第34話 さぁ、錬金術の時間です


「おはようございます! ガイモン師匠。今日からよろしくお願いします」


「お、おい、その師匠ってのは止めてくれ。お前の侍女が睨んでるじゃないか」


 ここは裏庭の私達の工房。


 今日からガイモンさんの錬金術の授業です。

 私に付き添ってきたナタリーが先ほどからガイモンさんをガン見している。


 これは、ランさんからガイモンさんとの初対面での対応を聞いて様子を見に来たパターンか。


 ランさんは結構怒ってたからなぁ。


「ナタリー、ここにいなくても大丈夫よ。シュガーの世話を頼んでも良い?」


「はい。マリアお嬢様。では、ガイモンさん、くれぐれもお嬢様に失礼のないようにして下さいね」


 ナタリーはそう言うと一礼をして工房を後にした。


「はぁ、俺ってこの屋敷の人達に嫌われてるな。まあ、メアリーにはみんな良くしてくれてるから良いか」


「嫌われていると言うより、まだガイモンさんのこと知らないから遠巻きにしてるだけですよ。アンドレお兄様に至っては若い男性が私の近くにいるのが面白くないだけでしょう。あ、ルー先生はその範疇から外れるので例外です」


「あー、まあ、そうだろうな。じゃあ、始めるか。まず、錬金術だが、誰でもできるものではない。主に土属性を持っている者にしかできないと言われている。その点はマリアは問題ないな。あと、魔法陣を構築するのは出来るんだよな?」


「あ、はい。出来ます」


「よし、じゃあ、まず、錬金術の基礎、変換術からだ。この石の形を変えることからやってみるか」


 用意されたのはこの屋敷の敷地内で拾った石。


 紙にうさぎの形に変換する術式を現代文字で構築し魔法陣として組み立てる。


 その上に石を置いてうさぎの形をイメージしながら手をかざし魔力を込める。


「あ! うさぎの形になった!」


「おお、すごいな。一発で出来ちまうなんて」


 その後、石を使って色々な物に形を変えてみた。


「今ここで使用した魔法陣はイメージを形に誘導しやすくするための物だ。いわば変換ツールだ。慣れてきたら魔法陣なしでイメージだけで形を変えて見ろ」


 そう言われて今度は魔法陣を構築せずに石に魔力を込めながら犬の形をイメージしてみた。


「マリアは凄いな。これも一発で出来るのか」


 ちゃんと犬の形になった石を見ながらガイモンさんがつぶやく。


 すると、一番最初にうさぎの形に変換した石がもとの楕円の形に戻っていた。

 あれ? さっきまでうさぎの形だったのに?


「ああ、もとに戻ったな。変換術で変換した物は術師が込めた魔力の干渉が無くなると変換前の物質に戻るんだ。この現象を阻止するために条件づけした魔法陣を入れ込んだ魔石を核として使うのが錬金術だ。まあ、一般的には変換術と核魔石の術を含めて錬金術と呼ばれているがな。今日はまず変換術の練習だな。核魔石の作成は変換術をマスターしてからだ」


