第61話  バルト殿下は可愛いがショタの趣味はない!

 結局、バルト殿下とセットで王城に連れてこられた私。


 もちろん、護衛のルー先生、ジーク様、アスさんも一緒。

 そしてベリーチェとシュガーもバルト殿下のたっての希望で連れてきたのだ。


 取りあえず、看板娘の義手は午前中の時点で出来上がっていたので引き渡しはガイモンさんがやってくれている。

 なので、当面片付けなければいけない仕事はないから良かった。


 私は相変わらず、ゴーレム義肢の販促に関しては表舞台に立ってはいない。


 国から護衛がついたことによりルメーナ文字が解読出来ることは隠していない。と、言ってもあえてふれ回ってもいないけどね。

 当初、魔法契約の項目としていた販売元の秘匿はガイモンさんがギルドと連携を取る事を考えてカットとなった。

 だから私がベリーチェを連れ歩いていても不思議がられない。

 概ね皆さんはガイモンさんの作品だと思っているようだ。


 たまにガイモンさんの所に作成依頼が来るようだけど、リシャール伯爵家との契約で同じ物は作れないと断っているらしい。


 そして私は只今、ブラウエール国の皆様の前でお茶をいただいているところ。


 ここはブラウエール国の一行に割り当てられた王城での居住区のようだ。


 広々とした応接間のソファに座り、眼光鋭い騎士団の隊長、テオドルス・フォルテン様の視線を受け止める。


 私の後ろにはルー先生達が立っていてテオドルス隊長の後ろに立っている騎士様達と、どうやらにらみ合って居るようだ。


『まずは我が国の王子を保護して頂いたこと、お礼申し上げる。バルト殿下からお聞きしたが、大変世話になったそうだが誠だろうか?』


 ブラウエール語で問いかけるテオドルス隊長にこくこくと頷く。


 なんだか騎士様達の後ろに控えている二人の侍女さんが怖い顔で睨んでいるが、私は何ら後ろ暗いことはしてないぞ。


 一緒にお風呂に入って一緒に寝て朝の挨拶がわりにキスをしただけだ。

 あれ? 改めて言葉にするとR18に引っかかる?


 部屋の片隅ではバルト殿下がシュガーとベリーチェと一緒に私特製の紙風船で遊んでいる。


 ああ、楽しそうだな。

 バルト殿下とベリーチェには言語の相違は関係ないようだ。

 シュガーに至っては種族すら違うからね。


『失礼ですが、マリアーナ・リシャール様はお幾つでしょうか?』


 テオドルス隊長の言葉に首を傾げつつ答えた。


『11歳になりました。それがなにか?』


『11歳ですか。まだデビュタトもしていないご年齢だ。その年齢なら王子とのご結婚を夢見ても仕方ない。あらゆる手を使ってバルトロメーウス殿下の気を引いたようだが、君の思惑通りバルトロメーウス殿下を誘惑出来たとしても、殿下は今年6歳のまだ何も分からぬ年齢だ。マリアーナ様のご希望は到底叶う事などありえない。どうか、諦めて頂きたい』


 は?

 なんで私が玉の輿狙いの女と思われているのだ?

 あらゆる手を使って?

 誘惑?

 そりゃ、バルト殿下は可愛いが私にショタの趣味は無いぞ。

 あまりのことに固まっていると後ろからルー先生が囁いた。


「マリア、あの隊長は何て言ったの?」


 ずっと、私とテオドルス隊長がブラウエール語で話しているのを聞いていたルー先生がしびれを切らして問いかけてきた。


「なんか、私がバルト殿下と結婚を夢見ていると思われているようで、誘惑したと。君の希望は叶うことがないから諦めて欲しいと言われました」


「は? 何なのかしらそれ」


「まったくだ。自分達の失態を棚に上げてマリア様の善意の行動をあらぬ方向で勘違いするなどもってのほかだ」


「確かに。第一王子に興味ないマリアちゃんが他国の幼児王子と結婚したがってるなんてバカバカしい」


 三人の言葉に頷きながら、テオドルス隊長に向けて声をかけようとしたところでドアがノックの音と共に勢い良く開いた。


「「マリア!! 大丈夫か??!!」」


 お父様とサイラス伯父様だ。

 その後ろには青い顔をしたスーツ姿の男性が一人。


「マリア、酷い目にあったな。いくら他国の要人の護衛とは言え世話した恩人にこのような不当な扱い、許される物ではない。断固として抗議する!」


「ああ、今日ばかりはセドリック殿の意見に賛同だ。我がシャーナス国はブラウエール国に対し、正式に抗議させてもらう!」


 あ、なんか面倒なことになってきた。


「な! あなた達は了承もなしに部屋になだれ込んで来て何をおっしゃっているのだ? 不当な扱いなどしておらん。お茶をお出しして話をしていただけだ!」


 あれ? 言葉が通じてる?


「あら、旦那様達の後ろに立ってるヒョロリとした男は通訳士だわ」


 通訳士?

