第56話 変態オジサンの称号

 国王陛下からの呼び出しは魔力測定の日の二日後だった。


 朝からパープルのヒラヒラのドレスを着せられて髪までハーフアップに纏めていざ出陣。


 お父様は王城で合流する予定。

 付き添いは昨日、領地から帰って来たアンドレお兄様。

 そして、ベリーチェにシュガーだ。


 シュガーは界渡りの乙女と共にこの世界に来た犬として、ベリーチェは私が造った知能を持ったゴーレムとして国王陛下にお披露目するためだ。


 お父様曰わく、国王陛下が私の異世界の神の話を信じなかった場合の保険らしい。


 亡くなった界渡りの乙女の意志を受け継ぎ子犬の飼い主となり、知能を持ったゴーレムを造れるほど魔術の才能がある存在を蔑ろにするとこの国の不利益になりますよのアピールだ。


 四人でリシャール家の馬車に乗り込み王城へ向かう。


「マリア、大丈夫だよ。僕がついてるから安心して。今日はとびきり可愛いね」


 そう言いながら私の向かいの席で微笑むアンドレお兄様。

 また背が伸びて幼さが消えたシャープな顔のラインが精悍さを増している。


 思わず、キュンとしてしまった。

 いけない、いけない、これはイケメントラップだ。


「ベリーチェもついてましゅ。マリアにいじわるしゅるわるいこくおうしゃまはやっつけましゅ!」


 や、それはやめてほしい。

 反逆罪で捕まっちゃうからね。


「アンドレお兄様、領地から戻ったばかりで疲れているのにすみません。でも付き添っていただけて心強いです。ベリーチェもありがとうね。でも国王様をやっつけるのだけはやめてね」


「ああ、そうだな。ベリーチェ、人が見ている前で襲撃するのは関心しないな。やるなら目撃者のいないところで証拠を残さずだ」


「あい! アンドレおにいしゃま。ベリーチェ、がんばるでしゅ!」


 頑張っちゃいかーん!


「アンドレお兄様! 目撃者のいない所でもダメですってば!」


「やだな、マリア。冗談だよ」


「じょうだんでしゅ」


 冗談かい!

 なんだかんでこの二人は仲良しだ。


 ソッとため息つく私の膝にシュガーが頭を乗せてきた。


「クーン」


 ああ、シュガーは癒される。


「マリア、王城の門に着いたようだよ。さあ、国王陛下と戦いと行きますか」


 うん、それ目的違うから。

 異世界の神様の説明に来ただけだから。






 ***************





「ほお、それは面白い話だな」


 そう言いながらこちらに笑顔を向けるのはこの国の国王陛下。

 水色がかった銀髪に深い濃紺の瞳の40代後半のイケオジだ。


 謁見の間の玉座に座り、私の異世界の神様の説明を聞いて頷くその顔はとても穏やかだが、目が笑っていない。


 一見、人の良さそうなオジサンと言う雰囲気だがこれはなかなかどうして…


 一筋縄ではいかなそうだ。

 では、私も気を引き締めましょう。


 謁見の間に通されたのは私、アンドレお兄様、ベリーチェ、シュガー、そして騎士団から駆けつけたお父様だ。


 国王陛下の両脇には護衛兼側近と思われる筋肉マッチョの青年が二人。


 そして少し離れた所に宰相と思われる男性が一人。

 お父様と同じくらい整った容貌のナイスミドルだ。


 先程からこの人にジッと見つめられていて居心地が悪いったらありゃしない。


 この人、マリアーナの伯父様だよね?

 分かってるから安心だけど、知らなきゃ幼女好きの変態だぞ。


 ほら、ベリーチェが厳戒態勢に入ってる。


 確かシスコンの伯父様とお父様は仲が悪かったはず。


「マリアーナ嬢の話は非常に興味深いが証拠がない。その話が本当の事だと私に証明して見せよ」


「異世界の神様のお話は本当の事ですが、証明となると難しいですね。なぜなら、この国に異世界の神についての文献はございません。よって調べようがないのが現状です。ですが、私が受け取った界渡りの乙女のお言葉については証明できます。王城騎士団のジーク様を証人としてお呼び下さい」


