第55話 謎の加護らしい

「さあ、早速魔力測定をしょう。マリア、この水晶に両手を当ててくれ」


 そう言いながらバレーボール大の水晶玉を私に差し出したのはルキーノさんだ。


 ここは二階にあるルキーノさんの執務室。


 ギルドについて早々、受付で私達三人を待ちかまえていたデリックさんに案内されたのだ。


 私の両脇ではルー先生とガイモンさんが興味深々の顔で見つめている。


 うーん。

 出来れば独りでこっそりとやりたいんだけど、それは無理そうか。


 しょうがない、腹をくくるか。


 私はそう決心すると水晶玉に両手を当てた。


 そのとたん、眩い光が部屋中に満ちて少ししたら何事もなかったように収まった。


 んっと、終わったのかな?


 誰も何も言わないけど手はもう離しても良い?


 水晶から手を離すと、空中に銀色のカードが現れた。

 大きさはちょうどクレジットカードぐらい。

 何だろこれ?


 カードを取ろうと手を伸ばしたが、それよりも先にルキーノさんが素早い動きでキャッチしていた。


 男性陣はルキーノさんの周りに集まり手元のカードを見つめている。


「なんだこれは?」


 ルキーノさんの言葉を受けて皆それぞれ首を傾げている。


「あら、こんなの見たことも無いわね」


 そしてルー先生の言葉に一斉に頷いている。


 なぜか私は蚊帳の外。

 ちょっと、それ私のだよね?

 なになに? 皆、何見てるの?

 ぴょんぴょん跳ねながらのぞき込もうと頑張るが、背の高い男性陣の壁に阻まれ全然見えない。


「デリック! 隣からゲルマンを呼んできてくれ。理由を聞かれたら、第一級案件と答えてくれ」


 そうルキーノさんが言うと、デリックさんはわかったとばかりに片手を上げ部屋を出て行った。


「ルーベルト、悪いがセドリックに伝達蝶を飛ばして大至急こちらに来るように伝えてくれ」


「わかったわ」


 え? 

 な、なに?

 なんなの?

 だいたいそのカードは何さ?


「あ、あの、魔力測定の結果は?」


「マリア、君は全属性持ちに加え、光属性もあった。魔力量は4600リマだ。だいたい平民で1500~2500リマ、貴族となると2500~3500リマぐらいが平均だろう。平均を上回る素晴らしい結果だ。だが魔力量の多い者は珍しくはない。先代の国王陛下は5000リマを超える魔力があったと言われている。あとはユニークスキルと称号も独特だが問題は加護だ」


 加護…

 あーやっぱり界渡りの乙女に関係するものがあったんだ。

 困ったな…


「先程の部屋中に満ちた光は神の加護の光だ。それも一つではない」


 へ? 神の加護?

 思いも寄らないルキーノさんの言葉に頭の中が『?』だ。


「しかもその神々の名が我々の知らない神の名だった。だからゲルマンと騎士団総団長であるセドリックを呼んだんだ」


 ルキーノさん達の知らない神様の名前?


「えっと、それってどれですか?」


 私の言葉にルキーノさんが銀色のカードを見せてくれた。


 そこには私にとっては馴染み深い二名の名前があった。


天照大神あまてらすおおみかみ』『大国主命おおくにぬしのみこと


 日本の神様だ。

 なんで?

 いや、まてよ。

 確か日本でこの神様達が祀られている神社に行ったことがある。

 いわゆるパワースポットと言われる場所だ。

 婚活祈願にいつもは十円のところを奮発して千円のお賽銭をしたのを覚えている。

 しかも至る所に設置されたお賽銭箱に未来投資とばかりに。

 それか? そのお賽銭が功を奏したのか?


 だが、何故今?

 神様、遅すぎます。

 どうせ加護してくれるなら日本にいるときにお願いしますよ。

 ここ異世界だし…

 お賽銭、返して。



 商業者ギルドからゲルマンさんが、騎士団から早馬でお父様が駆けつけ今は場所を会議室に移して話し合い中。


 いったいこの加護の何が問題なのかがわからない私はお茶と一緒にクッキーをポリポリとかじる。


 だってこの加護、異世界では無効なんじゃない?

