第57話 お茶会と不敬罪
ガイモンさんとの共同事業のゴーレム義肢も概ね順調。
冒険者のデリックさんが各地でそれとなく宣伝をしてくれているようだ。
王都から離れた街からわざわざ来てくれる人達もいるくらいだ。
ただ足を無くした人は長旅をするのは大変だ。
そこら辺の対応をどうするかが今後の課題だ。
こちらから出向いても良いんだけどね。
でもそうすると、お父様を説得するのが大変そうだ。
説得に成功したとしても道中の移動の際に騎士団を動かしそうで怖い。
あと、サイラス伯父様ね。
宰相という立場を違う方向で活用しそうでこれまた怖い。
あの国王陛下との謁見の後、私に『大きくなったね。母親のアメリアにそっくりだ』と言って頭を撫でてくれた伯父様。
ベリーチェの誤解も解け一安心だ。
何でもシスコンの伯父様はお父様に妹を取られたと意地を張ってお母様に会いに来るのを避けていたようだ。
お母様が亡くなって益々私達に会いにくくなり、ずっと後悔していたらしい。
今度時間を作って息子を連れて私達に会いに来ると言っていた。
息子ってマリアーナと同じ年の従兄だね。
日記に会えなくて寂しいと書いてあったのを思い出す。
きっと仲良しだったんだろう。
こうしてみると、実はお父様と伯父様は血が繋がっているのではと疑ってしまう。
思考が似ている。
そして王命により私の護衛として選ばれたジーク様と、魔導師団のエリアス・サモラ氏。
ジーク様は毎日通って来てくれ、屋敷の皆とも良好な関係だ。
魔導師団のエリアス・サモラ氏は未だに姿を現さない。
まあ、良いんだけどね。
ルー先生もいるし。
そんな中、私は11歳になった。
身長も少し伸びたようだ。
胸は相変わらずペッタンコだがまだ成長過程だからね。
今後に期待と行きましょう。
そして今日、王妃様のお茶会に招待され再び馬車で王城へと向かっている。
クマのぬいぐるみのゴーレムを造った私とそのゴーレムを見てみたいと言う王妃様のたってのご希望によるものだ。
私的な二人だけのお茶会のようだ。
お兄様は学園が始まったので今日の付き添いは護衛のルー先生とジーク様。
馬車の中ではベリーチェはルー先生の膝にお座りをして王妃様のお茶会に関する注意事項を聞いている。
「ベリーチェ、くれぐれも王妃様に失礼なことをしちゃダメよ?」
「あい! ベリーチェ、しつれいなことはしましぇん」
「お行儀良くね。お菓子が美味しそうだからって大口開けてばかばか食べちゃダメよ?」
「あい!ベリーチェはたべましぇん」
うん、だってぬいぐるみだからね。
食べないよね?
「口にクリーム付けながらのお喋りも厳禁よ?」
「あい!ベリーチェはくりーむつけましぇん」
ん? 何だろう?
これはベリーチェに言っていると見せかけてもしや私に言っているのか?
「手についたクリームもドレスにこすりつけて拭いたりしちゃダメよ?」
「あい!ベリーチェ、ドレスでふきましぇん」
「ちょ! 失礼な! 私はそんなことしませんよ」
思わず会話に割って入った私にルー先生が笑顔を向ける。
「あら、マリアったらどうしたの? 今のはベリーチェに注意していたのよ?」
嘘だ!
絶対に私に向けての言葉だ!
「まさか、心当たりでもあるのかしら?」
ぐぐぐ…
返す言葉がない。
そんな私達の様子を見ていたジーク様が視線をそらしながら肩を揺らしている。
どうやら笑っているようだ。
**************
「まあ、まあ! なんて可愛らしいのでしょう! マリアーナ嬢もベリーチェも想像以上の可愛らしさよ!」
そう言って私達を出迎えてくれたのは王妃様だ。
蜂蜜色の艶やかな髪をアップに纏め、目の覚めるような綺麗な青い瞳の美女。
とても40歳過ぎとは思えない。
豊かな胸の谷間が見える大胆なデザインの紺色のドレスを品良く着こなしている。
ここは王城の多目的ホール。
プライベートなお茶会に良く使われるらしい。
ルー先生とジーク様は隣の控えの間に案内され出て行ってしまった。
円卓には色とりどりのケーキや焼き菓子が並べられ、給仕のメイドさんがお皿に取り分けてくれている。
王妃様は私の隣に座りさっきから私の髪を指で弄び、頬を撫でている。
相手が美魔女でなければ立派なセクハラだ。
これじゃあ、せっかくのケーキが食べられないではないか。
はっ、もしやこれはセクハラではなく嫌がらせか?
