第15話 さあ、犯人に自供してもらいましょう③

 私からの問いかけにランさんが自分から話をするという。

 さあ、犯人に自供してもらいましょう。


「では、ラン、睡眠薬についてご説明してもらえるかしら?」


 私がそう言うとランさんは立ち上がりみんなの顔を見渡してから口を開いた。


「私が何かおかしいと思ったのはここ1ヶ月の間です。それまでは漠然とこのお屋敷の何かが違うと言うことしか分かりませんでした。そもそも前の侍女長と執事が退職したことに納得がいきませんでした。それで私は個人的に調べ始めたんです」


 あ、あれ? これって犯人の自供なんだよね?

 何だか名探偵の推理のお披露目っぽいけど?

 って言うか、睡眠薬の説明はどうした?

 そんな私を置き去りにしてランさんの話はつづく。


「最初は仕事終わりに侍女長のミリーさんが私達に労いの言葉とともにお茶を振る舞ってくれるのがとても嬉しかったんです。疲れが取れるようにと高価なお砂糖入りの紅茶でした。事実そのお茶を飲んでベッドに入ると途端に寝てしまうほどです。そのお茶がおかしいと思いだしたのは旦那様に最近のマリアお嬢様の元気の無い様子を報告しようとお帰りを待っている時でした。」


 ランさんの話によると、私の様子を報告しようとしたところミリーさんが自分が旦那様に報告しておくからと言われたそうだ。


 でも何となく自分からも直接言っておきたくて寝ないで待っていようと思ったらしい。


 しかし、例のごとくミリーさんの入れてくれたお茶を飲んだ後、睡魔に襲われ寝てしまったという。


 ふぅ、ようやく睡眠薬の話になりそうだよ。


 あれ? でも話から思うにランさんも睡眠薬の被害者ってことだよね?


 えっと、ここからミリーさんとランさんが共犯者になるって話に続くのかな?


「なんだと?! マリアの元気がない?! そんな重大な報告をなぜしなかった?!」


 オヤジー突っ込むとこそこじゃなーい!

 今、問題なのは睡眠薬の出所なの!


「父上! ちょっと黙ってて下さい」


 ナイス! アンドレお兄様。


 さあ、お父様が大人しくなったところでランさんのお話しを聞きましょう。


 ミリーさんのお茶に疑問を持ったランさんはその後、お茶を飲んだふりをしていたらしい。


 案の定、眠くなることが無かったのであのお茶に睡眠薬が入っていると疑い始めた。


 そこへ、私がバルコニーから転落、軽症のはずなのに目が覚めない事にミリーさんが何らかの関与をしていると疑っていたということだ。

 私の記憶が戻ったらまた狙われると思ってナタリーさんに様子を見ているように言っていたようだ。


「ひどいわ! ランさん。なんの証拠があってそんな事言うの? 私は前任のリンダさんからみんなの仕事を評価して労うようにとの教えに沿ってお茶を振る舞っていただけだわ」


「証拠はあります。王都中の薬師の所を回って情報を集めました。あなたは足が着かないように一カ所から大量に睡眠薬を購入するのではなく五カ所の薬師から睡眠薬を購入していました。これが購入伝票の写しです。ただ分からないのは何のために使用人達に睡眠薬を盛ったのかと言うことです」

 ランさんはそう言うとエプロンドレスのポケットから五枚の紙を取り出した。


 すると、途端にミリーさんがランさんに飛びかかりその伝票を奪い取った。


「こんなものなんの証拠にもならないわよ! この睡眠薬は自分のために購入したのよ。だいたい私が睡眠薬を入れたところ見たわけじゃないでしょう? そう言うのをね、言いがかりと言うのよ。旦那様、この者をクビにして下さいませ」


 そうか、ランさんはミリーさんが睡眠薬をどこから購入しているのか調べるために薬師の所に行ってたのか。

 共犯どころか味方だったんだ。


「ミリーさん、私は睡眠薬のことだけを調べていたわけではありませんよ。あなたが侍女長に就任した経緯も調べました。このお屋敷の使用人達でさえも前任の侍女長と執事が突然辞めたことを不思議に思ってました。後任にミリーさんとビクターさんを推したのは本当に前任のリンダさんとヘンリーさんなんでしょうか?」


「うむ、それに関しては本当だ。ヘンリーとリンダは急遽、田舎に行くことになったのでこの者達を後任にと私の所に来たんだ」


 うーん。そうなんだ。こりゃそのヘンリーさん夫婦に会って話を聞かなきゃなんないか。


 いや、でもそんなの待ってちゃ私の死亡フラグがいつまで立っても折れないぞ。


 ここはちょっとカマかけるしかないか。


「それにしても、私をあのバルコニーから落とすのは大変そうだったわね? ミリー?」


「は? 何を仰っているのかわかりません。だいたいあの時、お嬢様は眠って・・・」


 そこまで言ってハッと手で口を押さえるミリーさん。


「ええ、そうね。睡眠薬入りの紅茶を飲まされて眠らされていたのよね。おかげで落とされるときに悲鳴もあげることが出来なかったわ」

 私の言葉が終わらないうちにミリーさんを取り押さえるジークフィード様。


 さすがです。


 ミリーさんの共犯がランさんじゃ無いとすれば一番怪しいのはミリーさんが侍女長になった時期にこの屋敷に入り込ん人物だ。


 そこで私の隣に立っているビクターさんに向かって言った。


「ああ、ビクターは男性ですものね。10歳の小娘をバルコニーから落とすなんて簡単よね?」

 ビクターさんはそう言う私を睨みつけたかと思ったらいきなり後ろから首に腕を回してきた。

 あまりにも素早い動きに抱っこしていたシュガーがスルリと床に飛び降りた。


 く、苦しい。


「「マリア!」」お嬢様!」」

 お父様とアンドレお兄様、ランさんとナタリーさんの声が重なる。


「おい、お前! ミリーを離せ! さもないとこの小娘の首をへし折るぞ! おおっと、言っとくが俺に攻撃魔法は効かないぞ! 攻撃魔法除けの魔石でガードしてるからな」


 ジークフィード様に向かってそう言うとビクターは後ろから私の首を締めるように右手を当て、左手は私の両手ごと体を拘束した。


 見た目は小娘、中身はアラサーですからね。

 なめてもらっては困りますよ。


 私はビクターの足を踵に体重を乗せ思いっきり踏みつけ、左手の拘束が緩んだと同時に首を締めいてたやつの右手の親指を両手で渾身の力を込めて外側に曲げた。


 力のない女性の護身術です。


「ギャー!」悲鳴と共に首の締め付けが解かれた。


 その隙にいつの間にか移動していたお父様がビクターを取り押さえ、これまたいつの間にか移動していたアンドレお兄様がビクターの顔や体をボコボコに。


「僕の大事なマリアになに気安く触れてるのさ」


 「アンドレ、こいつには聞きたいことが山ほどある。死んだら聞けないからな。その辺にしておけ」


「ちっ、仕方ない。マリア! 大丈夫か?!」


「はい。大丈夫です。お父様とお兄様がすぐに来てくれたので」


「私達だけではないようだよ。ほら、ビクターの足にシュガーがかじり付いてる」


 え? あ、ほんとだ! シュガーは小さい口を目一杯開けてビクターの左足にかじり付いていた。


「シュガー、おいで。そんな汚いものお口にしたら病気になっちゃうよ」


「ワン!」


 これで私の死亡フラグ、ポッキリ折れたよね?


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