第14話 さあ、犯人に自供してもらいましょう②

 食堂の入り口付近に立っていたナタリーさんからシュガーを受け取り抱っこする。


 しばしシュガーのモフモフを堪能して私は入り口をふさぐように立ち、ミリーさん、ランさん、ナタリーさんには入り口とは反対側のアンドレ君とジークフィード様が並んで座っている列に三人分席を開けて座ってもらった。


 リシャール家の面々、客人と同じテーブルに着席する事にとても抵抗されたが執事のビクターさんの後押しもあって無事着席。

 ちなみにお父様の席はいつもと同じ上座のお誕生席だ。


 これでみんなの顔が見られる。

 ビクターさんだけは私の隣で立っているけどね。


 やっぱり執事ともなると主従関係の線引きは厳しいようだ。

 私はみんなの顔を一通り見渡すと口を開いた。


「皆さん、お集まりいただきありがとう御座います」

 私がそう言うとお父様、アンドレ君、ジークフィード様以外の方達が一斉に息をのんだ。


 それぞれに驚きと喜びの声をあげる中、私は冷静にミリーさんとランさんの表情を伺う。


「声が出るようになったので私のお話を皆さんに聞いて頂こうと思い、集まってもらいました」


「マリアお嬢様、記憶が戻ったのですか?」そう言うランさんに私はにっこりと笑顔を向ける。


 戻ってないよ。でもやっぱりランさんは私の記憶が戻ったのか気にかかるんだね。


 ランさんの質問は笑顔でスルー。


「お父様。お父様はお母様が亡くなったのは私のせいだと思っていますか? 私のことを疎ましく思っているのでしょうか?」


 いきなりの私の質問にお父様は顔を青くして叫んだ。


「マリア?! 何を言っているんだ、そんな事あるわけ無いじゃないか!」


 うん、分かってるよ。今ならね。

 でもマリアーナは本当にそう思っていたんだよ。


「そうでしょうか? ではどうしてこのお屋敷にたまにしか帰って来ないのでしょうか?」


「え?! 帰ってないんですか? 総団長、遅くまで仕事していつもあんなに急いでどこに帰っているんですか? まさか、女の所ですか?」


「父上! 仕事で帰りが遅いだけかと思ったら女性の所とは穏やかではありませんね。マリアの教育上、不適切です。マリアは僕が育てます。リシャール家当主の座をサッサと退いて下さい」


 ジークフィード様とアンドレお兄様の追求に今度は顔を真っ赤にしてお父様が大声をあげる。


「お、おい、まてまて! 女ってなんだ?! 誤解だ!! 私は毎日ここに帰ってきてるぞ!」


 うん。それもわかっているよ。

 でもそう誤解をするように私に仕向けた人がいるんだよ。


「お父様はこのお屋敷にたまにしか帰ってこなく、それはお母様が亡くなる原因を作った私の顔を見たくないからだと思っていました」


「違う!! マリアのことを疎ましく思うはず無い! こんなに愛しているのに心外だ。この屋敷にも毎日帰ってきてる。毎日マリアの可愛い寝顔を愛でてからキスするのが至福のひと時なんだぞ。あどけないマリアの寝顔の頬を撫でると可愛い小さな口からふぅって息を漏らすんだこれがたまらなく可愛いんだ」


 ん? なんだかお父様から変態臭がする。

 気のせいかな?


 ジークフィード様がドン引きしている隣でアンドレお兄様が声をあげる。


「父上! マリアの寝顔を愛でるなんてなんて羨ましいことしてるんですか。僕が今この屋敷に帰ってきてるんですから僕も一緒に誘うべきでは無いですか? だいたい、マリアの可愛い寝顔を独り占めなんて許されないことです!」


 はい、変態増殖中です。


「えーこほん。まあ、それは置いといてですね」


「置いといて良いのか?」ジークフィード様の小さな呟きを無視して私は話を続けるべく言葉を発する。


「私はお父様が私の事を疎ましく思っていて、私の顔を見たくないのでお屋敷にはたまにしか帰ってこないのかと思っていました。私にそう思わせるように仕向けた人がいたからです。そうよね? ミリー?」


 そう言ってミリーさんに目を向ける。


「はい? なんのことか私には分かりかねますが」

 やっぱりしらを切るつもりか。


「そうですか。では私の記憶が無いときにあなたはお母様の亡くなった原因を話してくれましたね。その時になんと言ったか覚えてますか?」


「確か、マアリお嬢様の母上は一年前にお亡くなりになったと教えて差し上げたと思いますが、それが何か?」


「ええ、概ねそうですね。ですが、私はあなたの言葉を一字一句覚えています。あなたは私にこう言ったんです。『お嬢様を奥様がお亡くなりになり、旦那様はそれを忘れるようにお仕事に打ち込みこのお屋敷に帰って来るのは、』と」


「何だと! ミリー、それは本当か?!」


「いいえ! 私はそのように言った覚えは御座いません。マリアお嬢様は記憶喪失でしたので記憶が曖昧なのだと思います。私を信じて下さい。旦那様!」


 うーむ。なかなかしぶとい。

 ここは、ハッタリかますしかないか。


「記憶喪失ね。私の記憶は曖昧ではありませんよ」といって笑顔を向けるとミリーさんが目を見開いた。

 ちょっと、動揺し始めたかな?


 ここでお父様の反応を確認する。

 実の娘の話と信頼している使用人の話、どっちを信じるんでしょう?

 眉毛を寄せて何やら考えているようだが、ここでミリーさんの肩を持つようならその程度の人だと諦めよう。


 では、今度はランさんに揺さぶりをかけますか。


「睡眠薬」


 私が唐突に口にした単語に今度はハッキリと驚きの表情をするミリーさん。


 あれ? なんかランさんは嬉しそうな表情?

 頭の中の疑問は顔には出さないようにランさんに笑顔を向ける。


「ランは薬師の所に行っていたのよね? 睡眠薬のことについて何か知っているのではないかいしら?」


「やはり、マリアお嬢様は記憶がお戻りでしたか。では、私からお話させていただいてもよろしいでしょうか?」


 おお? これはもしや犯人からの自白か?

 やっぱり私の記憶が戻ったから逃げられないと思ったか。

 では、ことの顛末について自供していただきましょう。



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