ベリーチェはお茶を入れてくれた侍女さんにお礼を言って好感度を爆上げしている。
飲まないんだけどね。
そしてなぜか私の向かいの席では第一王子のヒューベルト殿下の冷たい視線を感じる。
嫌われている?
初対面のヒューベルト殿下に嫌われる理由が思い付かない。
ああ、もしかしてかなりのマザコンだとか?
大好きなお母様を取られて拗ねてる?
やだキモイ。
髪の色も瞳も王妃様譲りの見た目はザ、王子様と言う感じのイケメンなのに残念男子だったか。
確か、17歳か18歳だったっけ?
それにすでに婚約者がいたはず。
その婚約者に深く同情する。
「もうね、マリアーナちゃんの話を陛下から聞いたときに私、ピンと来たのよ。そしてこうして実際に会ったら確信に変わったわ。来年はマリアーナちゃんもデビュタントですものね。ヒューベルト、マリアーナちゃんを庭園にご案内してあげなさい。この時期はフリーローズが綺麗よ。ベリーチェはここでお話してましょうね」
何だか王妃様の強引とも取れる後押しでヒューベルト殿下と一緒に庭園を散歩するはめに。
先程からヒューベルト殿下は一言もしゃべらず、私の前をサッサと歩いてる。
おかげで私は小走りでついて行くしかない。
アフタヌーンドレスでの小走りはかなりキツイ。
これ、はぐれたら絶対迷子になるよね?
「あの! ヒューベルト殿下、もう少しゆっくりと歩いていただけますか?」
そう声をかけるとヒューベルト殿下は突然その場に立ち止まった。
うおっ!
突然止まらないでくれ。
背中にぶつかりそうになったじゃないか。
すんでのところで踏みとどまりぶつからないで済んだ。
「君、僕には婚約者がいるんだ。彼女以外に娶るつもりはない。諦めてくれ」
いきなり振り向いたと思ったら意味不明な言葉を口にするヒューベルト殿下。
諦める?
何を?
「いくら神の加護を持ち、ルメーナ文字を解読する魔術の天才だとしても僕にとってはただの子供だ。君に興味はない」
は?
なんですと?
「お言葉ですが、殿下。それはこちらのセリフです! 私も殿下にはこれっぽっちも興味はありません。まさか、私があなたの婚約者の座を狙っているとでも?」
もう、マザコン王子なんてごめんだよ。
そう心の中で呟く私にヒューベルト殿下は詰め寄り右手首を掴んだ。
力任せに掴まれた右手が痛い。
「興味が無いなんて信じられないね。可愛い顔をして何を企んでるんだ?! 婚約者の座を狙ってないというのなら何故今日、このお茶会に来たんだ?! そのつもりだからのこのこと来たんだろう?!」
「何故来たかですって? 王妃様からの私的なお茶会の招待をお断り出来る立場ではないからです。だいたい王子妃なんて面倒なものになりたいだなんて天地がひっくり返ってもあり得ないわ。誰もが自分と結婚したいと思ってるなんて思い上がりも良いところだわ。あなたにも、あなたの立場にもなんの魅力も感じません。気分が悪いのでこれで失礼します」
私はそう言うとヒューベルト殿下の手を振り切り走り出した。
痛いなもう。
手首が赤くなっちゃったじゃないか。
これにしてもここどこ?
これは、もしかしなくても迷子?
怒りにまかせてめちゃくちゃに走ってきたから方角さえもわからない。
まあ良いか。
近くの建物に入って最初に出会った人に道を聞こう。
ああ、それにしてもさっきのはまずかったかな?
落ち着いて考えたらかなり失礼なことを第一王子相手にぶちまけてしまったような…
私の頭の中で『不敬罪』という言葉がこだまする。
これは他国へ逃亡も考えておくべきか?
「おい! 止まれ! 何者だ?!」
突然の大声にびっくりして顔を上げると、そこには黒いフード付きローブを身にまとった少年がいた。
そしてその返事とばかりに私のお腹が鳴った。
「ぐうー」
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