 首を傾げる私にジーク様が説明してくれた。


 通訳のスキルを持った人でその人がいる空間ではお互いの使用している言語に相違があったとしても言葉が通じるという。

 通じる空間の広さはその人のスキルレベルによるらしい。


 へぇーそれは便利だね。

 でもあの人、今にも倒れそうだけど大丈夫かな?


「ああ、僕あの人知ってる。名前は確かダドリーだったかな。極度の人見知りで人が十人以上居るところに長時間居れないんだ。ダドリーさんのスキルを拡張する魔道具を作ったから覚えてるよ」


 そう言うアスさんの言葉に目を丸くする。

 十人以上って、この部屋すでに十人以上いるよね。

 やだ、この騒ぎ早くおさめないとあの人倒れちゃう。


「皆さん! 何かと誤解があるようなので、私がご説明いたします!」


 私はそう言って立ち上がり皆の顔を見渡した。


「まず、お父様とサイラス伯父様、本当にお話していただけなのでご安心下さい。ブラウエール国の皆様は何か勘違いをしているようですね。昨日、バルト殿下は迷子になっている所を冒険者のデリックさんが我がリシャール邸にお連れしました。言葉が通じず、心細い思いをしていたようです。この時点でご自分達の失態を深く反省をして下さい。柄の悪い連中に絡まれているところをデリックさんが助けたようです」


 そう言うとブラウエール国の皆さんは青い顔をして俯いた。

 私を怖い顔で睨んでいた二人の侍女さんに至ってはもう倒れそうなほど血の気が引いていた。


「そんな中、私と言葉が通じてとても安心したようです。私の侍女達がバルト殿下のお世話をしようとしたのですが、私から片時も離れなかったので私がお世話をしました。何かご質問が有る方いらっしゃいますか?」


 私がそう言うと、テオドルス隊長が手を上げて口を開いた。


「あー、その、ふ、風呂に一緒に入ったと言うのは事実だろうか?」


「はい、本当です。では逆にお聞きしますが、5歳児のバルト殿下が侍女の手を借りずにお風呂に入れるのでしょうか? 私から片時も離れないバルト殿下を無理やり引き離した方が良かったと?」


「い、いや…それはそうだな。で、では一緒に寝たというのは?」


「はい。本当です」


 そう私が言ったところで、バルト殿下がベリーチェと手を繋いでこちらに歩いてきた。


「僕がマリアに言ったんだ、今日はマリアと一緒に寝ると」


「テオドルス隊長、バルト殿下からのこの申し出を私は拒んだ方が良かったのでしょうか? 言葉が通じず、怖い思いをした幼いバルト殿下にそんなことは出来ないと突き放した方が良かったのでしょうか?」


「い、いや…それは…」


 額に汗をかきながら口ごもるテオドルス隊長にバルト殿下が無邪気に語りかける。


「昨日の夜はベリーチェを挟んで三人で一緒に寝たんだ。朝起きた時に母上がしてくれるようにマリアのほっぺにキスして、マリアも僕にしてと言ったらおでこにしてくれたんだよ。だからマリアとはもう家族なんだ」


「クマも一緒…ほっぺとおでこ? 他人じゃないって言うのはそう言う意味か…な、何だか、いろいろと誤解があったようだ…」


 どんな誤解だよ。


「あのですね、こう言っては何ですが、あなた方はバルト殿下を迷子にさせた事態を軽く見過ぎです。こんな小さい子が言葉も通じない国で迷子になるのは生死を分ける重大な事です。あの時、デリックさんが通りがからなかったどうなっていたか想像して下さい。あなた達は要人を護るために結成された精鋭部隊だとお聞きしましたが違うのですか? 私に検討違いな事で絡む暇があったら、ご自分達の事を反省し、今後この様なことが起きぬように対策を練る方がよろしいかと」


 私の言葉で侍女さん二人が床に崩れ落ち泣き出した。


 そんな中、ベリーチェの可愛い声が響く。


「こころがよごれてるおとなは、こころのめがくもってるでしゅ。そんなめでは、しんじつがみえないでしゅ」


 ベリーチェの一言でブラウエール国の騎士達は涙目になり一斉にうなだれた。


 それと同時にダドリーさんが白目をむいて倒れた。

 あー、倒れちゃった。

 ちょうど近くにいたお父様とサイラス伯父様が抱きかかえて慌てて出て行った。


 それと入れ替わるようにブラウエール国の騎士様が一人、音もなく入ってきた。


 そして涙目でうなだれているテオドルス隊長に耳打ちする。


『赤い鳥達はまだ巣から出ていないようです。親鳥同士の動向を窺っているようです。このまま双方の親鳥が餌場問題を解決出来れば巣が荒らされる事はないでしょう』


 軍事に関わる隠語だ。


【隣国の軍はまだ国を出国していないようです。両国の王の出方をみているようです。このまま両国の利益問題が解決出来れば戦争にはならないでしょう】


 全世界言語読解のスキルって隠語にも適応するんだ。

 驚きだ。

 そしてもっと驚きなのがブラウエール国とその隣国で戦争が起ころうとしているってこと。


 なる程、それを危惧して我が国にバルト殿下の保護を求めたのか。


 だから、秘密裏に入国となったわけか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る