第74話 部活動のすすめ

「おーい! マリア、シャノン! みんな、ここだ!」


 ここは昼食時の学食だ。

 カブキ君ことイデオン・ベアードが学食のテーブルから私達に向かって手を振っている。


 あの剣の対決からすでに一カ月、私とシャノンはお互いに名前を呼び捨てにするほどの仲になり、なんとイデオンとも仲良くなっていた。


「おう! 悪いなイデオン。席取りサンキュ! マリア、シャノン行こう」


 そう言って私達をイデオンが取ってくれたテーブルに促すのはダニエルだ。


「ああーお腹が減って死にそう。今日はなに食べようかな? マリアとシャノンは何にする?」


 そう言いながらにっこりと笑顔を見せたのはコラッティーノ・ジラルディ、通称ティーノ。


 人の縁とは不思議なものだ。


 ダニエルは自分の誤解から私につらい思いをさせたことを気に病み、またイデオンも結果として何の落ち度もない女子二人に乱暴を働いたことを悔いていた。


 毎日、私の顔を見ると二人して寄ってくるので必然的に一緒にいることが多くなり、友達になったシャノンとも行動を共にするようになった。

 その中にダニエルとは学園入学前から友達だというティーノが加わり、今では五人で行動している。


 イデオンもダニエルもティーノも一緒にいると楽しい男の子達だ。

 シャノンは選択科目の魔術に適正があったようで前よりも生き生きしている。


 ご飯を食べながら、一気に可愛い妹と三人の弟が増えたなと感慨深く思っていると、シャノンからデザートの食べ過ぎ注意の勧告がでた。


「マリア、午後から薬学でしょ? もうこれ以上デザートはやめておいた方が良いわ」


「そうだな。マリアは匂いに敏感だからな。また薬草の匂いで吐いたら大変だぞ」


 私と一緒の薬学科のダニエルが言った。


「アハハハ、もうその話を聞いたときは爆笑だったな。これからは、吐くほどデザート食べるのは禁止だよ」


 ティーノのその言葉にイデオンが声を上げる。


「そう言えば、その事件からマリアは体の弱い可憐なご令嬢の噂が立ったよね。まさか、デザートの食べ過ぎで吐いたとは誰も思わないもんね」


「もう、あの薬草は有る意味凶器だったわ。でも今日は吐くなんてもったいないことはしないわよ。だから、このプリンだけは完食するわ」


「もったいないって…マリアったら。ダニエルとイデオンは、ちゃんとマリアを監視していてね。ああもう、私も薬学科とれば良かったわ。なんで占星術科にしちゃったのかしら」


 うおっ、姉ポジションの私を監視対象にするとは何事だ?

 可愛い妹と三人の弟はどこ行ったのだ?

 解せぬ…


 そう言えば、私にいつも一緒にいる友達が出来たことでサムも自然と自分のクラスの子達とお昼を共にするようになった。


 ただ、サムも選択科目が同じ薬学科なのでそこで会ったときに自分達の近況報告をしている。


 食べ過ぎのうえ薬草の匂いに気持ちが悪くなり授業を抜け出したときも、ダニエルとイデオン、サムが三人して付き添ってくれた。


 ダニエルとイデオンは同じクラスメイトだから、自分達が付き添うと主張し、サムは自分は従兄なので他人に任せるわけには行かないと主張。


 吐きそうでそんな事はどうでも言い私は取りあえず三人を引き連れて化粧室に駆け込んだのだった。


 ちょっと思い出したくない過去のため話を変えるべく、ふと、疑問に思ったことを口にしてみた。


「ねえ、そう言えば入学して一ヶ月以上たつけど部活動のことについて何の話も無いわね?」


 すると、みんなから意外な反応が。


「「「部活動? なにそれ?」」」


 え? もしかして部活が無い?


「えっと、学園の授業が終わったあと、勉強とは違う活動をする事なんだけど…もしかして無い? 無いならなら仕方ないわね」


「へーそれってどんな活動なんだ?」


 おっ、ダニエルは興味がおあり?


「たとえば、学園の魔道具作成の授業は簡単な点灯器の作成だけど、魔道具作成に興味のある人達っていると思うの。そう言う人達が集まっていろんな魔道具作成を研究するとか、生活に便利な新しい魔法を研究するとか。部活動は同じ志の人達が集まるので学年の括りが無いのよ。普段交流する事のない他学年の人達や他クラスの人達との交流の場にもなるわ」


「おお、それすごい良いね。マリアはなんでそんな事知っているんだ?」


「えっと、何かの本で読んだんだっけかな? 忘れちゃった」


「そうか。その案、生徒会に要望書を出してみようか?」


 ティーノのその言葉に私は首を横に振った。


「生徒会はダメだわ。だって私が今まで出した要望書は全部却下されたもの。唯一通ったのはサムが提案した、剣術練習場の放課後の解放だけよ」


「あら、そうなのね。ちなみにマリアは生徒会にどんな要望書を出したのかしら?」


 シャノンの言葉に私は制服のポケットから返却された三枚の要望書をみんなに見せた。


 みんな無言でその用紙を読んでいたが、大きなため息をつきながら私に返してきた。


「なにこれ? 全部食べ物に関する事じゃないの。マリアったら…」


 シャノンのこの言葉にダニエルが頷きながら口を開く。


「マリア、生徒会を恨むなよ。俺が生徒会長でもこの要望は却下だ」


「そうだね。むしろこの要望書がとおると思ったマリアに感心しちゃうよ」


 と、イデオン。


「いや、ちょっと待て。このバケツプリンの案だけど、俺のところの飲食店で試しにやってみても良いか?」


 おお!

 ティーノ、君は将来有望だぞ。


「もちろん。じゃあ、ティーノのお店でバケツプリンが実現したらみんなで食べに行きましょうね」


「取りあえずバケツプリンは置いといて、その部活の件は俺の父にもちょっと言ってみようかな。後は俺達の連名で生徒会に要望書を提出しよう」


 ダニエルのその一言で話は纏まり、私達は次の授業に向かった。

 もし、部活の制度が確立したら私はアスさんこと、エリアス先生と一緒に『赤の賢者研究部』を立ち上げるつもりだ。

 アスさんは私が赤い瞳のことを指摘した日から瞳を隠さなくなった。


 そしてこの学園で初めてアスさんとジーク様を見た人は一様に驚いた顔をするのを間近で見て、このままではいけないと思ったのだ。


 生徒達がヒソヒソと話す言葉に『赤目の災い』『恐怖の殺戮者』というワードが耳に届いた時は怒りで震えた。

 幼少期からこんな状態に耐えてきたジーク様の事を思ったら胸が痛かった。

 そして私が隠さなくても良いと言ったことからアスさんにも嫌な思いをさせてしまった。


 行き詰まっている赤の賢者の真実に、少しでも早くたどり着けるように協力は惜しまないつもりなのだ。


 それには王城の図書室にあるSエリアにどうやって潜り込むかということが目下の悩みどころ。


 アスさんが言うには王家関係の書物の中に秘密がありそうなのだ。


 なので第一王子のヒューベルト殿下にお願いという脅しをかけるかどうか思案中だ。

 脅しをかけるにはヒューベルト殿下の弱みを握らなきゃいけないからね。


 そんな物騒な事を日々考えていると、意外なところからチャンスが舞い込んで来ることになるのだった。

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