 その後は錬金術の基礎である変換術を極めるために物質の性質の異なるものを変換する練習をした。


 そうこうしているうちにお昼の時間になり、ナタリーとメアリーちゃんが軽食を工房まで持ってきてくれた。

 大きなバスケットを開けると六人分はあるんじゃないかと思われる量が入っていた。


 サンドイッチやお肉の串焼き、サラダにフルーツまで盛り沢山だ。


「わあ、美味しそう! みんなでここで食べましょう」


 この工房、キッチンも増設、古いダイニングテーブルもそのまま活用したのでその気になれば料理してここで食事だって出来るのだ。


 そうだ、錬金術ができるようになったらお手製の冷蔵庫も造ってみよう。

 この屋敷の厨房にも冷蔵庫はあるようだけど、とっても高価な物らしいので、お父様におねだりは出来ないからね。


 ナタリーがみんなの分のお茶を用意してそのまま立ち去ろうとしたので呼び止めた。


「待って、ナタリー。 ナタリーもここで食べて行って。 ね? お願い」


 ガイモンさんの人となりを見てもらうのにはやっぱり一緒に過ごすのが一番だものね。


 と、言うことで4人で工房のダイニングで昼食です。



 んー

 うまうまだ。

 きっとこれに使われいる食材も魔物だね。

 この串焼きのお肉、王都のレストランで食べたビガンゼに違いない。

 程よい塩味とガーリックの風味が絶妙だ。


 あれから、屋敷の図書室で魔物図鑑なるものを発見したが未だページを開けず今に至る。

 もうちょっと精神力を鍛えてからトライするつもりだ。

 だって幸せなお食事タイムに影響すると悲しいもの。


「メアリー、ちゃんと野菜も食べろ。 ほら、皿出せ取り分けてやる」

 早速、かいがいしくメアリーちゃんの世話を焼き始めるガイモンさん。


 おお、今日はオカンに早変わりですね。


「や、やだやめて、ガイ兄さん。ブロッコリーは嫌いなんだってっば。それに自分の事は自分でやるからほっといてちょうだい」


 対するメアリーちゃんは反抗期。

 うんうん、あるよねそう言う時期。

 妹の美月も大変だったな。


 あっ、これ美味しい! 

 あの時ルー先生が食べてたサンドイッチに似てる。

 えっと、ズイドンとオモオモだっけ?

 これはどっちかな? 見た目白身魚のフライみたいだ。


 サンドイッチを凝視しながら眉をひそめ考えていると、目の前でガイモンさんがメアリーちゃんのお皿にブロッコリーを取り分けているところだった。


「ほら、食べろ。ブロッコリーは栄養があるんだぞ。たくさん食べて大きくなれ」


 あは、本当に…


「お母さんみたい…」

 あ! しまった声に出しちゃった。


 その途端、メアリーちゃんが顔を赤くし、ガイモンさんは固まった。

 そしてなんとナタリーは私の手を握りしめて泣き出した。


 え? え?

 なんで? 今の私の言葉にナタリーが泣く要素があったの?


 あ、もしかしてナタリー、自分のお母さんを思い出しちゃった?

 何と言ってもナタリーもまだ17歳だものね。


 ナタリーのお母さんは確か、リシャール領の屋敷で侍女長やってるんだっけ?

 私が引っ越さなかったらお母さんと離れることは無かったんだよね。


 お母さんに会いたくなっちゃったかな?


「マ、マリアお嬢様、私が至らないばかりに…すみません」


「大丈夫、大丈夫よナタリー。気にしないで」


 お母さんに会いたくて涙するナタリーを誰も責めたりしないよ?

 むしろ私の方こそ会わせてあげられなくてごめんね。


「ほら、ナタリーもたくさん食べて? 心が寂しいときは美味しいものを食べると元気になるのよ。私はいつもそうしているわ」


 私の言葉を聞いたナタリーがさらに号泣。


「マリアお嬢様! 私、ちょっと厨房に行って来ます!」


 ナタリーはそう言うと、涙と鼻水をだーだーと出しながら走り去ってしまった。


 何だったんだ…あれ?

 涙はまだしも鼻水はアウトだぞ、ナタリー。


 その場に残された私達3人はポカンとナタリーが去った方を見ていた。


 そして少ししてから戻ってきたナタリーは沢山の焼き菓子を盛り付けた大皿を持ってきたのだった。


 な、なるほど、心の寂しさをこのデザート達で満たすつもりか。


「さぁ、マリアお嬢様、たくさんお食べ下さい」


 いえ、私の心は寂しくなので大丈夫です。

 むしろナタリーが食べなさいよ。


 私はせっせとナタリーのお皿にカップケーキやクッキーを取り分け、なぜかナタリーは私のお皿に取り分ける。


 一向に量が減らないのでメアリーちゃんのお皿にもせっせと取り分け、甘い物はちょっと、と後込みするガイモンさんのお皿にも取り分けた。


 元はと言えば、ガイモンさんの言動がナタリーの母恋し心を刺激したんだ。


 責任持って食べろや~


 ああ、お腹がはちきれそうだ。

 夕飯は食べられそうもないな…





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