第13話 さあ、犯人に自供してもらいましょう①

 只今、王城からの帰宅途中。


 お父様が仕事を早めに切り上げてくれたのだ。


 来たとき乗ってきたリシャール邸の馬車は帰してしまったので、ジークフィード様が御者役を買って出てくれ騎士団の馬車に乗り込みました。


 今までシュガーの面倒を見てくれていたので離れがたかったのだろう。


 あ、子犬の名前は『シュガー』に決定。

 白い子犬だから『シュガー』ね。

 確認したところ男の子のようだけどね。


 うん、ネーミングセンスがないと言うことなかれ。

 だってフワフワの白い毛はまるで綿あめみたいなんだよ。

 舐めたらきっと甘いはず。


 馬車の中ではシュガーは大人しく私の膝の上。

 大人しくなかったのはお父様とアンドレお兄様だ。


 4人乗りの馬車の座席にどう座るかでもめていた。

 私は馬車酔いを防ぐため、進行方向が前になるように早々に腰掛けた。


 その隣にアンドレお兄様が座ったのだが、お父様がそこに座りたいと言い出した。


「すみませんが父上、僕は馬車酔いをするのでこの席は譲れません」と言うアンドレお兄様にお父様が対抗して声をあげる。


「奇遇だなアンドレ。実は私も馬車酔いがひどいんだ。だから代わってくれ」


「父上、仮にも騎士団の総団長が馬車酔いなんてするわけないですよね?」


「いや、いつもはしないが今日はするんだ」


 今日は?

 ああ、そうかお父様はきっと疲れているんだ。

 だって神官長様からのお説教を正座して一時間も聞いていたんだもんね。


 しょうがないここは見た目は子供、中身はアラサーの私が代わってあげよう。


「お父様、私がこちらに座りますね。さあ、どうぞアンドレお兄様のお隣にお座り下さい」


 こうして座席問題を解決して今に至る。

 お父様とアンドレお兄様が涙目だったのは乗った瞬間から馬車酔いしていたのかもしれない。


 私は行きに馬車酔いをしたのが嘘のように気分が良かった。

 シュガーをモフモフしているからだろうか?



 さて、この後、お屋敷に帰ってやることは夕食後に皆を集めてミリーさんとランさんへの疑いを暴露すること。


 マリアーナの記憶はないが、さも記憶が戻ったように見せかけて相手がボロを出すように誘導する作戦だ。


 本当はキッチリと証拠を押さえたいところだが何せマリアーナの記憶が無いことと、死亡フラグを一刻も早くへし折りたいため強行突破といかせてもらいましょう。


 もし、しらを切り通されてもマリアーナに父親の愛情を疑わせるように仕向けたことは事実だ。


 そこをついてお父様がミリーさん達を疑いの目で見てくれれば、事態は進展するに違いない。


 お父様とお兄様には私が声が出るようになったことはお屋敷のみんなには内緒にしてほしいと言ってある。

 驚かせたいからと。


 前もってお父様とお兄様にはミリーさんとランさんへの疑いを言うべきかと悩んだが、話したと同時にミリーさんたちに突撃しそうだと思ったので止めたのだ。


 どうもお父様は微妙な心理戦には向かないようだから、巧妙にミリーさん達に言いくるめられる危険性がある。


 お兄様はことの真相が解明する前に物理的な行動に出そうなのでこちらも却下。


 無駄にリシャール家から犯罪者を出すわけにはいかないからね。

 まあ、お兄様なら後からミリーさん達の犯行の証拠をでっち上げそうだけど。


 あくまでも動機と犯行の自白が私の描くシナリオだ。


 不測の事態に対応してくれることを期待してジークフィード様にも屋敷に待機してもらおう。


 なんてったって、騎士様だものね。


 そのために馬車の御者をかって出てくれたお礼に夕食を一緒にどうかと提案してみた。


 当の本人はものすごく拒否していたけど、ここは、お父様にお願いして上司命令で引き留めてもらった。


 ごめんね。

 ジークフィード様、もう少し私にお付き合いください。



 子犬のシュガーをナタリーさんに預けて和やかに夕食を頂いた。


 最初は遠慮ぎみだったジークフィード様もリシャール家のシェフのお料理が口にあったようで美味しそうに平らげていた。


 デザートも食べ、みんなで食後のお茶を頂いている時にミリーさん、ランさん、シュガーを抱いたナタリーさんが食堂に入ってきた。


 執事のビクターさんが呼んできてくれたのだ。


 始終上機嫌なお父様の様子から、なんの疑いもなく入室してきた関係者達。


 さあ、殺人犯との心理戦の幕開けといきましょう。





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