 私の一声で謁見の間の扉の外に控えていたジーク様がこちらに来た。


「黒の騎士団、ジークフィード・トライアンご用命により参上いたしました」


「うむ、楽にせよ。では、早速だがこのマリアーナ嬢が亡くなった界渡りの乙女の言葉を受け取ったと言うのは本当か?」


「はい、本当です。マリアーナ嬢は私しか知り得ない界渡りの乙女の名前を知っておりました」


「名前を知っていたと? 界渡りの乙女は息を引き取る前にお前と会話をしたのか? 何を話した?」


「それに関しては私、マリアーナがここで説明出来ます。界渡りの乙女からお聞きした息を引き取る前の一部始終をお話出来ます」


 そう言った後、私は最後にジーク様と交わした会話の一部始終を話して聞かせた。


「最後に彼女が息を引き取る前にジーク様に言った言葉は『あなたと結婚する女性は幸せね。さようならルビーの騎士様』です。彼女はその言葉を最後に目を閉じました」


 絶対忘れない。

 私が秋本満里奈として発した最後の言葉だ。

 私の話を聞きながらジーク様の瞳も少し潤んでいる。


「私は界渡りの乙女の見たものや感じたことが映像のように頭に入って来たんです。異世界の神様の情報もその時に受け取りました。それがどうしてなのか説明しろと言われても出来ませんが。

 これでも信じていただけないのなら仕方ありません。異世界の神様は太陽神と国造りの神様なのでこの国を出たとしても私を護って生かしてくれるでしょう」


「「「そんなのだめだ!!!」」」


 え? なに?


 複数の叫び声に一瞬耳がキーンとなった。

 思わず、耳を押さえてしゃがみ込む。


「マリア! 大丈夫か? 可哀想にこんなに震えて」


 アンドレお兄様が駆け寄り私を抱きしめた。

 いや、違うから、皆の大声で耳が痛いだけだから。


「マリアを追い出すような国ならもうこの国は終わりだな。我がリシャール家もこの国を捨てるしかないな」


 えっ? それじゃあ、追い出されるの決定みたいじゃないですか。


「総団長! 俺もついて行きます!」


「マリアをいじめるわるいこくおうしゃまでしゅ」


「ワン! ワン!」


 いやいや、皆さん、ちゃんと私の言葉を聞いていたかい?

 これでも信じて貰えないならの話だよ?


「僭越ながら、国王陛下。マリアーナをこの国から追放するというのなら私も宰相の座を退き、我が一族ごと他国へ移住いたします。もちろんマリアーナは私が引き取ります」


 玉座に座る国王陛下を見据えながらそう言葉を発したのは伯父様だった。


「は? 冗談はやめて下さい。宰相殿、マリアは私の大事な娘だ。誰にも渡さない!」


「パパしゃん、このおじしゃん、さっきからマリアをへんなめでみてたでしゅ。へんたいおじしゃんです! マリア、わたしゃないでしゅ!」


 ベリーチェから変態オジサンの称号をつけられた伯父様はショックのあまり固まった。


「わ、私は変態じゃない!」


「へんたいはきまってそういうでしゅ! さっきからマリアをじっとみてたでしゅ!」


「あまりにも可愛いから見てただけだ! 変態じゃない!」


「それをせけんではへんたいというのでしゅ!」


 ああ、もう何が何だか分からなくなって来た。

 この二人は、ほっとこう。


「まあ、まて、まて!! 私はまだ何も言っておらんぞ。皆、落ち着け。ジークフィード、マリアーナ嬢の話は本当か? 界渡りの乙女との会話に相違はないか?」


「あ、はい! 相違ありません。まるでその場に居たかのように正確で驚くばかりです」


 はい、私、その場に居ましたから。


「そうか。それにしても、そのクマのぬいぐるみは知能のあるゴーレムなのか? 奇想天外な発想がマリアーナ嬢の異世界の神様の加護を物語っているな。聞けば、義肢をゴーレム化する案も君の発案だとか。よし、君を信じるとしよう。では、私からも王命を授ける。マリアーナ嬢に国から護衛をつける。護衛は二名。騎士団から一名、魔導師団から一名だ」


 あー護衛と言う名の監視ってやつですね?

 思わずキツイ視線を送ってしまった私は悪くないと思う。


「違うぞ。監視ではないぞ。異世界の神の加護を持ち魔術の才能を持つ子供は国の宝だ。それを護る護衛だ」


 あら、言葉に出てましたか?


「騎士団からの護衛はジークフィード・トライアンを任命する」


「はっ! その王命、謹んでお受けいたします!」


「うむ。そして、魔導師団からはエリアス・サモラを。サイラス宰相、大至急魔導師団に通達してくれ。エリアスがゴネたらベリーチェを見に来いと言えばいい。飛んでくるさ」


 こうしてなぜか護衛が二人増えて陛下との謁見は幕を閉じたのだった。

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