第39話 学園見学②

 おー! うまうま。

 例によってなんだかよくわからない料理名だがどれもこれも美味しいです。


 私のお腹事情を察した皆さんは笑いながら円卓に案内してくれた。


 ビュッフェスタイルと言っても自分達で料理を取りに行く訳では無く、給仕の人に注文して持ってきてもらうシステムのようだ。


 ビュッフェって自分であれこれ選びながら盛り付けるのが醍醐味なのに残念だ。

 でも折角なので遠慮はしません。



「ちょっと、マリア様ったらそんなに食べられるの?」

 私の前に並べられたお料理の数々に右隣に座っていたルー先生が目を丸くする。


「心配しなくてもデザートの分の余力は残してますよ?」


「もう、そんな心配なんてしてないわよ」


「ちゃんとデザートのことまで考えてるなんて。さすが、マリアだね。えらいぞ」


 左隣のアンドレお兄様のその言葉にルー先生がため息をつきながら一言。


「アンドレ様、そこは兄としてビシッと言わなきゃよ。こんながっついた令嬢なんて嫁のもらい手が無いわよ」


 な、なに? 嫁に行けないだと?


「ああ、大丈夫だ。マリアは嫁になんて行かなくて良いぞ。僕がずっと養うから安心して」


 それ、まったく安心出来ません。


「僕は良く食べる女の子の方が好きですよ。マリア様は本当に美味しそうに食べるから見てるとこっちまで幸せな気分になります」


 そうレオンさんが笑顔で言うと、女性陣が猛烈な勢いで食べ始めた。


 おお、皆さんレオンさん狙いなんですね?




 テーブルについて早々、料理がくるまでの間にレオンさんが自分の友達を一人一人紹介してくれた。


 この学園は身分制度が通用しないというだけあって家名は名乗らないのが慣習で皆名前で呼び合っているらしい。


 パクパクとお料理を堪能しながら先ほどレオンさんが紹介してくれた内容を反芻する。


 まずは男性陣、緑の髪に薄茶の瞳のブランドンさんは、ピアノ専攻。先ほど、手を振っていた少年だ。

 水色の髪に深い紺色の瞳のウォルターさんは、チェロ専攻。

 蜂蜜色の髪に淡い水色の瞳のジェイクさんは、ヴィオラ専攻。


 そして女性陣、長い金髪に水色の瞳のセシリーさんは、レオンさんと同じヴァイオリン専攻。なんとジェイクさんとは双子の兄妹らしい。

 オレンジ色のセミロングヘアーに明るい茶色の瞳のディアナさんは、ヴィオラ専攻。

 赤い髪の縦ロールにエメラルドグリーンの瞳のエミリアさんはピアノ専攻。


 私達も簡単に名前と今回レオンさんに同行した理由、すなわち、私が音楽科の学園に興味があり是非見学したいと付いて来た事、それに保護者としてお兄様と護衛のルー先生が付きそってきた事を話した。


 女性陣はアンドレお兄様とルー先生を見ると一様に顔を赤らめ、男性陣はルー先生の口からオネエ言葉が飛び出すと一斉に目を逸らした。


 どうやら身の危険を感じたようだ。

 良かったここにいる皆さんはノーマルのようだ。


 そんな中、ブランドンさんがレオンさんに向けて口を開いた。


「それにしても、すっかり体調も良くなったみたいだな。食欲もあるようだし。お前がいない間に芸術祭の品評会も終わっちゃったぞ」


 芸術祭とはどうやら前世で言う『学園祭』のようなものみたいだ。


 生徒の保護者や芸術の方面で活躍する方達を招待して日頃の成果を発表するらしい。


 もちろん、この学園の支援者である王妃様も来場したようだ。

 それにくわえて今年は第一側妃様も観覧されたようで例年にない賑わいだったとか。


 その中でも毎年、各科で素晴らしい活躍をした生徒を投票する品評会がある。


 ここ2年、音楽科の最優秀賞はレオンさんがさらっていたが今年は不参加だったのでヴァイオリンの部の優秀賞はセシリーさんが音楽科全体の最優秀賞はジェイクさんに決まったようだ。


「今年はレオンが不参加だったから、たまたまだよ」

 そう言いながら頭をかくジェイクさんにレオンさんが当たり障り無い返答をしているのを聞きながら他の皆さんの会話に耳をすます。


 もちろん食べる手と口は休めずに。

 隣でルー先生がため息をつきながらソースが跳ねて汚れた私の手を拭いてくれた。


 あ、すみませんね。


「それにしてもレオンが突然、学園に来なくなったもんだからお前のファンクラブの子達が騒いで大変だったんだぞ」

 そう言いながらレオンさんの左肩をポンポンと叩くのは水色の髪に深い紺色の瞳のウォルターさん。


 おお、レオンさんにはファンクラブがあるんだ。


 これは今のうちにサインをもらっておくか。

 そのうちに手の届かない有名人になってしまうかもしれないものね。


 あれ? この世界にサイン色紙なんてあるのかな?

 そもそも有名人にサインをもらう文化があるのかも不明だな。

 なければ作っちゃう? レオンさんのサイン入り色紙、写真入りとか売れそうだな。


 ああ、何でも商売に結び付けてしまう自分が恐ろしい。



 レオンさんはいつもこの6人の友人達と行動を共にしていたようだ。


 事件の日の夕飯を一緒に取ったのもこの6名。

 つまり、この6名が容疑者だ。


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