第49話 死にたいなら…
さて、またまたやってきました冒険者ギルド。
今日もガイモンさんとルー先生の2人に両脇を固められている。
デリックさんの治療をした日から一週間たった。
あの日帰ってからお父様に事の顛末を報告し、魔力測定をギルドでやる旨を伝えた。
お父様もお兄様も私に光属性があることよりもブラッドさんに頭の弱い子認定をされたことの方が重大問題らしく2人でブラッドさんへの報復の方法を相談しているのをルー先生と止めに入った程だった。
ブラッドさんの身の安全が気になるが彼も一人前の冒険者だ。
自分の身は自分で守ってもらいましょう。
彼の身に何かあっても知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりだ。
許せ、ブラッド青年。
木製のドアを開けると一斉に視線が向けられる。
今日はベリーチェを連れていないので変な誤解を受けることはないはずだ。
にもかかわらず、なぜだか視線が突き刺さる。
あれ? 何でだろう?
「言っとくけど、俺達のせいじゃないぞ。マリアのせいだからな」
な、なんで?
「そうね。この状態はマリア様が原因でしょうね。ほら皆、マリア様を見ているわ」
え? 私を見てる?
本当だ。
あ、でも前みたいな嫌な視線じゃない気がする。
待合いの椅子に座りこちらを見ている人達は概ね皆さん笑顔で、小さく手を振ってくれてる人もいるではないか。
その人達に、にっこりと笑顔を向けながら奥へと進む。
すると突然私達の前に1人の女性が立ちはだかった。
「ちょっと、あなたがデリックを助けた子供?」
金髪の長い髪をポニーテールにし、茶色の瞳の美女だ。
冒険者らしい、ミリタリーファッションの上からでもナイスボディがだと分かるくらいだ。
もしかして、デリックさんの彼女?
「あの、あなたは?」
「私はクラリッサ・バレットよ。あなたには特別にリサって呼ばせてあげる。何てたって、私のデリックを助けた恩人ですもの」
「ちょっと! クラリッサ! なにが『私のデリック』よ! デリックはあんたの物でも何でもないわ! 強いて言えば、私の物よ!」
そこにまた違った美女が参戦。
「あら、クロエさん。デリックさんはあなたの物でもないですよ。だって、デリックさんはクラリッサさんやクロエさんみたいなオバサンよりピチピチの私の方が良いに決まってますもの」
うわ、また新たな参戦者登場だ。
デリックさんったら一体何人と付き合っているんだろう?
「さ、マリア様、行くわよ」
そう言ってルー先生が私の手を引き受付へ突き進む。
えっと、良いのかな? あの人達ほっといて。
「ほっといて大丈夫だろう。俺達に関係ないからな。巻き込まれないようにさっさとこの場を離れよう」
そう言ってガイモンさんも足早に横を歩く。
もうすぐ、受付のカウンターという所で一際大きな声が響いた。
「おい! マリアって言うのが来たと聞いた! どこにいる?!」
な、なに?
マリアって私? それとも他のマリア?
その場にいた皆が一斉に私を見た。
あ、やっぱり私?
入り口を振り返ると右腕を包帯でグルグル巻きにした男が立っていた。
途端に、先程の女性3人に囲まれている事から彼はデリックさんだろう。
デリックさんは群がる彼女達を振り切りこちらに大股で歩いてきた。
怪我の治療の時は分からなかったがとても身長が高い。
190cmはありそうだ。
適度な筋肉がついているが決して筋肉マッチョではない。
青い短髪に紺色の瞳。
太い眉の間にしわが寄っているところを見ると、なにか怒っていらっしゃる?
デリックさんは私の前に立つと鋭い視線を向けた。
「お前が、マリアか?」
問い詰めるその口調にちょっと後ろに下がりながら頷いた。
「そうです。私がマリアです。あなたはデリックさんですか?」
「そうだ。デリック・ビートンだ。なぜ、俺を助けた?」
はい???
聞き間違いか?
デリックさんを見つめたまま一言も発しない私に苛立ったように今度はさらに大きな声で言った。
「どうして、俺を助けたんだ?! この手はもう元の様には動かない! 冒険者を辞めるくらいなら死んだ方がましだ! あのまま死なせてくれれば良かったんだ!」
死んだほうが良かった?
その言葉を聞いて私の中で何かがぷちっと切れた。
「じゃあ、死ねば良いじゃないですか! でも私の知らないところで死んで下さい。言っときますけど、その場面に私が直面したら、きっとまた同じ様に助けるわ。目の前に救える人がいたら何度だって同じことをするわ! あなたもそうでしょ? だから、魔物からあの少年を身を挺して守ったんでしょ? 世の中にはね、生きたくても生きられない人がいるんです! 死にたくないのに死ぬ人がいるんです! あなたは生きてるじゃない!未来があるじゃない!」
息継ぎもせずに一気に言葉を吐き出した。
怒りのためか哀しみのためか体の震えが止まらない。
そして私はいつの間にか、ガイモンさんの腕の中にいた。
「マリア、わかったから、もう良い…」
ガイモンさんが私の背中をトントンしながら優しく言った。
そんな私達を背中にかばいながらルー先生がデリックさんを睨みつけた。
「あんたの命が助かって、少なくともここにいる人達は喜んでいたよ。あんたが助けたあの少年もね。でもあんたが死にたいというのならオレ達は止めない。好きにしたらいい。金輪際、お嬢様に近づくな」
そう男言葉で言い切った後、私とガイモンさんに微笑みながら「さぁ、もう今日は帰りましょう」と言った。
デリックさんの言葉に心が悲鳴をあげる中、ああ、ルー先生は怒ると男言葉になるんだなぁと頭の片隅で思いながら促されるままに帰路についた。
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