第16話 死亡フラグが折れた後

 さて、私の死亡フラグをポッキリとへし折った後ミリーさんとビクターさん、あ、こいつらはもう呼び捨てで良いよね?


 ミリーとビクターの二人は騎士団に連行された。

 翌日から取り調べが行われ、犯行と動機を自供。


 ことの始まりはミリーがお父様に懸想していたこと。

 それを協力してやるとビクターがミリーに話を持ちかけたらしい。

 ビクターはミリーの遠い親戚の間柄で幼少の頃からの知り合いだという。


 まずは邪魔者を消すようにけしかけた。

 やはりあの領地の森で起こった悲劇はこいつらの手で仕組まれたものだった。


 お母様には魔力封じの魔道具をマリアーナには魔物寄せの魔道具を仕込み魔物に襲わせた。


 母親が子供を庇うのを計算ずくでの犯行だ。


 その後、ミリーはお父様の妻の座をビクターはリシャール家の財産狙いでこのお屋敷に入り込んだ。


 自分達がこの屋敷で動きやすくなるように、前任者のヘンリーさんとリンダさんの一人息子を人質に取り、この屋敷を出て行くように脅したらしい。


 使用人達に睡眠薬入りのお茶を飲ませていたのは夜遅く帰ってくるお父様のお世話を自分一人でやりたいためだった。

 何度か色仕掛けで迫ったようだがお父様は歯牙にもかけなかったようだ。


 そして私が狙われた訳はお母様に生き写しのこの容姿が目障りだったと。

 私がいるためにお父様がお母様のことを忘れられず、自分に振り向かないのだとミリーは思ったようだ。


 私にお父様の愛情を疑わせるようなことを吹き込んでいたのは落ち込む私を見て憂さ晴らしをしていたらしい。


 10歳の子供に何てことするんだ。

 お前らは仲良く地獄に落ちろ!


 そしてお父様は、自分の最愛の妻が死んだのは事故ではなく仕組まれた殺人で、しかも原因は自分にあると思い錯乱した。


 騎士団の取調室でビクターを瀕死の状態まで殴り続けたのだ。

 事件の全容がまだわかっていない状況下のため部下達が必死に止めたらしい。


 憔悴しきったお父様を心配してジークフィード様がリシャール邸に馬車を走らせてくれた。


 その時にジークフィード様がミリーとビクターの自供の内容を教えてくれた。


 私が子供だと言うことで話をするのをためらっていたが、命を狙われた私には聞く権利があるとごり押しして話してもらった。


 一緒にアンドレお兄様も聞いていてぎゅっと握りしめた拳が小刻みに震えていたのを見て胸が痛かった。


 母親の死を、一年以上かけて乗り越えたに違いない14歳の少年の心情を思うと、震える拳をソッと両手で包んであげることしか出来なかった。



 さぁ、お父様を迎えに行きましょう。

 馬車の中で並んで座るアンドレお兄様の顔色が悪いことに気が付いた。


 馬車酔いかな?

 おう、何だか私も、もらい酔いしそうだ。

 シュガーは部屋に置いてきたから、モフモフ出来ないのだ。

 手持ち無沙汰を解消するべく、アンドレお兄様の手をソッと握るとビクッとされた。


 大丈夫?の気持ちをこめて見上げると今度はアンドレお兄様の方が私の手を握りしめて口を開いた。


「マリア、ごめん。僕はダメな兄だ。母上が亡くなって自分の弱い心を守るのに手一杯だった。王都の屋敷でマリアが苦しんでいたと言うのに」


「謝らないでください。あの時はさも記憶が戻ったように振る舞いましたが、未だ記憶は戻ってません。だから苦しい思いも記憶に無いのですよ」

 そう言って微笑んだ。


 謝罪も贖罪も必要ないんだよ。

 まだ14歳の子供じゃないか。

 何も悪いことしていない君が気に病むことはないんだよ。


 さぁ、これからどうするか。

 まずはお母様が亡くなったのはお父様のせいではないと言うことを分からせなくては。


 そしてお父様とアンドレお兄様を幸せにする。

 もちろん、私もね。

 そうでなきゃ、私がマリアーナとしてここに存在する意味がないもの。


 それでは、明るい人生立て直し計画についてプレゼンといきますか。



 騎士団に着くと、ジークフィード様がお父様のいる騎士団の休憩室まで案内してくれた。


 ホテルのロビーのようにソファとテーブルが四セットほど設置された部屋の一角にお父様がいた。


 ローテーブルに両肘をついて顔を覆っている手には包帯が巻かれていた。

 おそらくビクターを殴った際に怪我をしたんだろうな。

 もう、悪い奴殴って自分も痛い思いしてるんじゃ本末転倒だ。


 お父様の前のソファには筋肉隆々のイケオジが心配そうな顔をして見守っていた。


 私達が部屋に入ると筋肉イケオジは立ち上がり挨拶をしてくれた。


「黒の騎士団長のセブルス・ウオーヘンだ。ご足労願って申し訳ない」


 黒の騎士団? へぇ~赤とか青とかもあるのかな?


「リシャール伯爵家が長男、アンドレ・リシャールです。父がお世話をおかけしました」


「マリアーナ・リシャールと申します」

 私もお兄様に習って頭を下げた。


「父は僕達が連れて帰ります」


 アンドレお兄様の声に反応してお父様がノロノロと顔を上げた。


「アンドレ? それにマリアまでなんでここに?」

 泣きはらした瞼と赤い目をしてこちらを見るお父様に胸が詰まる。


 思わず駆け寄って抱きしめた。


「帰りましょう、お父様」


「マリア・・・すまなかった。君の屋敷での状態に気づいてあげられなかった。私は父親失格だ」


 違うよ。悪いのはミリーとビクターであって他の誰でもないんだよ。

「お父様は何も悪くありません」


「いや、実際アメリアが亡くなったあと現実を受け止めきれない私は仕事に逃げたんだ。あの悪魔達のいる屋敷に君を残して。私はどうしようもない馬鹿者だ。謝っても、謝っても、謝りきれない。君まで失っていたらと思うと震えが止まらないよ。マリア、私は君からお父様と呼ばれる資格なんかないんだ」


「それは違いますよ、お父様。では、例え話をしましょう。商人の積み荷の馬車が盗賊に襲われたとしましょう。その時、悪いのは盗賊ですよね? その道を選んだ商人が悪いと言う人は一人もいないわ。だって商人は信頼している護衛からこの道は安全です、この道を通りましょうと言われていたんですもの。積み荷は盗まれてしまったけど命が助かった商人はまた商売が出来ます。お母様が亡くなったのは到底許せませんが、あんな奴らのせいで、私達のこの先の人生が暗くなるなんてそれこそ奴らの思うつぼですよ。私達はお母様の分まで幸せにならなきゃいけないんです」


「マリアーナ・・・」

 お父様はそう呟くと私を強く抱きしめた。

 その隣でアンドレお兄様もポロポロと涙をこぼしていた。


 うん、今はいっぱい泣いて良いんだ。

 いっぱい泣いて涙が枯れたらまた前を向けるよ。


「私達は生きているんです。未来は無限に広がってます。明るく生きるのも、暗く生きるのも自分達次第なんですよ。だったら明るく生きていきましょう。私、お父様とアンドレお兄様を必ず幸せにします」


「マリア、逆だよ。私がマリアとアンドレを幸せにするんだ。父親としてね」


「僕だって、二人を幸せにする。リシャール伯爵家長男としてね」


「ふふふ、じゃあ、みんなで幸せになれますね!」


 明るい人生立て直し計画、プレゼン成功で良いよね?



















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