この件が片付いてリシャール邸に帰ったらランのモテぶりをデリックさんに教えてあげよう。
デリックハーレムにランを入れてなるものか。
そんな事を考えていると、ガイモンさんがこちらに顔を向けた。
「そう言えばマリア、明日は学園はお休みだろう? そろそろ竜舎に一緒に行ってみないか? 本の情報も大切だが、実際に竜達の生活を見た方が儀翼を作成するのに役立つぞ」
だよね…
確かに本から竜に関する表面上の情報はすでに頭にインプット出来たが実際に竜の翼が動くところを見た事がない。
それに儀翼を作成するのに竜のラウルとも仲良くなった方が良いに違いない。
「わかりました。じゃあ、明日一緒に行ってみます」
私の返答にガイモンさんはホッとしたように笑顔を見せた。
その後はジーク先生とエリアス先生から『部活動』が学園の会議にかけられて承認されそうだという情報をゲット。
「ただ、活動費の面で折り合いが付かないようだ。魔道具研究部や魔法研究部だとそれなりに設備がいるだろう?」
そう言うジーク先生に私はある提案をする。
学園祭の開催だ。
そこで生徒の作品を売りさばくのだ。
その収益金は部活の活動費に当てればいい。
食べ物の出店に各クラスで催し物をやるのも良し。
年に一度のお祭りだ。
「学園祭は普段の部活動の成果や生徒達の成長を見せる場だと思って下さい。ちょうど秋に騎士科の生徒達の剣術戦が有りますよね。その日に校舎で行うのはどうでしょうか?」
だってその日は授業はないし、剣術戦は出場者の保護者しか招待されない。
騎士科の生徒全員が剣術戦に出場するわけではないので試合も午前中で終わるらしい。
だったら他の生徒達も楽しめてその保護者達も自分の子供が学園でどんな風に過ごしているのかを見る機会があっても良いと思う。
さすがに『授業参観』なんて提案は出来ないからね。
私の提案にジーク先生とエリアス先生が賛成の声を上げた。
「面白そうだな。早速明日にでも学園長に話をしてみよう」
「へえー僕が学生の時にそんな物があったら楽しかっただろうな」
ああ、そうか。
この世界はゲームやテレビがないから娯楽が少ないんだ。
では、もし提案が通ったら学園祭は盛大にやらせていただきましょう。
皆で部活や学園祭についてをわいわいと話している時に急に食堂の入り口がザワザワとしだした。
何気なくそちらに目を向けるととっても見知った人達がゾロゾロとこちらに歩いてきた。
「アンドレお兄様?」
私の呟きに反応するように声が響いた。
「マリア! 部屋に行ったらベリーチェがマリアはここにいると教えてくれたんだ」
そしてアンドレお兄様の後ろになぜか第二王子ラインハルト殿下が……
それを見た食堂にいた全員が立ち上がり一斉に頭を下げた。
「食事中に悪かった楽にしてくれ。皆の者、そのまま食事を続けてくれ」
いやいや、食べられるわけないだろが。
**************
「実はマリアにお茶会の招待状を持ってきたんだ」
そう言いながらラインハルト殿下が封筒を差し出した。
ここは王城に用意してもらった私の部屋の隣にある応接間。
あのまま騎士団の食堂にいられては他の皆さんの食事がのどを通らないのではとこちらに移動してきたのだ。
すでに食べ終わっていたルー先生とランに付き添ってもらって。
「お茶会の招待状ですか?」
「そう。僕の母からだ」
ラインハルト殿下の母上というと、第一側妃様だ。
「大丈夫だ。僕もそのお茶会に出席するから」
そうなんだ。まあ、アンドレお兄様が一緒なら安心かな。
どうも第一側妃様にはあまり良い印象が無いんだよね。
「わかりました。ご招待ありがとうございます。謹んでお受けいたします。お茶会はいつでしょか?」
「明日だ」
「へ?」
あまりのことに間の抜けた声が出てしまったではないか。
「明日は国王陛下と王妃殿下は国有地に視察に行くそうだ。その間を狙ったんだと思うよ。第二側妃様も招待されているそうだからおおかた自分の味方を増やそうとしているんだろうね。第二側妃様は今のところ中立を守っているようだけど。まあ、僕も出席するしライの母上も滅多なことは仕掛けてこないと思うよ。安心して出席すると良い」
そのアンドレお兄様の言葉のどこに安心する要素があるのだろう?
まったくもって、嫌な予感しかないではないか…
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