 きっと日本の神様たちも加護と言うより、『お賽銭ありがとうね』ぐらいの軽い気持ちにちがいない。


 そんな私の両隣に座っているルー先生とガイモンさんがそっと自分のクッキーを私のお皿に乗せてくれた。


 あ、ありがとうございます。

 では、遠慮なくいただきます。


 向かい側の席ではお父様、ルキーノさん、ゲルマンさん、デリックさんが神様の名前に心当たりがないか話し合っている。


 一番心当たりのある私を置き去りにして大人達がこの世界の国々の神様の名前を片っ端から読み上げている。

 どんなに頭をフル回転させても日本の神様のことはわからないだろう。


 そう言えば、先程のカードがギルドカードらしい。

 あれさえ持っていれば全国のギルドで使用できる他、検問所での身分証にもなる優れものだ。

 とても小さいタブレットみたいで指先でスクロールしながら画面を確認するらしいが、そのカードに自分の血を一滴たらして本人認証の儀をしなければ使えない。

 それ故に他人のカードを盗んで使うことは出来ないらしい。


 早く本人認証の儀をやっちゃいたいんだけど。


「あの…その加護ってそんなに問題なんでしょうか?」


 我慢できずに思わず声をあげた私に皆の視線が集まる。

 口を開いたのはお父様だ。


「マリア、神の加護が発現した場合、国に報告の義務があるんだよ。しかも加護してくれる神の立ち位置によってマリアの立場も決まるんだ」


 どういうこと?


「マリアを加護してくれる神がこの国にとって邪神と言われるものならマリアに護衛と言う名の監視が生涯付くことになる。狂神と言われる神も然りだ。まあ狂神の場合は幽閉に近いがな。各国にいろいろな神様がいるんだよ。だからマリアを加護してくれている神がいったいどこの国のどんな神なのかを知りたいんだ」


 ええっ!

 それ、死活問題じゃないですか!

 まずい、まずい!


 天照大神も大国主命も日本では有名な立派な神様だって!

 天照大神は太陽神だし、大国主命は国造りの神だよ。


 ど、ど、どうする?

 これ、説明しても良いの?

 って言うか、それ知ってるの私しかいないじゃん。

 説明しなきゃ幽閉まっしぐらじゃん!


「あ、あのですね。天照大神も大国主命も異世界の神様です!」


「「「は???」」」


 皆が一斉に私を見ながら言った。


 だ、だよね。

 さて、どうするか?

 ここは勤続5年で培った営業トークで押し切りますか。


「まず、天照大神ですが、こちらの神は女性です。ようは女神様ですね。異世界のある国ではもっとも尊い存在で太陽を司る太陽神です。そして大国主命は心優しく頭脳明晰なうえ医学にも造詣が深く、争い事ではなく人を思いやる心で国を造ったと言われるとても良い神様なんです。何かご質問有る方いらっしゃいますか?」


「マリア、多分皆さん質問したい事がたくさんあるだろうが、ここは父親として私が聞こう。マリアはどうして異世界の神のことを知っているんだ?」


 はい、予想通りの質問です。

 でもちゃんと答えは用意してますよ。


「お父様、私は異世界と深い繋がりがあります」


「繋がり? どう言うことだ?」


「お忘れですか? シュガーは異世界から界渡りの乙女と共にこちらの世界に来たんですよ? それに私は界渡りの乙女の埋葬の時にあの方のお言葉を受け取りました。ジーク様がそれを証明してくれるはずです」


「ジークが?」


「はい」


 界渡りの乙女の埋葬の時に彼女の声が聞こえたこと、その時に異世界の神様の情報も頭に流れ込んできたこと、彼女がジーク様に伝えて欲しいことが有るというので伝えたことを話して聞かせた。

 今まで黙ってたのは、界渡りの乙女の助言によるものだと言っておいた。


 皆さん、半信半疑の様子だが、私があまりにも自信満々で淀みなく話すのを聞いて最後は納得したようだ。


「わかった。これから私は王城に戻って宰相に報告をする。マリア、陛下から呼び出しを受けたら今の話を陛下の前でしてくれ。その時にジークも同席させよう」


 げっ、国王に会わなきゃいけないのか。

 とてつもなく面倒くさい。

 でもジーク様も巻き込んだ責任をとって頑張りますか。


「わかりました」


 さぁ、お家に帰って1人作戦会議といきますか。

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